007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
劇場公開日:2021年10月1日
解説
ジェームズ・ボンドの活躍を描く「007」シリーズ25作目。現役を退きジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンドのもとに、CIA出身の旧友フィリックス・ライターが助けを求めにやってきたことから、平穏な日常は終わりを告げる。誘拐された科学者を救出するという任務に就いたボンドは、その過酷なミッションの中で、世界に脅威をもたらす最新技術を有した黒幕を追うことになるが……。ダニエル・クレイグが5度目のボンドを演じ、前作「007 スペクター」から引き続きレア・セドゥ、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、ロリー・キニア、レイフ・ファインズらが共演。新たに「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」のアナ・デ・アルマス、「キャプテン・マーベル」のラシャーナ・リンチらが出演し、「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役でアカデミー主演男優賞を受賞したラミ・マレックが悪役として登場する。監督は、「ビースト・オブ・ノー・ネーション」の日系アメリカ人キャリー・ジョージ・フクナガ。
2021年製作/164分/G/アメリカ
原題:No Time to Die
配給:東宝東和
スタッフ・キャスト
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賛否分かれるようだが、私は圧倒的に賛だった。ブロスナン時代には全く興味関心を持てなかった自分を、クレイグ演じるボンドは初めて感情移入させてくれたし、心身の傷口をあらわにして走り続ける姿は本作でさらに加速を遂げていた。歴史と伝統が長く存続するにはそれなりの「時代と共に変わり続ける」姿勢と覚悟が必要だが、ある種の超人でもあり一人の脆い人間でもあるこのキャラを、荒療治とも言える展開の果て、とことん描き尽くしたところに誠意を感じる。「スペクター」に加えてもう一筆描くのであれば、やはりここまで行かなくては。一方、冒頭からダイナミックなカメラワーク、カラッと乾いた空気感に感情の粒を浮き上がらせるフクヤマ監督の演出も見応えがあった。数々の計り知れない困難を乗り越えて公開までたどり着いた本作。仲間との愛と絆が際立つボンドの姿は、自らを”家族”と称するスタッフ、キャストのあり方そのものだったのかもしれない。
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クレイグボンドの最終作として生まれた作品だけに、こういう展開になることは理解できるし、ボンドに○○がいたり○○だりすることに対して、シリーズの伝統を壊すなとか言うつもりはない。本当に。ただ、クレイグボンドがシリーズにもたらすと思われたハードで現実的という新機軸はどこかで放棄され、ボンドと関係者のみのメロドラマに終わったことには惜しかったという気持ちがある。
それよりも本作で不満なのは、後半がまったく楽しくないこと。ブロフェルドもラミ・マレックも喋ってばかりで、映画の流れが停滞してしまう。ボンド映画は傑作ばかりではなく、むしろ凡作、珍作、失敗作の宝庫だが、キャリー・ジョージ・フクナガは(例え失敗しようとも)観客を楽しませるために時間を使えていないのではないか。本シリーズの宝である定番スコアを封印したハンス・ジマーともども、このシリーズでも大きな転機作で楽しさが減退したことは残念でならない。
でも、みなさん思うことでしょうが、アナ・デ・アルマス扮するパロマのくだりは、これぞボンド映画というノリに現代的なアップデートも加わっていて、Qの料理シーンと並ぶ重苦しい本作における清涼剤でした。あと『女王陛下の007』の引用への苦言とか言い出すときりがないのでやめますが、クレイグボンドのことはずっと好きでしたよ、どうもありがとうございました。
ノルウェー、洞窟住居で知られるイタリアの世界遺産マテーラ、ジャマイカ、そして勿論、本拠地ロンドンと、冒頭から元祖ロケーションムービーとしての魅力を発散。一方で、前作『スペクター』から繋がる悪の陰謀を挫くべく、命懸けのアクションを展開するジェームズ・ボンドは、どこか悲壮感を漂わせている。それは、今回のミッションが愛する女性、マドレーヌとの関係に直結しているからだ。
シリーズ最長の上映時間、2時間44分は確かに長いし、所々で脚本の不備が気になる箇所もある。
しかし、これが最後のダニエル・クレイグを堪能したいファンにとっては、時間は思いの外足早に過ぎ去る。鍛え上げた体には若干の劣化が、顔には深い皺が見られるものの、危険な場面でビクともしない鋼鉄の表情と、マドレーヌに対して見せるリアルな感情表現との対比は、思えばかつてのボンドアクターにはなかったもの。時には深刻な怪我を負いながら、出演した全5作を通して、人間ジェームズ・ボンドの物語を演じ切ったクレイグのために用意された"花道"としての『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、期待に違わぬ内容だった。
ボンドシリーズをダニエル・クレイグと共に楽しんだ15年間が、これで終わる。世代やタイミング、そして好みの違いはあるだろうが、幸運にもクレイグ本人に2度取材するチャンスに恵まれたこともあってか、自分は今、正直予想していなかった喪失感の中にいる。
前作「007 スペクター」で綺麗にボンドはスパイを引退していたので、本作はファンサービスのような位置付けなのかもしれませんが、これまでのダニエル・クレイグ版の4作品を総括するような構成で、ラストの作品に相応しかったです。
逆に言うと、「007 カジノ・ロワイヤル」のエヴァ・グリーン演じるボンドガールの名前が「ヴェスパー・リンド」であることなどを忘れていると少し置いてけぼりを食らうことにもなります。
突然の監督・脚本家の降板などで時間がなかったことも関係あると思いますが、全体的に脚本が有機的に上手く繋がっていない点は惜しく、せっかくのラミ・マレックの悪役ぶりも、どこか中途半端な印象が残りました。ただ、能面での印象的な不気味さや、後半の舞台となる秘密基地での日本庭園風な様式美は日系アメリカ人監督ならではで良かったです。
また、女性の活躍を描くのは良いのですが、せっかく上映時間が007シリーズ最長だったので、もう少し新規の登場人物らに活躍させる場を作っていれば、なお良かったと思います。
いずれにせよ、これまでの007アクションは健在で、まさに劇場で見るのに相応しいスケールの大きな作品でした。