松岡茉優に惹きつけられる傑作映画10選/「愛にイナズマ」公開記念
2023年10月28日 11:00
窪田正孝と主演を務めた石井裕也監督の最新作「愛にイナズマ」(10月27日公開)で、痛快にして胸を打つ家族の物語を紡いだ松岡茉優。8月期に放送されたドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」(日本テレビ)では生徒と向き合うことを決めた高校教師を熱演し、10月期の新ドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」(毎週木曜午後9時から放送中/テレビ朝日)では謎めいたキャラクターで新境地に挑んでいます。
先日行われた「愛にイナズマ」の完成披露イベントで、窪田は松岡について「こんなに軸の強い女性はいないんじゃないかと思います。現場で大黒柱となって突き詰めていってくれて、そのストイックさ、役への向き合い方を近くで見られて刺激的でした」と絶賛。本記事では、唯一無二の存在感で輝きを放つ彼女にフィーチャーし、特におすすめの10作品を紹介します。
松岡茉優と窪田正孝が主演を務め、「舟を編む」「茜色に焼かれる」の石井裕也監督がオリジナル脚本を手掛けたコメディドラマ。松岡扮する花子の父・治役で佐藤浩市、長兄・誠一役で池松壮亮、次兄・雄二役でを若葉竜也が共演した。
26歳の折村花子(松岡)は幼少時からの夢だった映画監督デビューを目前に控え、気合いに満ちていた。そんなある日、彼女は魅力的だが空気を読めない男性・舘正夫(窪田)と運命的な出会いを果たす。ようやく人生が輝き始めたかに思えた矢先、花子は卑劣なプロデューサーにだまされ、全てを失ってしまう。失意の底に突き落とされた花子を励ます正夫に、彼女は泣き寝入りせずに闘うことを宣言。花子は10年以上音信不通だった“どうしようもない家族”のもとを訪れ、父や2人の兄たちの力を借りて、大切な夢を取り戻すべく反撃を開始する。
「罪の声」などで知られる作家の塩田武士が大泉洋を主人公に「あてがき」した小説を、大泉の主演で映画化。「紙の月」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督がメガホンをとった。松岡は、文芸誌からカルチャー誌に異動になる新人編集者・高野恵役を好演した。
出版不況の波にもまれる大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝し、次期社長の座をめぐって権力争いが勃発。そんな中、専務の東松(佐藤浩市)が進める大改革によって、売れない雑誌は次々と廃刊のピンチに陥る。カルチャー誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水(大泉)も無理難題を押し付けられて窮地に立たされる。
この作品にこそ、松岡茉優の神髄が詰め込まれているといっても過言ではない。「桐島、部活やめるってよ」で薫陶を受け、飛躍のきっかけを与えてくれた吉田大八監督の緊張感が伴う現場を“浴びる”ように満喫していたことが、誰の目にも明らかなほどに躍動感溢れている。主人公に「あてがき」された大泉洋はもちろん、芸達者な共演陣との演技合戦も見事だが、クライマックスでは、寄りのカットから観客に挑みかかるような眼差しを目撃することができる。(映画.com副編集長・大塚史貴)
是枝裕和監督が、家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりを描いたヒューマンドラマ。第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したほか、第91回アカデミー賞でも外国語映画賞にノミネートを果たし、海外で高い評価を獲得した。第42回日本アカデミー賞でも、最優秀作品賞を含む8部門で最優秀賞に輝いた。松岡は性風俗店で働く亜紀役を演じ、体当たりの演技を披露した。
東京下町の古い平屋に、家主である初枝(樹木希林)の年金を目当てに、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡)が暮らしていた。彼らは初枝の年金では足りない生活費を万引きで賄っていたが、そんな中でも笑いが絶えない日々を送っていた。ある冬の日、近所の団地の廊下で震えていた幼い女の子(佐々木みゆ)を見かねた治が家に連れ帰り、信代が娘として育てることになる。
実の妹の名前を源氏名として性風俗店で働く亜紀は、経済的な理由ではなく、血のつながった本当の家族と暮らすことが難しい若い女性。偽家族の中では、信代のしっかり者の妹としてふるまい、おばあちゃんには甘え、勤務先では口のきけない常連客に心を開く……複雑で多面的なキャラクターを、重たくなりすぎない絶妙なバランスで演じた松岡さん。日本アカデミー賞、ブルーリボン賞での助演女優賞受賞が納得の名演でした。(映画.com編集部・M)
中学からの友人と立ち上げた劇団で、脚本家兼演出家を担う永田(山崎)。しかし、前衛的な作風は酷評され、客足も伸びず、劇団は解散状態となってしまう。そんなある日、永田は自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡)に声を掛ける。沙希は女優になる夢を抱いて上京し、服飾の大学に通っている学生だった。2人は恋に落ち、お金のない永田が沙希の部屋に転がり込む形で同棲生活がスタート。沙希は自分の夢を重ねるかのように永田を応援し、永田も自分を理解し支えてくれる沙希を大切に思いながら、演劇にのめりこんでいく。
今作で松岡が息吹を注いだヒロイン・沙希は、夢を追いかける男たちにとっては“聖母”と錯覚してしまうほどに依存することを許してしまう存在として描かれている。山崎賢人扮する主人公の永田が観る者の想像の斜め上をいく“クズ男”なのだが、そんな永田を献身的に支え、誰よりも理解しようとするあまり、心と体のバランスを崩してしまう。そのさまを、松岡が実に説得力あふれる芝居で体現してみせた。ここまで身を委ねることを許容した行定勲監督の演出の妙味ともいえる。(映画.com副編集長・大塚史貴)
直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の同名小説を、松岡、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士の共演で実写映画化。監督・脚本は、第46回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む8部門を制した「ある男」の石川慶が手掛けた。
国際ピアノコンクールの予選会。母の死でピアノが弾けなくなったかつての天才少女・栄伝亜夜(松岡)は、7年の時を経て再びコンクールへの出場を決意する。音大出身だが現在は楽器店で働く高島明石(松坂)は、家族の応援を背に最後の挑戦に臨む。名門音楽院在籍中のマサル・C・レビ=アナトール(森崎)は、優勝候補として注目されていた。そして、パリのオーディションに突如現れた風間塵(鈴鹿)は、先ごろ亡くなった世界最高峰のピアニストからの「推薦状」を持ち、そのすさまじい演奏で圧倒していく。
凡人には知り得ない天才たちが見ている世界を、映画を通じて垣間見ることができる作品。松岡さん扮する主人公・亜夜は、母親を亡くしたことで音楽から距離を置くようになってしまった元天才少女。松岡さんは、トラウマを抱える亜夜が、コンクールで出会ったライバルたちに刺激を受けることで不安や葛藤を乗り越えていくさまを繊細に演じています。役者陣が演奏シーンで披露する圧巻の指さばきも見どころ。月光を浴びながら亜夜と塵が即興で連弾する場面は、夢のように美しく、いつまでも余韻に浸りたくなります。(映画.com編集部・MOMO)
芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説を映画化した松岡の映画初主演作。恋愛経験のない主人公のOLが2つの恋に悩み暴走する様をコメディタッチで描き、第30回東京国際映画祭のコンペティション部門で観客賞を受賞した。監督は、「ウェディング・ハイ」「私をくいとめて」の大九明子。
OLのヨシカ(松浦)は、同期の「ニ」から突然、告白される。「人生で初めて告られた!」とテンションがあがるが、中学時代から片想いしている同級生「イチ」への思いも引きずっていた。恋愛に不慣れなヨシカは、脳内の片思いとリアルな恋愛の同時進行に頭を悩ませる。もう一度イチに会いたいヨシカは、ありえない嘘をついて同窓会を計画する。
“こじらせ”の最上級を松岡茉優が演じた本作。恋をするのは頭の中の同級生、異常なまでの執着心で他人のアカウントを使って同窓会を開き、アンモナイトをなでるのが至福の時、というなかなか変わった気質を持つ破天荒な主人公ですが、ふとした瞬間目に宿るさみしさに引き込まれ、ジェットコースターのように一喜一憂する彼女にいつしか心奪われてしまいます。誰もが痛くも愛らしい彼女に心揺さぶられるはず。(映画.com編集部・蛯谷朋実)
岡田准一が「関ヶ原」「燃えよ剣」に続き原田眞人監督と3度目のタッグを組んだクライムアクション。深町秋生の小説「ヘルドッグス 地獄の犬たち」を映画化した。岡田扮する主人公・兼高のバディ役を坂口健太郎が務め、松岡は極道の女・恵美裏を妖艶に演じた。
愛する人を殺され、復讐のみに生きてきた元警官・兼高昭吾(岡田)は、警察組織から関東最大のヤクザ「東鞘会」への潜入ミッションを強要される。兼高の任務は、組織の若きトップ・十朱(MIYAVI)が持つ秘密ファイルを奪取すること。「東鞘会」に潜入した兼高は、警察によるデータ分析で相性98%と導き出されたサイコパスなヤクザ・室岡秀喜(坂口)とコンビを組み、猛スピードで組織を上り詰めていく。
本作で松岡茉優さんが演じたのは、ヤクザ幹部の愛人であり、どんな鍵でも解錠できる“鍵師”の家系出身で、背中には鳳凰のタトゥーを持ち、頭が切れ、肝っ玉の座った姉御肌の恵美裏という女性。キャラ設定が渋滞している複雑なキャラだが、並の俳優が演じればあっという間に荒唐無稽になるところを、松岡さんの本質を見抜く技量にかかれば説得力が小籠包の肉汁くらい溢れ出る。どこか奔放な天女を思わせるトリックスターぶりは、男たちの異常なハイテンションが続く「ヘルドッグス」にまた不確定な面白みを加えており、画面に登場するや観る者の目を奪って離さない。すげえ、の一言だ。(映画.com編集部・尾崎秋彦)
「孤狼の血」の白石和彌監督のメガホンで、「劇団KAKUTA」の舞台を映画化。子どもたちに暴力を振るう夫を殺害した母親役を田中裕子が演じ、次男役で佐藤健、長男役で鈴木亮平、長女役で松岡が共演した。
タクシー会社を営む稲村家の母こはる(田中)が夫を殺害した。それは、最愛の3人の子どもたちの幸せのためと信じての犯行だった。こはるは子どもたちに15年後の再会を誓い、家を去る。運命を大きく狂わされた次男・雄二(佐藤)、長男・大樹(鈴木)、長女・園子(松岡)。残された3人の兄妹は、心に抱えた傷を隠しながら人生を歩んでいた。そして15年の月日が流れ、3人のもとに母こはるが帰ってくる。
母親が父親を殺害したことで暴力からは逃れられたものの、心無い中傷を受けることになった子どもたち。15年ぶりに戻ってきた母親に対し、三人兄妹は複雑な気持ちを抱きますが、真っ先に母親を受け入れたのは、松岡さん演じる末っ子の園子でした。今にもバラバラになりそうな家族を繋ぎ止めようと立ち回る姿は健気でいじらしく、胸を締め付けられます。離れたくても離れられず、求めたくなくても求めてしまう、なんとも厄介な“家族”。園子が母親の寝床に入り込み、そっと背中に甘えるシーンが印象的です。(映画.com編集部・MOMO)
朝井リョウの同名小説を「騙し絵の牙」「紙の月」の吉田大八監督が映画化し、第36回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀編集賞の3部門を獲得した青春群像劇。主人公・前田役を神木隆之介が演じ、橋本愛、大後寿々花、東出昌大、山本美月らが共演。松岡は、スクールカースト上位の女子高校生・沙奈を演じた。
田舎町の県立高校で映画部に所属する前田涼也(神木)は、クラスでは静かで目立たない存在。監督作品がコンクールで表彰されても、クラスメイトには相手にしてもらえなかった。そんなある日、バレー部のキャプテンを務める桐島が突然部活を辞めたことをきっかけに、各部やクラスの人間関係に徐々に歪みが広がりはじめ、それまで存在していた校内のヒエラルキーが崩壊していく。
劇場で鑑賞後、一緒に観た友人と「めちゃめちゃ演技うまい子がいたね」「松岡茉優さんっていうんだ」と盛り上がったことを、今でもはっきり覚えています。爆笑問題の太田光さんがラジオで「バケモノみたいな女優」と松岡さんを評したことも話題になりました。彼氏に恋する同級生に見せつけようとキスをせがんだり、言葉と行動が裏腹だったり、同じクラスにいたらちょっと嫌だなと思わせる沙奈を巧みに演じています。公開当時、まだ17歳。本当にバケモノです。(映画.com編集部・佐藤レモナ)
競技かるたに打ち込む高校生たちの青春を描いた末次由紀の大人気コミックを実写映画化。主人公・千早役の広瀬に加えて、野村周平、新田真剣佑、上白石萌音らが共演。松岡は千早のライバルとなるクイーンの若宮詩暢役を演じた。
幼なじみの綾瀬千早、真島太一、綿谷新の3人は、新に教わった「競技かるた」でいつも一緒に遊んでいた。新の競技かるたにかける情熱に、千早は夢を持つことの大切さを教わるが、新は家の事情で遠くへ引っ越してしまう。高校生になった千早は、新に会いたい一心で「競技かるた部」創設を決意。高校で再会した太一とともに部員集めに奔走する。なんとか5人の部員を集めて競技かるた部を立ち上げた千早は、全国大会を目指して練習に励む。
孤高のクイーン、若宮詩暢役をシリーズ通して演じた松岡さん。詩暢はいわゆる京都人的な振る舞いで辛辣な言葉も放ちますが、内側には王者ゆえの孤独を抱えている複雑な役どころ。原作ファンからも人気の高いキャラクターですが、凛とした立ち姿で完璧に体現し、見事なハマりぶりで注目を集めました。普段はクールビューティな詩暢ですが、推しキャラのスノー丸を前にした時のハイテンションぶりがなんともキュートで、ギャップの沼に落ちること請け合いです。(映画.com編集部・MOMO)
「海獣の子供」などで知られる漫画家・五十嵐大介の同名コミックを実写化。「夏・秋」(前編)、「冬・春」(後編)の2編にわけて劇場公開された。主人公のいち子役で橋本愛が主演し、松岡は幼なじみの親友役で出演した。松岡と「サムライフ」「愛にイナズマ」でも共演した三浦貴大が、後輩のユウ太役を演じた。
一度は都会に出たものの、自分の居場所を見つけることができず、東北の山間の小さな村・小森に戻ってきたいち子。スーパーやコンビニもない小森での暮らしは自給自足で、畑仕事をしたり、野や山で採れた季節のものを材料にして食事を作り、日々を過ごしている。大自然はさまざまな恵みを与えてくれる一方、時には厳しさもみせるが、そんな自然に囲まれた生活の中で、いち子は一歩を踏み出す勇気を蓄えていく。
東北の小さな集落を舞台に、橋本さん扮する主人公いち子が自給自足の暮らしの中で、自分を見つめなおしていく姿を描いた本作。松岡さんは映画「桐島、部活やめるってよ」、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」に続いて、橋本さんと3度目の共演を果たしました。松岡さんが演じたのは、いち子の親友キッコ。気の置けない関係で、ケンカをしても翌日にはちゃんと仲直り。いち子とキッコの自然な空気感は、演じている2人が俳優として共演を重ね、プライベートでも親交を深めてきたからこそ醸し出せたもの。いち子が作る日々の食事や手仕事、そして人々の温もりにほっと癒される作品です。(映画.com編集部・MOMO)
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