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マーベル・コミックのヒーローが一堂に会するアメコミアクション「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」に属する作品で、モンスターハンターたちの跡目争いを描いた『ウェアウルフ・バイ・ナイト』(2022)のカラー版。
高明なモンスターハンター、ユリシーズ・ブラッドストーンが亡くなり、彼の持つ秘宝“ブラッドストーン“の後継者を決めるための“狩り“が催される事となった。その石を求め世界中からハンターたちが集まるが、その中には勘当されていたユリシーズの娘、エルサの姿もあった…。
“狩り“に参加するモンスターハンターのひとり、ジャック・ラッセルを演じるのは『リメンバー・ミー』『オールド』の、名優ガエル・ガルシア・ベルナル。
製作総指揮はケヴィン・ファイギ。
Disney+独占配信作品。立ち位置としては映画というよりはテレビスペシャルに近い様で、世界観は本流のMCUとは異なる。過去作品との繋がりも特に無いようなので、スピンオフ、あるいは番外編として楽しむのが吉(もちろん、今後本作で描かれた内容やキャラクターが本編に組み込まれる可能性は十分にあるが)。
1910's-50'sに作られていた古典的なモンスターホラー映画へオマージュが捧げられているだけあって元々はモノクロで配信されており、その後カラー版が制作された。今回鑑賞するにあたりどっちのバージョンを観るべきなのか迷ったが、まぁカラー版があるんだから律儀にオリジナルのモノクロ版を選択する必要はないよね。
テレビスペシャルという事もあり、時間は54分とタイト。中編映画という感じの軽いボリュームなので気楽にサクッと観られる。ストーリーも良い意味で中身スカスカで、「正義とは…」とか「平和とは…」みたいに無駄に真面目ぶったり深刻ぶったりしていない。漫画映画なんてこんなもんで良いんだよね、と改めて思い出させてくれるスナック感覚が魅力の一本。
カラーリングはなかなか凝っており、着色化されたモノクロ映画特有の、あのザラっとした暗めのカラーグレーディングを完全再現。
やけにチープな小道具やモンスターの造形に加え、雷に照らし出されるモンスターの影、そしてそれに怯えるヒロインの顔芸など、昔懐かしのホラー表現もきっちり再現されている。俳優の演技は今風だし、わかりやすくCGIを使用しているのでクラシック・モンスターズ映画と見間違える程の完成度…とは言えないが、一種のパロディ映画としては楽しむ事が出来る。
監督はマイケル・ジアッキーノ。ピクサー映画や『ジュラシック・ワールド』シリーズ(2015-2022)など、大作映画の音楽を多数手掛けてきた、アカデミー賞やグラミー賞を受賞した事もある一流作曲家であり、MCUでは『ドクター・ストレンジ』(2016)や『スパイダーマン』シリーズ(2017-)の音楽を担当している。
これまで『スタートレック』の1エピソードなどを監督した事はあった様だが、長編作品を監督するのは今回が初。小規模な作品とはいえ、MCUという一大フランチャイズで見事に監督デビューを果たしてみせた。この調子で、監督と音楽を二刀流でこなす第二のジョン・カーペンターへと成長していって欲しい。
「マーベル初の本格ホラー」という惹句が付いているが、これに関しては誇大広告も良いところ。デンッ!という大きい音で驚かされるシーンはあったが、ジャンルとしては全然ホラーじゃない。前述した様にこれはクラシック・ホラーのパロディであり、手触りとしてはむしろコメディに近い。
『マダム・ウェブ』(2024)の「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」という惹句にもひっくり返ったが、基本的にマーベル映画の誘い文句は信用しない方が良い。……まぁ今時ポスターの宣伝を鵜呑みにする人なんて居ないとは思うんだけどね。
苦言を呈したいのは随所に出てくる切り株表現。
一応手がちょん切れたり頭がパッカーンとなったりはするのだが、そのどれもが生ぬるくて中途半端。一応ホラー映画を謳っているんだから、そこはもっと思い切り良くスパーーーンッといってくれないと。「MCUはファミリー映画だからそんな残酷な事は出来まへん」という事なら、最初からそういう人体破壊を描写するなよっ🫵!!
また、CGIを多用するのも如何なものか。
せっかくガエル・ガルシア・ベルナルが特殊メイクで狼男…というよりイエティに成り切っていたのに、隣にいるクトゥルー系モンスターのテッドをフルCGで描いちゃ、彼が生身でモンスターを演じた意味が無くなってしまう。
テッドは「マンシング」という人気キャラクターらしく、実は『巨大怪物 マンシング』(2005)というタイトルですでに映画化されていたりする(MCU作品ではないけど)。
今後マンシングを『アベンジャーズ』とかで使いたいからフルCGで描いたのだろうが、本作を本当にクラシカルな怪物映画風に仕立て上げたいんだったら絶対にアニマトロニクスで実物を造形するべきだった。そういうところのツメが甘いんだよなぁ…。
と、まぁ言いたい事がないでもないが、昨今の何が何やら訳わかめなMCUと比べると明らかにわかりやすく、一本の作品として完成されているのでご新規さんでも入りやすい。これなら下手にMCUに組み込まず、全く別のラインの映画として世に出しても良かったと思うのだが、まぁそこは色々と会社の都合とかがあるのでしょう。
傑作!…とは言わないまでも、ちょっとしたエンタメとしては申し分ない出来。オリジナルのモノクロ版も観てみたくなったぞ🌕