私をくいとめて

劇場公開日:

解説

「勝手にふるえてろ」の大九明子が監督・脚本を手がけ、芥川賞作家・綿矢りさの同名小説を実写映画化。のんと林遣都が初共演し、おひとりさま生活を満喫する女性と年下男子の不器用な恋の行方を描き出す。何年も恋人がおらず、ひとりきりの暮らしにもすっかり慣れた31歳の黒田みつ子。そんな彼女が楽しく平和に生活できているのには、ある理由があった。彼女の脳内にはもう1人の自分である相談役「A」が存在し、人間関係や身の振り方に迷った際にはいつも正しい答えをくれるのだ。ある日、みつ子は取引先の若手営業マン・多田に恋心を抱く。かつてのように勇気を出せない自分に戸惑いながらも、一歩前へ踏み出すことを決意するみつ子だったが……。みつ子の親友・皐月役で橋本愛が出演し、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」以来となるのんとの共演が実現。

2020年製作/133分/G/日本
配給:日活
劇場公開日:2020年12月18日

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(C)2020「私をくいとめて」製作委員会

映画レビュー

3.5能年玲奈=のんの本領発揮

2020年12月31日
PCから投稿

この映画でのんが演じた主人公は、これまでに能年玲奈=のんが演じたどの役とも似ていない。あまちゃんでも海月姫でもホットロードでもこの世界の片隅にでもない。それは、発声ひとつを聴いても明確にわかる。主人公がどんな人間で、どんな声を発し、それがカメラでどう映るべきなのか。そういった確信に裏打ちされているからこそ、この感情の振れ幅の広い主人公が、類まれなる実体感を持っているのだと思う。残念な事情で、存分に演技の実力を発揮する機会が少なかった彼女だが、どれだけすごい役者なのかを目の当たりにするためだけでも、料金以上の価値がある。

ただ、演出面については、個人的には歩調が合わないというか、乗れないところが多かった。演技だけでも十分素晴らしく、観ているこちらものめり込むのに、BGMが余計だと思ってしまったシーンもあった。しかし、名演技を画面に定着させるのもまた監督の才能であるのかも知れず、一方的に「のんはすごい」と言う気はなくて、映画の魅力がどこから生まれるのかについても考えさせられた。

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村山章

4.5大久監督とのんの出会い。あまちゃんコンビの再会。模索する表現者たちの邂逅に感慨

2020年12月19日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

萌える

のんはどんな役にでもなりきる器用な演者ではない。だが、どんな役を演じても自身の個性が前面に出てくる俳優でもない。容姿と表情と声から醸すナチュラルで柔らかな魅力を備えつつ、表現する行為を常に模索している求道者のストイックさも感じさせ、本作のみつ子役はそうした彼女の資質がピタリとはまった。

ピン芸人として活動した時期もあったという大九明子監督にも、そんな模索する表現者の気概が感じられる。温泉ホテルの演芸ショーでの一幕は映画オリジナルであり、原作にあった抵抗しにくい立場の女性へのセクハラを、監督が実体験を交えて翻案したのだろう。ここに込められたメッセージを、特に男性観客はしっかり受け止めなければならない。

そして、綿矢りさが「あまちゃん」で親友役だった2人に当て書きしたのではと妄想してしまうほど絶妙なキャスティングになったのが、みつ子と久々の再会を果たす皐月役の橋本愛。互いのポートレートを描く場面は「燃ゆる女の肖像」を思わせもし、女性たちの絆を感じるとともに、悩みながらも表現すること、ひいては生きることを楽しむ喜びを教えられた気がした。

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高森 郁哉

3.5のんと林遣都の演技が光る、ちょっと変わった「邦画では珍しい意欲作」。

2020年12月18日
PCから投稿

誰もが脳内にもう一人の自分がいて、自問自答をし会話をしていると思いますが、本作では、それを「見える化」しています。
「ひとりきりの生活」に慣れきっている主役の「31歳の黒田みつ子」をのんが演じています。
かなり情緒が不安定な演技も含めてとても良かったです。
「取引先の若手営業マン・多田」を演じる林遣都もどんどん良い役者になっています。ちなみに、本作では、(これまでは一度も感じたことが無かったのですが)立ち振る舞いや話し方も阿部寛と似ていると感じました。
本作は、敢えて分類すると、「前半」「中盤」「後半」と3つのパートに分かれています。
「前半」の私生活や会社などのシーンは、テンポや初々しい感じもよく私は特に気に入っています。
このまま進んでいくとかなり期待できるな、と思っていたら、「中盤」で舞台が海外に移ります。
ここで作風が一転して変わります。
そして「後半」は、「前半」に近い作風に戻りますが、会社関連のシーンは変わらず良かったです。
ただ、ラストのほうは、ちゃんと考察すると「どこからどこまでが夢なんだろうか?」と区別がつきにくい演出に少し違和感を…。「私をくいとめて」というタイトルの意味は分かりましたが、夢の中の夢【「インセプション」的な?】である可能性もあって、ここはもう少しシンプルな方が良かったかな、と思いました。
個人的には、「前半」のノリでそのまま突っ走ってもらえたら、もっと評価は高かったので、その点が若干のマイナス要素です。(ラストの鍵の仕込みも、本当に必要だったのか判断が難しいところです)
とは言え、のんと林遣都の演技が光る意欲作であり、見て損はないと思います。

追記
公開前は非公開情報だった、心の声「A」の中村倫也は、女性の声も上手いので隠れた名演でした。

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細野真宏

4.5簡単なようで難しい「私」という存在

2024年7月10日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

芥川賞の小説を実写化すると何とも奇妙で難解な作品になったのだろう。
原作未読
物語の内容そのものに難しさは感じないが、主人公みつこの心に隠されたものに難しさを感じる。
男女の違いがそうさせるのか?
タイトルは、みつこが頭の中のおしゃべりでパンクしそうになった際に言うセリフ
これ以上しゃべればどうにもならなくなってしまう。
そしてみつこの最後のセリフ「よろしく頼みます」は、このタイトルのようにならないようにAではなく、「多田」に依頼したセリフ。
Aは「私自身」 真我というよりも「本心的存在」
Aはみつこに諭すように言う。
「あなたは、あなたであることから逃れられません」
普遍的言葉
さて、
一見ごく普通の女性みつこ
雪の所為で帰れなくなり、多田とホテルに宿泊することになるが、二人でいる空気感に堪えられなくなる。
「一人でいたほうが楽」「私ここから逃げたい」「とにかく逃げたい」「逃げたいよー!」
一生懸命なだめるAに対し「役立たず」
Aは幻を見せる。
Aの声は明らかに中村倫也さんだが、Aとして登場したのは前野朋哉さん。これは原作のイメージに合わせたのだろうが些細な変化球に少々混乱した。
それでもなぜ、みつこ本人であるはずのAが、小太りの男性だったのだろうか? スピリチュアル要素なのか?
彼を初めて見たみつこは「いい感じ」と喜ぶ。それがなぜ「私」と認識できるのだろう?
確かにいつものAの声は男性。でもわからない。もしかしたら、それが彼女の考える「等身大の自分」という意味なのだろうか?
さて、
みつこは過去の出来事に大きなトラウマを抱えている。
「細いね」と言いながらいきなり手首をつかんできた上司。
表面上には些細なことだが、それが彼女の恐怖となり怒りとなっている。
心の奥底にある男性恐怖症というものになったのだろうか?
みつこが飛行機が苦手なのは、「何もかもが胡散臭い」から。
みつこが心の底で何もかもが胡散臭く感じているのが「男性」 おそらく特定の男性
温泉旅館で見た漫才
立場を利用し無礼にも、女性一人の漫才師に寄ってたかって肩を抱いたり抱き付いたりする男性客。
客席の中で妄想し爆発した怒り
「やめなさいよ!」
みつこにとって許せないこ行為 許せない過去 記憶を消したはずだったがあの男性客の行為に否応なく思い出した過去。
あの上司に対する怒りの次は、その他の人の悪口へと連鎖する。
それはやがて回りまわって自分の悪口へと変わる。
つまり、結局、想ったことを行動に移せない自分に腹が立つ…
これがみつこが抱える心の闇
みつこは会社では同僚ののぞみと一緒に特徴ある社員を妄想することを楽しんでいる。
では、のぞみとはいったい何者だろうか?
少し変わっているが、みつこと相性がいい。このことはみつこにとっていい環境になっている。彼女の素直な表現にみつこ自身が癒される。
みつこはそもそも会社に営業に来る多田のことが好きだ。
しかしAのアドバイスに従って行動しようとはしない。それは過去にAのアドバイスで失敗したからだろうか?
またはそれほどトラウマが大きく、ある種の男性が苦手というのもあり、それを切り離すことができず、行動できないのだろう。
「ある種」を見極めるのはとても難しい。
だから、おひとり様を楽しむのが彼女にとっての平穏な生活なのだろう。
Aとは本心 それと会話できることがこの物語
おひとり様を楽しむと同時に感じるいつまで経っても自分を変えられないこと。
サツキの住むローマを訪れ、あの想い出のクジラの公園から一歩も出られないことを打ち明ける。しかしサツキも、変化に付いて行けず、ローマに来たのを後悔してこの家から一歩も出れずにいた。
お互い涙で心境を告白した。
「それでももうすぐお母さんになる」のは、動いていないように感じるだけで実際には動いているということだろう。
それでも、
帰国した時すぐに多田にメッセージを送信しようと思ったものの、余計な妄想によって送信できない。
ネガティブな思いが増幅される。他人のネガティブな声まで拾ってしまう。
それでもAのアドバイス通り、メッセージを送信した。
やがて彼との交際が始まる。
ホテルの製氷機前でのAとの会話は、引き裂かれるほど限界だったから。
「悲しいね 寂しいのって、悲しいね」
部屋に戻ってきたみつこは、多田にそう言う。
多田がみつこのアパートに来て食事して帰ったとき、
「この部屋こんなに広かったっけ?」と独り言を言う。
みつこはいつもAのおかげでそのことを意識していなかったが、心の底にあったのは「寂しさ」だった。
それを紛らわせるためにAと会話し、おひとり様チャレンジを生きがいにしてきた。
ようやくみつこは寂しかった自分を認識したのだ。
多田との沖縄旅行直前に見つからないカギ。
あの不協和音 おそらくこの不協和音はみつこにだけ聞こえる彼女自身の恐れの音
Aに呼び掛けても何も答えない
やがて棚から滑り落ちてきたカギ
みつこはAに呼び掛け続けるが、返事はない。
「今度は、大丈夫だよね?」
家を出る前にも尋ねるが答えないAに涙が流れる。
これは、親離れということなのだろうか?
だから飛行機内でパニックになりそうになったとき、みつこはAではなく多田に声を掛けたのだろう。
エンディングロールには、二人で大瀧詠一さんの曲を歌ってリラックスしている二人の声が聞こえている。
みつこは大きな人生の波を一つ乗り越えたのだろう。
見終えたときにはそんなところまで感じ取れてはいないのだが、こうして書きながらそんなことが頭に浮かんできた。
他人からは些細に見えることも、本人にとっては重圧だったりどうしても無理だったりする。苦手に無理やり立ち向かう必要はないと思うが、みつこの場合、手に入れたいものと苦手とが同居の関係にあった。だからAが常に彼女にアドバイスしていたのだろう。
このみつこのケースの場合、苦手とは克服できないものではないということなのだろう。
相変わらず私の勝手な妄想を繰り広げたが、
良い作品だった。

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