【前編】どんな作品をプロデュースした? 制作会社を立ち上げた女優たちの活躍
2020年10月17日 11:30
ハーベイ・ワインスタインの性的暴行とセクハラ、ハリウッドでの性差別――“#Metoo”ムーブメントは、長い間沈黙を守り、孤独に苦しみ続けてきた女優たちに勇気を与え、大物の加害者たちを守ろうとする支配階級を、徐々に打破していった。現在、女性のプロデューサーや監督、キャストが中心となった“女性の物語”の製作が加速している。
“#Metoo”ムーブメント以前から、男性中心のハリウッドにおいて、その環境を変えてきた女優たちがいる。彼女たちは自ら制作会社を設立し、数多くの良作を世に放ってきた。前後編に分けて、8人を紹介しよう。(文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
南アフリカ共和国出身のセロンは、15歳の頃、衝撃的な事件を経験している。それはアルコール依存症で暴力的だった父親を、母親がセロンを守るために射殺したというもの。母は正当防衛が認められ、その体験がセロンの“その後の生き方”に反映されていく。パリ、ミラノでのモデル活動を経て、バレエダンサーを目指してニューヨークへ移住するが、怪我でその夢を断念。女優を目指してロサンゼルスに移った際、スカウトされ「トゥー・デイズ」(1996)で映画デビューを果たす。「ハンコック」(08)、「スノー・ホワイト」(12)、「プロメテウス」(12)、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15)といった大作、「スタンドアップ」(05)、「告発のとき」(07)、「ヤング≒アダルト」(11)、「スキャンダル」(19)といった秀作に出演し、ハリウッドを代表する女優となった。
セロンが「大きなスタジオが見落としがちなストーリーを製作する」という思いを抱き、デンバー&デライラ・プロダクションズを立ち上げたのは、03年のこと。このプロダクションを通じて、自らにアカデミー賞主演女優賞をもたらした「モンスター(2003)」(03)、40代を超えてド派手なアクションに挑んだ「アトミック・ブロンド」(17)、テレビ界の帝王として君臨していたCEOのロジャー・エイルズのセクハラ事件を扱った「スキャンダル」など、いずれも他スタジオが躊躇した題材を映像化。それらに自ら主演し、製作としてサポートする――これこそが、彼女がハリウッドのトップにいる理由ではないだろうか。現在のセロンは、8歳と5歳の養子を育てながら、南アフリカでの奨学金プログラムの援助も行っている。
オーストラリア出身のロビーは、テレビドラマ「PAN AM パンナム」(11~12)でブレイクし、レオナルド・ディカプリオ主演作「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(13)で一躍脚光を浴びる。「ターザン:REBORN」(16)、「スーサイド・スクワッド」(16)などで世界的な女優としての地位を築き、「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」(18)では第90回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、演技面でも高評価を獲得。ディカプリオと再共演した「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(19)、当たり役となったハーレイクインに再び扮した「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」(20)など、立て続けに話題作へ出演し、ハリウッドでもトップの出演料を稼ぐ女優となった。
14年、トム・アーカリー、ジョジー・マクナマラ、ソフィア・カーらとともに、制作会社ラッキーチャップ・エンターテインメントを設立。ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース・テレビジョンとファーストルック契約(他のスタジオよりも優先的に、新作の映画化企画を見ることができる契約。スタジオは、その見返りとして企画開発費用を支援する)を結んだ。同社を通して「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」を生み出し、今後はバービー人形を題材とした実写作品「Barbie(原題)を製作する予定だ。
「女性アンサンブルのアクション映画が、市場にほんの少ししかないということに気づいていた」「(プロデューサーとして関わることによって)自身が製作する映画での発言権を得ることが大事」と発言していたロビー。「お金を持っている人々が(ただ話すだけじゃなく)女性たちに投資していくようにならない限り、何も変わらないわ」とも語っており、制作会社の立ち上げには“自ら変えていく”という強い意志が感じとれる。
イスラエルのエルサレムで生まれ、3歳の時、アメリカに移住。ニューヨーク・ロングアイランドで育つ。10歳の時、ピザのレストランでレブロンのモデルとしてスカウトされて芸能界入り。2000人以上の候補者のなかから勝ち取った「レオン(94)」のマチルダ役で衝撃的なデビューを果たす。「スター・ウォーズ」エピソード1~3のヒロイン・パドメ役で世界的に注目される。その間、名門ハーバード大学で心理学の学位も修得。「クローサー(04)」、「ブラック・スワン」(10)、「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」(16)でのオスカーノミネート&受賞を経て、ハリウッドを代表する演技派女優としての地位を確立していった。
「ブラック・スワン」の振付師で、仏パリ・オペラ座バレエ団元芸術監督バンジャマン・ミルピエとの間に長男が生まれ、12年に結婚、16年には第2子を妊娠した。制作会社ハンサムチャーリー・フィルムズを設立したのは、今から約10年前のこと。「抱きたいカンケイ」(11)、「ジェーン」(15)、「高慢と偏見とゾンビ」(16)など、さまざまなジャンルの映画を発表。インタビューでは「自分が信じているフィルムメイカーをサポートできるになりたいと思った」と設立への思いを明かしている。
幼少期からCMなどで活躍し、「マン・イン・ザ・ムーン あこがれの人」(91)の近所の男の子に恋する少女役で映画デビュー。18世紀の仏小説「危険な関係」を現代に置き換えた「クルーエル・インテンションズ」(99)で名を馳せ、「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!」(99)ではゴールデングローブ賞主演女優賞(コメディ/ミュージカル)にノミネート。「キューティー・ブロンド」(01)の大ヒットでスターの座を掴み、メグ・ライアンに代わる“新たなラブコメ女王”としてメディアで扱われるように。その後「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」(05)で第78回アカデミー賞主演女優賞を獲得している。
00年、制作会社タイプ・A・フィルムズを立ち上げ。12年、ブルーナ・パパンドレアと組み“女性を主人公としたストーリー”を映画化するため、パシフィック・スタンダードを設立した。同社を通じて、デビッド・フィンチャー監督作「ゴーン・ガール」(14)、2度目のアカデミー賞主演女優賞ノミネートを果たした「わたしに会うまでの1600キロ」(14)、エミー賞の作品賞を含む8部門を獲得したテレビシリーズ「ビッグ・リトル・ライズ」(17~19)をプロデュース。16年には、セス・ロドスキーとともに、制作会社ハロー・サンシャインをつくり、パシフィック・スタンダードを子会社に置いた、現在は6つのテレビシリーズをApple TV+、Hulu、アマゾン・プライム、Netflix、ABC、Starzのもとで企画している。
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