【コラム/細野真宏の試写室日記】どこよりも早い日本アカデミー賞の結果予想!
2021年2月4日 14:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末の動員ランキングについては、それほど大きな変動はなさそうなので、1月27日に発表されたばかりの日本アカデミー賞のノミネート作品について、個人的な考察をしてみます。
まず、私は日本アカデミー賞協会の会員にはなっていないので投票権はありません。そのため、しがらみ無く自由に考察が可能だと思います。
実は、これまで私は本場のハリウッドのアカデミー賞には大いに関心がありましたが、日本アカデミー賞については、あまり関心がありませんでした。
ただ、昨年の2020年【第43回】から急に注目するようになりました。
それは2019年における私のイチオシ映画は「翔んで埼玉」でしたが、どうせ日本アカデミー賞とかには引っ掛かりもしないだろう、と考えていました。
ところが、2020年【第43回】の日本アカデミー賞で、「翔んで埼玉」が12部門で最多12ノミネートされたのです!
ちなみに、私が「翔んで埼玉」を推していたのは、「細野真宏の試写室日記 第22回」(https://eiga.com/extra/hosono/22/)の冒頭の日記などにも記してあります。
映画.comの駒井編集長は、圧倒的に「邦画より洋画派」でしたが、この2019年3月1日(金)の会食を機に「翔んで埼玉」のファンになって、知人等にも薦めまくるくらいにまで変わってくれました。
おそらく「翔んで埼玉」を機に、邦画にも大きな興味を持ってくれたと感じるほど、パワーのある作品でした。
このように、私は昨年に日本アカデミー賞も捨てたものではないな、と思い始めてからは気になる存在に変わりました。
中でも、2020年【第43回】の最優秀監督賞は「翔んで埼玉」のフジテレビの武内英樹監督で、日本テレビの生放送の中で「フジテレビ社員が出てきてスピーチする」という何ともシュールな場でした。
そして、最優秀脚本賞も「翔んで埼玉」が受賞し、残るは最優秀作品賞でした。
この時の最優秀作品賞は、「翔んで埼玉」「新聞記者」「閉鎖病棟 それぞれの朝」「キングダム」「蜜蜂と遠雷」の中での戦いでした。
私はもちろん、「翔んで埼玉」を推していましたが、これはおそらく、かなり割れたのだと思います。勝手な想像だと「翔んで埼玉」vs「新聞記者」の2強になった感じかと。
ただ日本アカデミー賞協会会員が「さすがにコメディ全開の『翔んで埼玉』が最優秀作品賞っていいのか?」と冷静になって、社会派の「新聞記者」に流れたのだと想像しています。
さて、今年の2021年【第44回】の日本アカデミー賞の最有力作品については、私は、前年の2020年【第43回】日本アカデミー賞の発表日(3月6日)の前から決めていました。
それは、2020年3月4日更新の「細野真宏の試写室日記 第64回」(https://eiga.com/extra/hosono/64/)に書いています。
まさに、この「Fukushima50」が作品賞、監督賞、主演男優賞(佐藤浩市)、助演男優賞(渡辺謙)、脚本賞など12部門で12ノミネートと「最多ノミネート」を果たしました。
ただ、その後、1年間多くの作品を見ていくうちに当然、出来の良いライバルも現れ、その筆頭が「罪の声」で、こちらも作品賞、監督賞、主演男優賞(小栗旬)、助演男優賞(星野源、宇野祥平)、脚本賞など11部門で12ノミネートと並んでいるのです。
この2作品は、正直なところ甲乙つけがたいものがあります。
なので、どちらが「最多最優秀賞受賞作」になってもおかしくないと思っています。
ちなみに、この2作品に次いでノミネート数が多かったのは、「男はつらいよ お帰り 寅さん」が10ノミネート、「ミッドナイトスワン」と「浅田家!」がそれぞれ8ノミネート、「朝が来る」が6ノミネートとなっています。
今回の全部門におけるノミネート作品は、当然、試写で全て見ていて、ほぼ想定内でした。
では、早速、2021年【第44回】の日本アカデミー賞の主要部門の結果を予想していきたいと思います。
まず、最優秀作品賞となるのは、以下の5作品のどれかです。
これは正直なところ、どれが選ばれても不思議ではないレベルで、全てコラムかレビューで紹介しています。
あえて選ぶと、本命「Fukushima50」、対抗「罪の声」といった感じでしょうか。
ちなみに、「Fukushima50」に関する不安は3点あります。
1つ目は、公開日がそれこそ昨年の2020年【第43回】日本アカデミー賞の発表日で、かなり期間が空いてしまっていることです。
2つ目は、まさに新型コロナウイルスの第1波の影響が直撃し、興行的に大きなダメージを受けて印象が薄くなってしまったことです。
3つ目は、原子力発電についてネガティブな批評家を中心に誤解されていることです。
この「Fukushima50」という作品は、原子力発電の是非を問うといった感じではなく、かなり中立的に歴史的な事故が描かれている点は評価に値します。
しかも、今年は、東日本大震災からちょうど10年という節目の年で、まさに私たちが直視しないといけない問題が描かれています。
ただ、あえて専門的な視点から本作を眺めると、かなり中立的な描き方ではあるのですが、実は、反対の方向への軸足が見え隠れしているのです。
なので、原子力発電に反対する人が本作を批判するのは実は矛盾した行動だったりするのが、本作の批評を見る上で興味深い現象なのです。
何にせよ、本作のような社会的に意義深い作品がその年の顔になると、後々の社会の在り方に影響を及ぼし得る意味でも、私は本作を推したいです。
次に、最優秀アニメーション作品賞となるのは、以下の5作品のどれかです。
これは、私は一択で「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」を推します。
歴代興行収入ランキングで1位になったから、とかでもなく、純粋に「作品の完成度が圧倒的だったから」です。
あえて対抗を選ぶとしたら、作品の出来としては「ジョゼと虎と魚たち」となります。
次に、最優秀監督賞となるのは、以下の5作品の誰かです。
これも正直なところ、誰が選ばれても不思議はないレベルで、全てコラムかレビューで紹介しています。
あえて選ぶと、こちらも本命「Fukushima50」、対抗「罪の声」といった感じでしょうか。
ちなみに、2010年【第33回】日本アカデミー賞で「最優秀作品賞」を受賞した「沈まぬ太陽」と、2021年【第44回】の「Fukushima50」は私の中では“対”となっている作品です。
「沈まぬ太陽」では飛行機の墜落事故を丹念に描きだし、航空業界への警鐘を鳴らし、「Fukushima50」では原子力発電所の大事故を丹念に描きだし、電力業界への警鐘を鳴らしています。
「沈まぬ太陽」の際は、木村大作監督の初監督作「劔岳 点の記」という強豪がいたので仕方なかったですが、「Fukushima50」で若松節朗監督には3度目の正直で初受賞してもらいたいところです。
TBSの土井裕泰監督も直近の「花束みたいな恋をした」での演出も良く演出手法が安定してきたことを実感できるので、初ノミネートにして初受賞があるのかもしれません。
内田英治監督、河瀬直美監督、中野量太監督も良かったので、本当に最優秀監督賞については、誰が選ばれても素直に「おめでとうございます」状態です。
次に、最優秀脚本賞となるのは、以下の5作品のどれかです。
これは、個人的には「コンフィデンスマンJP プリンセス編」も入れてほしかったのですが、仕方ないですね。
この5作品も甲乙つけがたいですが、あえて選ぶと、こちらは本命「罪の声」、対抗「Fukushima50」といった感じでしょうか。
どちらの作品も、あれだけ長い原作を要領よくまとめ上げたと思います。
完全オリジナルという点では、「ミッドナイトスワン」もあるのかもしれません。
次に、最優秀主演男優賞となるのは、以下の5作品の誰かです。
賞レースが始まったころ何かのネット記事で、「草なぎ剛と二宮和也の両方がノミネートされるのは事務所的にあり得ない」といったものを見ました。
こういう風説の流布が日本アカデミー賞の陰謀説(やらせ説)のようなものを作るので、私はこの顔ぶれを見て安堵しました。
草なぎ剛は何といっても、あの女性的なふとした笑顔などに演技を超えたものを感じましたし、二宮和也も泣きのバリエーションが流石でした。
この5人も甲乙つけがたいですが、あえて選ぶと、本命が草なぎ剛、対抗が二宮和也といった感じでしょうか。
特に表面的なところで不遇が続いた草なぎ剛には、本作の当たり役で見事に復活劇となるとうれしいです。
ただ、佐藤浩市、小栗旬、菅田将暉の受賞もあり得るレベルの激戦だと思われます。
次に、最優秀主演女優賞となるのは、以下の6作品の誰かです。
本来は5作品なのですが、長澤まさみは「コンフィデンスマンJP プリンセス編」と「MOTHER マザー」での演技が評価され、異例の6作品となっています。
今年は、私は長澤まさみの一択でしたが、こちらは2作品で割れたりして、これから行われる最終投票では不利になるケースが出るのかもしれません。
ちなみに、私が投票するのなら、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」の方の長澤まさみを推したいです。
次に、最優秀助演男優賞となるのは、以下の4作品の誰かです。
これは、作品の性質上「罪の声」には演技派が集まったので、同じ作品から宇野祥平と星野源がノミネートされています。
「沈まぬ太陽」で最優秀主演男優賞を受賞した(「Fukushima50」の)渡辺謙も良かったですし、成田凌も良かったり、こちらもかなりの接戦が予想されます。
最優秀作品賞からの流れで、もう一人の主演といえるような重要な役どころを演じ切った渡辺謙が本命なのかもしれません。
次に、最優秀助演女優賞となるのは、以下の5作品の誰かです。
これは、正直カオスです。よく分かりません。
あえて選ぶと、本命が黒木華で、対抗が江口のりこ、安田成美といった感じでしょうか。
黒木華は主演女優賞の方ではないのか、という疑問と共に、いつもの安定した演技でマイナス要素はないです。ただ、本作で特別な「何か」を見出すところまではいけませんでした。
江口のりこが「事故物件 恐い間取り」から選出されてくるとは思いませんでしたが、もし受賞したら連ドラの「半沢直樹」も込みな雰囲気がします。
安田成美は事故現場での紅一点のような存在として、男性陣とは違った雰囲気で、うまく状況を作りだせていたのは評価に値すると思います。
次に、最優秀音楽賞となるのは、以下の5作品のどれかです。
これは、私は一択で「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の梶浦由記/椎名豪の2人を推します。
正直、この計算し尽くされた楽曲のクオリティーに勝る作品は実写でも見当たりませんでした。
次に、最優秀外国語映画賞となるのは、以下の5作品のどれかです。
普通なら昨年のアカデミー賞で作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」が本命なのかもしれませんが、私は「今さら感」が拭えません。
私の本命は「TENET テネット」で、趣味的には「フォード vs フェラーリ」になってもうれしい感じです。
2021年【第44回】の日本アカデミー賞の授賞式は3月19日(金)で、果たしてその時に本当に「緊急事態宣言」が終わっているのか、も含めて注目ですね。
今回のようにノミネートされた作品は良作がそろっているので、これを参考に「見たい作品」を選んでみるのも良いかと思います。
良質な作品を選び出すのが日本アカデミー賞の最も重要な社会的意義なので。
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