劇場公開日 2022年11月18日

ある男のレビュー・感想・評価

全478件中、1~20件目を表示

4.5実存はどこにあるのか

2022年11月30日
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鑑賞方法:映画館

タイトルが地味だけど、こう言うしかない。自分は何者か、肩書や人種や国籍や、色々なものをはぎとって本質を見つめた時、残るものは何だろう。戸籍を入れ替えて過去も名前も捨てた男が死んで、彼が本当は何者だったのかを追いかける弁護士は国籍を日本に帰化した在日3世。自分は日本人か在日か、アイデンティティはどこにあるのかと問わざるを得なくなる。個人を個人として規定するものは、内面なのか、社会的な立場や評価、戸籍などの記録か、血筋なのか。自分はこういう人間だと内面で強く思ったとしても、世間は、犯罪者の息子は犯罪者の息子として扱ってくる。だから、自分は何の罪も犯していなくても犯罪者の息子として生きざるを得ない。
戸籍を交換し、外面の肩書などを全て外した時に残るものはなんなのだろうか。「ある男」としか言いようがない存在になっても、何かが個人の証として残るものがあるのかどうか。自分に残るものはなんだろうと考えてしまった。

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杉本穂高

4.5「唯一不可分な個人」と「自分探し」からの解放

2022年11月26日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

本作「ある男」の評論を当サイトに寄稿したので、このレビュー枠では補足的なトピックについて書いてみたい。

評では原作小説を著した作家・平野啓一郎が提唱する“分人主義”に触れ、「対人関係ごとに分化した異なる人格を“分人”と呼び、それら複数の人格すべてを『本当の自分』として肯定的に捉える」と紹介した。この分人主義と対照的なのが、従来の「個人の自我が唯一無二でそれ以上分けることができない最小単位である」という考え方。この考え方に基づいて、現状の自分に何かしら不満を持っている人が、「本当の自分はこんなはずじゃない」「いつか真の自分に出会えるはず」と思い込み、“自分探し”の旅に出たりしたのだろうと想像される。だが分人主義の考え方に立てば、どんな相手といる時でも、どんな状況でも、どんな気分でも、いろんな自分があっていいのだし、それらもすべて自分として受け入れられる。映画に寄せて考えるなら、出自や戸籍にとらわれず、さまざまな人生を生きていいじゃないかという、ある意味ラディカルでアナーキーな思想ととらえることができる。

自分の中の多様性を認めることは、他の人たちの多様性も認める寛容な社会につながるはず。小説にしろ映画にしろ、「ある男」に触れてそんな理念に近づく人が増えるといいなと願う。

もう一つ触れておきたいトピックが、評の冒頭でも言及したルネ・マグリットの絵画『複製禁止』に関すること。映画の中に登場するのは原作小説の冒頭に書かれていたのを踏襲したからだが、それとは別に、映画オリジナルのマグリット絵画への目配せがある。美術好きならきっと気づいただろうが、それは妻夫木聡が演じる弁護士の城戸が死刑囚の絵画展で目を留めた、顔の中心が潰されたように消された肖像のスケッチ(小説では肖像画は登場せず、風景画の画風が似ていることで、城戸は“X”とその父の関係に気づく)。マグリットは、顔の位置に照明の光があって顔がまったく見えない絵や、顔の中央にリンゴが配されている絵などを描き、「描かれた顔=個人のアイデンティティー」という肖像画の約束事の脱構築に挑んだ画家でもあった。映画の製作陣がマグリット風に顔が消された絵を登場させたのは、分人主義に基づく物語で『複製禁止』に言及した平野の秀逸なアイデアへのリスペクトであり、映像としてインパクトのある実に映画らしい脚色と言えるだろう。

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高森 郁哉

4.5自分はどんな人間なのか?

2024年4月21日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

興奮

知的

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くまの

4.0あなたは大切な人に「本当のあなた」を見せていますか?

2024年4月20日
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鑑賞方法:VOD

怖い

難しい

鑑賞後、しばし身動きがとれなくなった。一体、何を観たのか・・・。

感想を、スッと言葉にできない映画がある。大抵は、数日以内に頭と感情の整理がつくことが多いので、数日待った。しかし、表現が上手くまとまらない。このまま待っても、まとまりそうにないので、区切りをつけるためにこのレビューを書く。

とてもクオリティの高い映画だということは、すぐ理解できた。練り上げられた脚本。原作未読だが、脚本の元となる原作がとても緻密に構成された小説なのだろうと想像がつく。そして、どの場面の台詞にも演技にも演出にも無駄がない。1つ1つの台詞や映像に意味があり、暗喩であったり、伏線として発せられて後に回収されたり。何度も印象的に映される木、横浜の建設クレーン。服役中の詐欺師の消えゆく手の跡、後ろ姿を見る「ある男」の絵・・・。とにかく寸分の隙なく創られているように感じる。

メインキャストは、弁護士の城戸(妻夫木聡)、依頼者の里枝(安藤サクラ)、大祐(窪田正孝)の3人。このうち誰か1人をクローズアップしても映画として成立しそうである。しかし、この映画は、3人とその周囲の人々をほぼ等分に描いているように思われる。観客自身が、この3人の誰に焦点を当てるか、心を寄せるかで、全く違った印象の映画になる。

大祐に心を寄せた者は、逃れられない生い立ちに苦しめられながら、生きることを諦めずに「別人に生まれ変わろう」とし、実際に生まれ変わって束の間の幸せを手にした男の名状しがたい苦悩と前向きな生命力と優しさを。
里枝に心を寄せた者は、愛した男が過去を偽っていたことがわかっても、その男と暮らした日々を「確かなもの」として実感し大切にできる女の強さと母としての愛を。
城戸に心を寄せた者は、他人の過去を暴いていく中で、自分が「見たくないもの」に向き合わざるを得なくなり、大祐に共感に近いものを抱く、実は孤独な男を。
3人からそれぞれ感じることになるような気がする。

私は、どうやら途中からずっと城戸に心を寄せてしまっていて、ラストのバーのシーンでトドメを刺されたようだ。静かな中に力強い生への欲求や愛を感じる映画だったが、それ以上に、「社会に生きる人間の本質(宿命)」に関する問いを突きつけられたようで、薄ら寒さを感じたことが、このモヤモヤ感の正体なのかもしれない。

個人的には、複雑な思いが残る映画だったが、これは純粋に好みの問題だと思うので、未鑑賞の方には観ることをオススメする。
傑作、名作と呼ばれるような映画であると私は思う。

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TS

4.5「ある男」の意味と意義

2024年4月20日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

昨年、現実に25歳下の架空の妹になりすました女が捕まった。車かバイクの免許取得でばれたけど、その前までは出来るんだ。わたしのバイト先でも年も前科もなしにして入社した人がいた。戸籍の交換、マネーロンダリングのように。

映画は、亡くなった夫が別人と知った妻の物語。わたしの隣にいた男はいったい誰だろうか。誰であることの意味はどれくらいあるのだろうか。

「いちばん幸せな時間だった」という言葉が胸を突く。ふと、若い時に出会い恋に落ちた神宮球場の年上の男の顔が浮かぶ。あの人がわたしに語ったことは、真実だったんだろうかと。そして、それは意味があるのかと、この映画を鑑賞後に深く考えた。

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nonpono

4.0合わせ鏡

2024年4月18日
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人は人の中に、いくつもの人がいるような気がします

血には抗えないのでしょうか
それも人として生きて行く上での業みたいなもの

だけど、Xとして生きる窪田さん演じる彼と
男の子との絆は、それを越した尊いものだったと思います
この人好き、この人が好きって、とても丁寧に描かれていました

妻夫木聡さんの最後のバーでの会話は背筋がゾッとしました

原作を読みたくなった映画です
読みます

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みゅー

3.0ラストもやもや

2024年4月18日
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鑑賞方法:VOD

難しい

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786

4.5私とは何か

2024年4月14日
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私とは何かを考えさせられる。個人の名前なのか、国籍なのか、社会的評価なのか。
大佑が見つかり元恋人が寄り添う姿を見ると、その人の本質はその人が生きた軌跡なのだという考えに辿り着く。
ただし生まれ落ちた場所によってその人がある程度位置づけられてしまうのではないか。

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こんにょ

3.0終始暗い!夢の様な逆光の映画。

2024年4月6日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

楽しい

単純

 内容は、ある男にまつわる多目的な視点から語られる暗い雰囲気の人間模様話。
 印象的な台詞は、『生きてて恥ずかしくないですか?』詐欺師の柄本明さんの獄中での会話
が意味深で面白かった。迫力の中にある冷たさが役を引き立て面白さを増してました。
 印象的な立場は、登場人物其々が不満を抱えて自縄自縛状態から逃げ出せないと言うドラマを作っている所が面白かったです。今も昔も変わらず身分詐称やなりすまし自分では無い誰かになりたい変身願望は面白い主題です。
 印象的な場面は、窪田の夢の様な約4年間の逃避行生活です。ハレーションで煌めく生活は決して夢でなく、最後に妻夫木と林の中で別れを告げるシーンでは、身分詐称してきたが誰かに知って欲しかった無念が晴れた様で感謝している様にも、妻夫木自身の心情にも寄り添う様で面白かったです。
 個人的には、自縄自縛で自分勝手な人の思い込みにあり同情は出来ませんが傍目から見ていると悲観的にも楽観的にも見えて面白かったです。でも思春期の継親の難しさは、んな事ないよなと感じてしまいました。絵からインスピレーションを🖼️掘り下げる文学的で緻密な構成と監督の伝えたい事が分かる面白い映画でした。役を演じる役者🎭自体が仮面を付けなりすましている様な構造は映像表現として分かりやすく面白かったです。
役になりきるあまり自分自身を見失う様な演技でないと観客は引き込まれません。罪な仕事だなと思うと同時に変身願望の面白さを感じました。

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コバヤシマル

3.5立場から逃げたい

2024年4月6日
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悲しい

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ミカ

3.5ある男の人生

2024年4月5日
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弁護士となって社会的地位を得た主人公も、優秀なプロボクサーになるチャンスがあった謎の男も、偏見や差別を受けた過去を重く引きずっている。
鏡の中の自分と殺人犯の父の面影が重なり自己嫌悪に苦しむ男が得た第二の人生には、主人公が欲していた言葉や家族があった。

窪田正孝さんの演技は凄まじく素晴らしかったし、ラストがとても印象的で良かったけれど、途中何度も寝てしまった。柄本明が演じた役がどういう人物なのかがいまいち分からず、原作にはどのように描かれているのか知りたくなった。

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arom

3.0原作を読みたい!

2024年3月31日
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難しい

ショートカットされているから原作を読みたい、深く知りたくなる作品!
安藤サクラさんがまたまた違う顔を演じています。

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ひろひろ

3.0城戸と大祐、二人の人間の「解放」の物語

2024年3月27日
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これは大祐と城戸という二人の人間の「解放」の物語であり、解放される過程、つまり彼らが彼らの人生を獲得していく過程をもっと見ていたかった。
原作は不勉強にして未読だけれど、少なくとも映画を見た限り、人間が「自分の前提」として無意識に受け入れている「ラベル」を外したらどうなるか、という思考実験をしているように思う。
人生には「社会からのラベル」と「内面のラベル」が付きまとっていて、前者は名前や家族、出身地や家族や社会での役割や経歴・学歴などで、後者は性格や能力や才能の有無、そして社会からのラベルなどを無意識かつ自己暗示的に刷り込んでいるもの。この物語は、「社会からのラベル」を交換し別人になりすましたら、という仮定のもとに構成されている。社会から勝手に与えられる外圧が完全に変わることで社会からの見る目が変わる。周りの態度が変われば、自分を無意識に縛る「内面のラベル」のひとつも消え、社会的にも内面の動きとしても自由度が高まる。その変化は、勝手に自分で設定していた性格や才能の有無などへも波及して、できること、やれること、受け入れられることが連鎖的に増えていく。だんだんと未来が開けていく実感をする。例えばSNSでは別人かと思う振る舞いができる場合があるように、「社会からのラベル」が外れることで、無意識下で縛っていた「内面のラベル」も外れていき、「自分はこういう人間だ」という枷から解放されていく。この映画は、社会から人生の前提として与えられる外圧を外せば、自由に振る舞え、それは解放であり、救いであると言っているように思う。
そして、大祐も城戸も、どちらも外圧が人間形成や人生の大部分に影響してきた人だった。その大きすぎる枷が外れたとき、得も言われぬ快感を感じたに違いない。自分を縛ってきた重い鎖から解放された人間は、別の自分をだんだんと獲得していき、それが「この人生、手放せませんねぇ」に集約される。
見事だった。
欲を言えば、その人間再生の過程、新しいラベルになじみながら、解放され、新しく生きなおす様子をもっと見ていたかった。この物語の肝が、城戸が大祐の人生にじわじわ侵食され感化されていくところだとしても。

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消々

3.5血筋ミステリ

2024年3月27日
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原作未読だけど、映画作品として傑作だと思う。
アイデンティティがテーマってことで、あの不気味な絵もよかったし
死人に口なしっていう状況で深まるミステリーというか
まぁ考えてみれば「血筋」なんて謎でしかないな、と。

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mar

3.5愛した男はいったい何者なのか?ただの謎解きものではない良作でした。

2024年3月27日
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知的

難しい

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焼肉定食

2.5期待しすぎた

2024年3月26日
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やたら宣伝はミステリアスな演出だから、もっと深い事情などあるのかと思いきや、うーん淡々と進んでいく
俳優陣が豪華すぎて演技もうまいので引き込まれるけどこれ2流俳優だったら見ていられないような、、
窪田正孝が主役かと思っていたのでまさか妻夫木メインとは思いませんでした
妻夫木はいつまでたってもイケメンだねえ

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まあ映画好

4.0日本アカデミー最優秀作品賞

2024年3月23日
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一言でいうと素晴らし過ぎました。
日本アカデミー最優秀作品賞受賞作品だったのと、監督の作品で「蜜蜂と遠雷」を何度も観ていたので、Amazonプライム・ビデオで視聴しました。
まず演技力合戦で、演技だけで話に引き込まれますし、また終わり方が秀逸過ぎました。
弁護士としての仕事を熱心にしつつ、抱えてている仕事と自分のルーツが重なり葛藤するところや、夫婦関係の問題など、話の展開が計算されていて、だから最優秀作品賞を取れたんだなと納得しました。

個人的に、皆さん素晴らしかったのですが、柄本明さんの名演を評価したい。

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alpenroses

3.5期待しすぎた

2024年3月23日
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知的

予告で期待しすぎてしまったみたい

年配の男性たちが【不適切なこと】を辛辣に言ってましたね。ハマり役でしたね。
色々と考えさせられるシーンでもありましたし、ほかの穏やかなシーンでも色々と感じとれました。

ちょっと話に無理があると思ってしまう箇所があって
だからなのか、
後半から鑑賞する気持ちがだれてしまった

ホントならラストでニヤリとしたかったが
そこまで気持ちがのれなかった

でも観てよかった

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きなこ

3.5ある男

2024年3月23日
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鑑賞方法:VOD

亡くなった夫は誰なのか?
そういうストーリーと聞いて、妻が弁護士と協力し合いながら夫の過去を探っていく物語とばかり思っていた。
全然違う。
深いね。
考えれば考える程深みにハマっていく
作中多くを見せず見ている側の判断でどうにでもとれる
困惑
原作と少し違ったりもするらしいからそちらも読んでみようかな。心地よい深みに。

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千恵蔵

4.0本当の自分とは…

2024年3月23日
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鑑賞方法:VOD

2024
48本目

ゆっくりと深く少しづつ心をえぐってくる作品。
血縁、しがらみ、関係性…
個人を特定するのは、他人か自分か。
戸籍とゆう現実逃避から新たな人生を歩む。
新たな人生は本当の名前ではないが、本当の自分でもありそれは関係を持つ人々も同じく、名前がなんであろうと夫であり、父である。

何が本当で、何が嘘なのか??

それを追求しても、目の前にいる人や自分が全てなんだよな。戸籍って変えるだけで違う人生を歩む事ができるくらいのモノなのかもしれない。

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M.T