ある男

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劇場公開日:

ある男

解説

芥川賞作家・平野啓一郎の同名ベストセラーを「蜜蜂と遠雷」「愚行録」の石川慶監督が映画化し、妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝が共演したヒューマンミステリー。

弁護士の城戸は、かつての依頼者・里枝から、亡くなった夫・大祐の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐と再婚、新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で帰らぬ人となった。ところが、長年疎遠になっていた大祐の兄が、遺影に写っているのは大祐ではないと話したことから、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸は男の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく。

弁護士・城戸を妻夫木、依頼者・里枝を安藤、里枝の亡き夫・大祐を窪田が演じた。第46回日本アカデミー賞では最優秀作品賞を含む同年度最多の8部門(ほか最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞)を受賞した。

2022年製作/121分/G/日本
配給:松竹
劇場公開日:2022年11月18日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第46回 日本アカデミー賞(2023年)

受賞

最優秀作品賞  
最優秀監督賞 石川慶
最優秀脚本賞 向井康介
最優秀主演男優賞 妻夫木聡
最優秀助演男優賞 窪田正孝
最優秀助演女優賞 安藤サクラ
最優秀録音賞 小川武
最優秀編集賞 石川慶

ノミネート

最優秀助演女優賞 清野菜名
最優秀撮影賞 近藤龍人
最優秀照明賞 宗賢次郎
最優秀音楽賞
最優秀美術賞 我妻弘之
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(C)2022「ある男」製作委員会

映画レビュー

4.5自分はどんな人間なのか?

2024年4月21日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

興奮

知的

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くまの

3.0城戸と大祐、二人の人間の「解放」の物語

2024年3月27日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

これは大祐と城戸という二人の人間の「解放」の物語であり、解放される過程、つまり彼らが彼らの人生を獲得していく過程をもっと見ていたかった。
原作は不勉強にして未読だけれど、少なくとも映画を見た限り、人間が「自分の前提」として無意識に受け入れている「ラベル」を外したらどうなるか、という思考実験をしているように思う。
人生には「社会からのラベル」と「内面のラベル」が付きまとっていて、前者は名前や家族、出身地や家族や社会での役割や経歴・学歴などで、後者は性格や能力や才能の有無、そして社会からのラベルなどを無意識かつ自己暗示的に刷り込んでいるもの。この物語は、「社会からのラベル」を交換し別人になりすましたら、という仮定のもとに構成されている。社会から勝手に与えられる外圧が完全に変わることで社会からの見る目が変わる。周りの態度が変われば、自分を無意識に縛る「内面のラベル」のひとつも消え、社会的にも内面の動きとしても自由度が高まる。その変化は、勝手に自分で設定していた性格や才能の有無などへも波及して、できること、やれること、受け入れられることが連鎖的に増えていく。だんだんと未来が開けていく実感をする。例えばSNSでは別人かと思う振る舞いができる場合があるように、「社会からのラベル」が外れることで、無意識下で縛っていた「内面のラベル」も外れていき、「自分はこういう人間だ」という枷から解放されていく。この映画は、社会から人生の前提として与えられる外圧を外せば、自由に振る舞え、それは解放であり、救いであると言っているように思う。
そして、大祐も城戸も、どちらも外圧が人間形成や人生の大部分に影響してきた人だった。その大きすぎる枷が外れたとき、得も言われぬ快感を感じたに違いない。自分を縛ってきた重い鎖から解放された人間は、別の自分をだんだんと獲得していき、それが「この人生、手放せませんねぇ」に集約される。
見事だった。
欲を言えば、その人間再生の過程、新しいラベルになじみながら、解放され、新しく生きなおす様子をもっと見ていたかった。この物語の肝が、城戸が大祐の人生にじわじわ侵食され感化されていくところだとしても。

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消々

4.0城戸が自分を見失う物語としての考察(空想)

2022年11月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
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ニコ

4.0「ある男」たち、そして田舎まんじゅうのこと

2022年11月21日
iPhoneアプリから投稿

 冒頭から、すーっと物語に引き込まれた。白い壁に掛かった、鏡に映る男の後ろ姿の絵。ラストシーンで再び絵が登場し、本を閉じるように物語は幕を閉じる。(同時期に公開中の「窓辺にて」と同様の時系列だ。)事故死した男•大祐(窪田正孝)の過去を追う物語と思いきや、謎を追うことにのめり込んでいく、顔のない弁護士•城戸(妻夫木聡)こそが「ある男」だと改めて感じた。
 彼は、穏やかな人権派弁護士として慕われ、裕福な暮らしを手に入れている。けれども、義父の歯に絹着せぬ発言に、自分の出自を意識せずにはいられない。執拗に国籍を話題にする詐欺犯•小見浦に激昂し、ヘイトスピーチのニュースに感情を乱され、幼い息子にも声を荒げてしまう。それでいて、一番近しいはずの妻とは淡白なやり取りばかり。満ち足りているはずの生活のほころびが、次第にあらわになる。
 何不自由ないはずのこの生活は、本当に満ち足りていると言えるのか。そもそも、自分で望んだ生活なのかさえ、彼にはもう分からない。大祐の過去の謎に迫り、大祐と関わってきた人々の人生に触れるほどに、彼の心は揺らぎ、何ものかに追い詰められていく。
 一方里枝は、幾度かの喪失を経て、揺るぎなさを身に付ける。冒頭ではうつむき、今にも崩れ落ちそうであったのが、最後はしっかりと顔を上げてほほ笑む。中学生になった息子との、率直かつ親密なやり取りが忘れがたい。「ある男」たちより出番が少ないながら、安藤サクラの繊細な演じ分けは圧巻だった。
 些細なことではあるが、城戸たちが事務所でつまむものが、どれも外側と中身で成り立つ食べ物だったのも目についた。温泉饅頭、豚まん、そしてずんだ餅。皮とあん、それぞれの美味しさだけでなく、外と中のバランスが良く、一体であってこそ美味しい。
 例えるなら、里枝親子はごく普通のおまんじゅうだ。特別な食材を使っているわけでも、ネームバリューがあるわけでもない。でも、触れるとふっくらとして、手のひらに載せると程よい持ち重りがする。誰かと分け合って食べたら、きっとおいしい。とりとめなく、そんなことを考えた。

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cma