茜色に焼かれる

劇場公開日:

茜色に焼かれる

解説

尾野真千子の4年ぶりとなる単独主演映画で、「舟を編む」「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の石井裕也監督による人間ドラマ。7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母と子。母の田中良子はかつて演劇に傾倒していたことがあり、芝居が得意だった。ひとりで中学生の息子・純平を育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。コロナ禍により経営していたカフェが破綻し、花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。そんな彼女たちが最後まで絶対に手放さないものがあった。社会的弱者として世の中の歪みに翻弄されながらも信念を貫き、たくましく生きる母の良子を尾野が体現。息子の純平役を「ミックス。」の和田庵が演じるほか、片山友希、オダギリジョー、永瀬正敏らが顔をそろえる。

2021年製作/144分/R15+/日本
配給:フィルムランド、朝日新聞社、スターサンズ
劇場公開日:2021年5月21日

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(C)2021「茜色に焼かれる」フィルムパートナーズ

映画レビュー

5.0石井裕也監督と尾野真千子の共犯関係で成り立った傑作

2021年5月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

石井裕也監督、渾身の逸品。コロナ禍で撮ることにこそ意義を見出し、主演に尾野真千子を指名したこともうなずける。この作品の主人公・良子に息吹を注ぐことができるのは、やはり尾野しかいなかったと断言できる。理不尽極まりない事故で夫を失った良子が、最愛の息子の成長だけを心のよりどころとし、信念を曲げることなくたくましく生きる姿を力強く描いている。石井監督の社会に対する怒りを、全身で体感してもらいたい。最後にとんでもないものが用意されており、それも含めて乞うご期待。

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大塚史貴

5.0生きながら殺される。コロナ時代の悲痛な叫びを可視化した超重要作

2021年5月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

笑える

悲しい

コロナ禍が日本で本格化してから1年半、しかもいまだその渦中。石井裕也監督がこの間にオリジナル脚本で今を生きる人々の物語を撮影して完成させ、公開までこぎつけるこのスピード感たるや。加えて、“上級国民”批判が世間に吹き荒れた、2019年4月の「東池袋自動車暴走死傷事故」とその後に着想を得たエピソードも組み込まれている。現代に起きている問題と社会の理不尽さに対する感情をすくい上げ、短い期間で劇映画に昇華させる機動力に脱帽するしかない。

夫を事故で失うも加害者が謝らないからという理由で賠償金を拒み、花屋と風俗店のダブルワークで稼いで中学生の息子を育てている良子役に尾野真千子。彼女の演技力は多くの映画ファンが認めるところで、本作での人物造形も完璧で見応え十分なのだが、尾野に一歩も引けを取らない名演を見せるのが風俗嬢仲間・ケイ役の片山友希だ。2017年のテレビドラマ「セトウツミ」で清原果耶と軽妙なやり取りをしていた関西弁が印象的な若手女優として認識して以来、ぼちぼち映画やドラマで目にしてきたが、今回ついに表現者として“覚醒”したのではないか。本作はシングルマザーと息子の家族物語であると同時に、いくつもの不幸と苦難を背負う女たちの哀しき友情の物語でもある。

コロナ禍で収入が減り、あるいは仕事を失い、生きながら殺されるような思いで苦境に耐えている人もいるだろう。いろいろとうまくいかず、生きる意味を見失って自殺する若者が増えているとも聞く。現代日本の理不尽、とりわけ格差社会の下層でもがく人々の苦しみを可視化した本作はしかし、愛と希望の力を信じさせてもくれる。ユーモアを要所に挟み込んで心をなごませてくれる石井監督のバランス感覚も好ましい。

良子が勝負の時にワンポイント差し込む赤。夕空に広がる茜色。鮮やかな色の記憶とともに、良子とケイ、2人の生き様を忘れてはならないと思うのだ。

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高森 郁哉

3.0母ちゃんは強い

2024年3月7日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

笑える

楽しい

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赤の他人

3.0女性の経済的な立場の弱さ

2024年1月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

これだけ「雇用の分野における男女の平等」が言われても、厚生労働省などが取りまとめる賃金の統計などを見ると、まだまだ女性の方が、平均的な賃金は低いようです。

それは、女性であることを理由として、男性よりも低い賃金が支払われているということでは必ずしもなくて、男性に比べて女性の方が、より賃金水準の低い、臨時的・補助的な仕事に就いている割合が高いということでしょう。
そして、何かの時には、まずいちばん最初に雇止めになるのも、そういう臨時的・補助的な仕事に就いている方々であることも、想像に難くありません。

今回のコロナ禍では、飲食・宿泊関係を始めとして、関係業種の方々への影響は少なくなかったものと思いますが、上記のような理由から、女性への影響の方が、より大きかったものと考えます。評論子は。

そして、そういうことの余波というものは、得てしてより弱い立場の方々にしわ寄せされがちなのが現実と思いますし、今なお続いている「女性の経済的な立場の弱さ」ということもあるのだろうと思います。

本作の主人公が、理不尽な交通事故でシングルマザーとなった女性(良子)というのも、その意味で受け取りました。評論子は。
一家の大黒柱を失うこととで、その生活基盤の脆弱さが、一気に噴出してしまったということでしょうか。

一方で、良子の「筋の通し方」には、レビュアー諸氏の間でも賛否の両論があるようですけれども。
確かに、夕焼け空のように「茜色に焼かれて」も、なお曲げないという彼女のその信念については、それはそれとして受け取るべきなのでしょう。彼女の考え、人となりとして。
しかし、評論子としては、もう少し肩のチカラを抜いて生きても良いのではないかと、思わないわけでもありません。

そんなことにも思いが至ると、本作の題名の「茜色」は、良子の決意・覚悟の堅さを意味すると解釈することもできそうではありますけれども。
むしろ、評論子としては、この色が(朝焼けではなく)夕焼けを想起されるものであることから、これから本格的な夜を迎えるということで、「まぁ、頑張りましょう」が口癖の良子の気概の高さとは裏腹に、彼女の前途の多難を暗示しているようにも、評論子には思えてなりません。

それやこれやで、本当に、胸が痛む一本ではありました。

別作品『夜明けまでバス停で』と同様に、コロナ禍に苦しむ人々(とくに、まだまだ経済的には男性よりも苦境に立たされがちな女性)を描いた一本ということで、観終わりはしたものの、なかなかまとまらない同作のレビュー起案の参考という意味も兼ねて、観ることにした一本でした。

上記の別作品ともども、充分な佳作であったと思います。

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talkie
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