「ハウ」犬童一心監督の生涯ベスト映画、最近感銘を受けた作品は?【あの人が見た名作・傑作】
2022年8月25日 12:00
映画を見に行こうと思い立ったとき、動画配信サービスで作品を鑑賞しようとしたとき、何を見れば良いのか分からなかったり、選択肢が多すぎて迷ってしまうことは誰にでもあるはずです。
映画.comで展開する新企画「あの人が見た名作・傑作」は映画業界、ドラマ業界で活躍する著名人がおすすめする名作、傑作をご紹介するものです。第12回は、最新作「ハウ」が公開したばかりの犬童一心監督です。
1960年6月24日生まれ。東京都出身。長編映画監督デビュー作「二人が喋ってる。」で、サンダンスフィルムフェスティバル in 東京でグランプリ、日本映画監督協会新人賞を獲得しました。その後も「眉山」「ゼロの焦点」「のぼうの城」で、日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。そのほか「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「いぬのえいが」「グーグーだって猫である」「猫は抱くもの」「最高の人生の見つけ方」「名付けようのない踊り」などを発表しています。
サングラスをして、ラロ・シフリンの曲に乗って射殺死体のある屋上に現れる最初のカット――小学生時代に続いて卒倒です。スター映画、つまりスターをどれだけ魅力的に見せるかということで言えば、「ローマの休日」のオードリー越えだと思います。優れた映画の魅力の一つは、スターを見せ切ることと思います。「ダーティハリー」のドン・シーゲル監督はスターを魅せる、凄腕のプロですね。
そして、それと通じるのですが、敵役の犯人、サソリの造形が素晴らしい。殺人に理由が見つけられない、理不尽極まりないその存在を細部を積み上げ見事に観客に突きつけてきます。現代、楽しげに見えていても、通低音のようにあるリアルなダークサイドの存在が露わになる瞬間を見事な演出力で描き切ります。「ダークナイト」のジョーカーはサソリから生まれていると思いましたし、監督がインタビューで「ダーティハリー」の影響を語っているとも聞きました。敵がすごいと、それと渡り合う主役のスターがさらにすごく見えてくるわけで、敵を深めることもスター映画のやるべきことの一つですね。
というように、見て面白いことから、映画を作る面白さに気づかせてくれて、今でも、見る度に、ドン・シーゲルの映画を知り尽くしている者の持つ凄みに唸らせられ飽きることがありません。そして、70年代前半のハリウッド映画が生まれ直そうとするときのパワーを感じます。テレビに負けた映画産業の凋落から、一方にニューシネマ、コッポラ、ルーカスやスピルバーグのニューハリウッド。もう一つ、若い連中に負けじとその流れとは別にハリウッドのヴェテラン職人監督が、イーストウッドという稀有なスターを掴み、徹底したアクションスター映画で新機軸を打ち出す姿に気迫を感じます。
そして、ある瞬間が訪れます。
多分5回以上見て、さらにまた見ている時、冒頭のシーンで、「あっ!」と思いました。「ダーティハリー」の冒頭は、ビルの屋上から始まり、犯人が正面にあるビルの屋上プールで泳ぐ女性を射殺するところから始まります。イーストウッド扮する刑事ハリーは射殺された死体を調べに現れます。その後、目星をつけ、犯人が銃撃したビルの屋上に移動します。
この同じ屋上を、犯人にとって、刑事にとってと全く視点を変え撮っていることに気づいたのです。
最初は、犯人と射殺される女性の切り返しです。周りを写しません。犯人の殺意、欲望で語られます。2度目にイーストウッドがそこに来たときには、ビルの縁を犯人がいたであろう場所に向かってゆっくりと歩くカットが出て来ます。背景には大都会が広がります。そのカットは、ここは巨大都市サンフランシスコで、この刑事はその街からたった一人の犯人を探さねばならないと見せていくのです。最初は縦、イーストウッドはパンを使って横。そうか、こうやって、はっきり意図を持って計画されてカットは積み重なっている。それを監督が決めてるんだ。と気づいたのです。
その後、銀行強盗退治の場面で、なぜイーストウッドにやたらと長く一口かじったホットドックを咀嚼させるのか、その理由に気付きます。この刑事にとって、銀行強盗ぐらいなんでもないし、これぐらいのことは日常だと示しているのです。音楽で言えば、犯人側にしか女性コーラスが入っていないことで犯人の性的サディズムを表しているんだとか、銃撃戦が必ず、水や、埃や、闇や、邪魔するものがある見えない銃撃戦になっている、だからハラハラするんだ、とか気づいていきます(もっといっぱいあるのですが)。
ああ、映画監督はこういうことを計画して、最善の形で見せていくためにいるんだとわかっていったのです。
内容や感覚だけでなく「映画はどうできてるか」ということに大きな興味が生まれた最初の映画が「ダーティハリー」、そこから、自分も作ってみたいと8ミリ映画を作り始めたような気がします。最初の8ミリ映画には銃撃戦があります。
私の映画作りへの欲望の始まりが、この映画にあったのです。
クリント・イーストウッドの当たり役凄腕刑事ダーティハリーを主人公としたシリーズ第1弾。サンフランシスコで無差別狙撃事件が発生。犯人は警察に対し、10万ドルを支払わなければ、次の犠牲者を狙うと通告してきた。殺人課の刑事ハリー・キャラハンは必死の捜査の果てにサソリと名乗る犯人を追い詰め、ついに逮捕する。しかしハリーの暴力行為が原因で、犯人は釈放されることに。その後、スクールバスがジャックされるという事件が起こってしまう……。監督はドン・シーゲル。シリーズは、第5弾まで製作された。
ただ、あまり語られないのに「すごい! 好きだなぁ!」となったのがサタジット・レイ監督の「The Music Room」です。
かつて栄華を極めたインドのベンガル地方の歴史ある豪族、大地主の金持ちが、時代が変わり、没落していく様を、夜ごとのコンサート、宴を繰り広げていたミュージックルームという部屋が寂れていく様を通して語っていきます。私は、時代の変わり目にその波に飲み込まれ、消えていく人物に惹かれるところがあります。失っていく時に、輝いていたものがはっきり見えてくることに情緒を刺激されます。
ですから(サム・)ペキンパーは最高に好きです。この「The Music Room」はきっとコッポラが見ていて「パットン大戦車軍団」(脚本:フランシス・フォード・コッポラ)のパットン将軍の造形に随分と参考にしたんだろうなぁと思いました。理解されない強烈な個性、行き過ぎたプライド、神聖な白い馬の使い方などが最高です。
そして、主演のチャビ・ビスワースが素晴らしいです。音楽への愛と、自分達の時代が終わっていくことを受け入れられない苦悩の揺れがこちらを揺さぶります。
「ジョーズ」IMAX版がこれからアメリカで公開されるとのこと、9月だったかなぁ(9月2日全米公開)。これです。とにかく、史上最高の映画を、史上最高の画と音で映画館で体験したいです。
ベンガル地方の大地主の栄光と没落を描いた作品。映画祭上映時の邦題は「音楽ホール」。メガホンをとったサタジット・レイは、インドを代表する映画監督にして、小説家、音楽家、グラフィックデザイナーなど、多才な才能を持つ人物。晩年にはアカデミー賞特別栄誉賞を受賞。1992年に70歳で死去したが、インド・ベンガル映画のすぐれたリアリズムの伝統を大きく前進させ、インド映画の名声を国際的なものとする大きな功績を果たした。
ハウの旅を通して、現在の日本の弱い立場に置かれている、世の中に忘れられ、声を出せない人たちを見せていきたかった。その声を出せない人たちに声を出せないハウが訪れる。帰還困難区域が故郷で戻れない少女。シャッター商店街の孤独な老女、DVに遭い、希望を見失った女性。そんな人たちに聖犬ハウは寄り添っていきます。
ベックがすごいのは、決められた動きをするのはもちろん、そのシーンの表情が顔に出てくるところです。相手役の目を受けた目になり、そのシーンの雰囲気に飲まれた表情になるのです。感受性の強いところが俳優に向いていると思います。そして、撮影時わずか、一歳ちょっとの若さ爆発な肉体の躍動も見どころです。
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