【ネタバレ解説】「ブレット・トレイン」がもっと面白くなる! 殺し屋キャラまとめ、原作との違いなど9の裏話
2022年9月3日 08:00

9月1日、ついに日本公開を迎えた「ブレット・トレイン」。ベストセラー作家・伊坂幸太郎氏による「殺し屋シリーズ」の第2作「マリアビートル」を、ブラッド・ピット主演、「デッドプール2」のデビッド・リーチ監督でハリウッド映画化しました。
この記事では、映画.com編集部が、さまざまな取材情報を基に、劇中で大暴れする殺し屋10人のキャラクターとキャスト、原作との違いも含めた、作品がもっと面白くなる9の裏話・製作秘話をまとめてみました。

物語の主人公は、久々に仕事復帰を果たした殺し屋レディバグ(ブラピ)。彼のコードネームである「レディバグ」は、幸運を運んでくるといわれる「てんとう虫」を意味するが、彼はいつも事件に巻き込まれ、自分とは無関係の人の死に遭遇しており、運の悪さは伝説級だった。
レディバグはある日、依頼人のマリア(サンドラ・ブロック)から、東京発・京都行の高速列車「ゆかり号」内でブリーフケースを盗み、次の駅で降りるだけの簡単な仕事を請け負う。高速列車に乗りこんだ彼は、早速ケースを発見するが、なぜか9人の殺し屋たちに命を狙われ、降りたくても降りられない事態に。やがて、偶然乗り合わせたはずの殺し屋10人の任務が交錯し、過去と因縁がつながっていく。

コードネームとは裏腹に、いつもトラブルに巻き込まれる“世界一運の悪い殺し屋”。殺し屋でありながらセラピーに通うほどナイーブな性格で、暴力とは無縁な人間になろうと決意し、復帰後初の仕事に向かう。

外見は可憐で優等生のような雰囲気だが、実は狡猾で悪魔のような性格の学生。優れた洞察力と強運を武器に、社内で起こる全ての出来事を裏で掌握し、レディバグたちを翻ろうする。

腕利きの殺し屋。相棒のレモンは、幼い頃から一緒にいる双子のような存在。裏社会の大物ホワイト・デスの誘拐された息子と、身代金入りのブリーフケースを奪還し、京都に護送する任務を請け負う。

タンジェリンの相棒で、どこかマイペースでピュアな性格。「きかんしゃトーマス」を崇拝しており、何かにつけて引用する。

毒使いの暗殺者で、変装の達人。一刺しすれば、30秒足らずで全身から出血し死に至るブームスラング蛇の猛毒を手に、列車内に身を潜める。

情熱的なメキシコNo.1の殺し屋。なぜかレディバグに強い恨みを抱いている。ブリーフケースを奪い、品川駅で下車しようとするレディバグの行く手に立ちふさがり、ナイフ片手に襲いかかる。

息子をデパートの屋上から突き落とし、重症を負わせた犯人を捜す元殺し屋。

キムラの父で、何かと“運命”を語りたがる剣の達人。息子の復讐を止めようと、米原駅で「ゆかり号」に乗車し、思わぬ人物と再会する。

ホワイト・デスの息子で、犯罪組織の後継者と目される人物。何者かに誘拐されるが、タンジェリン&レモンのコンビに救出される。

世界最大の犯罪組織を率いる、冷酷非道なボス。大量の暗殺者たちを従え、終着駅・京都でレディバグたちを待ちかまえる。

原作の舞台は、東京発・盛岡行の東北新幹線「はやて」。映画では、東京発・京都行の高速列車「ゆかり号」に変更されている。
原作では七尾という名前で、普段は穏やかで優しい性格だが、追いつめられたときの直感と瞬発力が優れているというキャラクター。必殺技は相手の首を瞬時に折る「首折り」で、何度もその技を炸裂させるが、映画にはそのようなシーンはない。
原作では、二重瞼に鼻筋の通った、整った顔立ちをした中学生男子・王子慧。優等生のような見た目とは裏腹に、恐怖でクラスメイトを支配し、教師までもコントロールしていた。物語を通して、さまざまなキャラクターに、「どうして人を殺してはいけないの?」と問いかける。映画では性別が変更され、原作にはない、あるキャラクターとの秘められた関係が明らかになる。
原作では、蜜柑&檸檬として登場。映画でも、檸檬の「『きかんしゃトーマス』好き」という設定は生かされているが、蜜柑の「文学好き」という性格は反映されていない。タンジェリンは、英ロンドン・サビルロウのオーダーメイドのスリーピーススーツにポケットチーフという、スタイリッシュなビジュアルが印象的なキャラクターとなった。
伊坂ワールドでは、ある作品の主人公が、ほかの作品の脇役として登場するなど、作品間のリンクが仕掛けられている場合がある。「殺し屋シリーズ」の第2作にあたる原作「マリアビートル」には、第1作「グラスホッパー」のキャラクターたちも参戦。恋人の復讐を誓う塾講師・鈴木、人を車に轢かせる“押し屋”槿(あさがお)に加え、毒を使用する殺し屋スズメバチの姿が描かれている。映画ではホーネットとして、スズメバチのみが登場する。

レディバグに指令を出す謎の女性マリアを演じたのは、「しあわせの隠れ場所」「ゼロ・グラビティ」などで知られる名女優サンドラ・ブロック。実はブロックが、本作へのカメオ出演を機に、ブラピに主演&プロデュース作「ザ・ロストシティ」への出演を依頼したところ、その場で「イエス」と快諾されたそう。
「ザ・ロストシティ」は、恋愛小説家ロレッタ(ブロック)と、セクシーなモデル・アラン(チャニング・テイタム)の冒険を描くコメディ。億万長者フェアファックス(ダニエル・ラドクリフ)に誘拐されたロレッタの前に現れ、“強力な仲間感”を醸し出すハンサムな謎の男を、ブラピが演じた。

本作には、キャラの濃い10人の殺し屋たちが登場する。それぞれの背景やドラマ、殺しのスタイルを描き分けることはもちろん、密室と化した列車内で、常に「誰がどこにいるのか」を把握することは、至難の業だったという。
原作の脚色を担当した脚本家ザック・オルケウィッツは、「一時は、ホワイトボードが連続殺人犯を追跡しているみたいになったよ」と笑顔で振り返る。さらに列車のセット内には、常に全員の動きを示す紐が、何本も張りめぐらされていたそう。伏線や仕掛けが持ち味の伊坂幸太郎ワールドでは、「誰が誰と、いつどこで出会ったのか」「誰が何を、いつどこで目撃するのか」が重要になる。スタッフ陣は苦心しながら、物語と撮影を組み立てていった。

本作の舞台は、ほぼ全編にわたり、高速列車のみである。プロダクションデザイナーのデビッド・ショイネマン率いる職人チームは、2両の車両セットと駅セットを、撮影に合わせて作り変え、12両編成の車両であるかのように見せ、5つの駅を創出した。
冒頭でレディバグが足を踏み入れる、東京駅とその周辺は、米ロサンゼルス・コンベンションセンターを駅に見立てて装飾したという。そして再現された東京の街では、ネオンが妖しい光を放ち、屋台や市場が立ち並んでいる。原作者の伊坂氏は、「『何この日本!?』と驚きつつ、豪華な俳優さんたちがいきいきと暴れていることに興奮しました!」とコメントを寄せている。

高速列車の車窓を流れる景色のため、日本の撮影ユニットは、東京~京都間の映像を、特殊なアレイカメラで撮影。しかし困ったことに、実際に走っている新幹線のなかや駅では、撮影ができない。そこでチームは、高速道路で撮影した映像を、技術者が新幹線の速度に合わせて調整するという方法をとった。
そして、列車のセットを取り囲むように、LEDウォールを設置。列車とLEDウォールを同期させ、意図した通りに映像が流れていくシステムを作り上げた。

原作を読んでいる方ならお分かりだと思うが、レディバグは地味で心優しい男。映画化にあたり、華やかでワイルドな魅力を放つブラピがレディバグを演じることに、驚いた方も多いかもしれない。
ブラピは、レディバグが身につけるファッションアイテムとして、バケットハットを提案。リーチ監督の妻で、製作に名を連ねるケリー・マコーミックは、「彼は間違いなく、世界一ビッグでカリスマ的なスターよ。誰もが彼のスターダムと魅力が放たれることを期待している。でも彼はそれを、この変な帽子とメガネでかくして、か弱い人物になりきっている。負け犬としてね」と、その役づくりを語った。

リーチ監督は、「デッドプール2」「ワイルド・スピード スーパーコンボ」の監督として名を馳せる前には、「ファイト・クラブ」(1999)、「トロイ」(04)、「Mr.&Mrs.スミス」(05)などで、ブラピのスタントマンを務めていた。
リーチ監督は、「ブラッドが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)でスタントマン役を演じているのを見て、ちょっと笑えたよ。あの映画で描かれている俳優とスタントマンの関係性はリアルなものだ」と語る。「僕らはしばらく別の方向に進んだけど、運命がそこで終わりを告げずに再び結びついたことを嬉しく思う」と、運命的なタッグに喜びを明かした。ブラピが絶大な信頼を寄せるリーチ監督渾身のアクションシーンに、期待が高まる。

アクションを知り尽くす逸材であるリーチ監督は、コメディ映画にインスピレーションを受けながら、レディバグのファイティングスタイルを組み立てていった。参考にしたのは、ジャッキー・チェン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドの動き。そこから、自身が不運であると自覚するレディバグが、戦いを避けようとしながらも応戦するというユニークな戦い方が生まれた。

ブラピがプロモーションで来日するのは、約3年ぶり、13回目。8月22日には、東京・港区高輪の高野山東京別院を訪問し、映画のヒット祈願とともに、現在58歳のブラピの“前厄”を払う祈祷に参加した。厄除けは初体験だったそうで、「とても美しい体験で、思わず涙目になってしまった」と、感激した様子だった。ブラピが厳かに手を合わせる様子に、ネット上では「美しすぎる」など、感嘆の声が続出していた。

翌23日には、特別に貸し切られた、東京発・京都行の新幹線のぞみに乗車。JR東海全面協力のもと、その車中で史上初となる“新幹線レッドカーペット”が行われた。ブラピは乗り心地に、「まるで撮影したセットに戻った気分。デジャブだね(笑)。でも、実際の新幹線はとても快適」とご満悦。同乗したエルダー役の真田に、「エルダーは物語の心臓部であり、精神の象徴。キャラクターに重厚さを与え、いるだけで緊張感が漂う俳優が必要だった」といい、「参加してくださったおかげで、作品のランクが上がり、優雅さも添えられた」と感謝を伝えていた。
東京駅では、ラーム・エマニュエル駐日アメリカ大使が、ブラピとアーロン・テイラー=ジョンソンに、新幹線の模型とPASMOをプレゼントしたそう。エマニュエル大使が自身のTwitterアカウントに、その際の写真を投稿。PASMOを手に笑顔を浮かべるブラピに、ネット上では大きな反響が寄せられた。
そして到着した京都で、ジャパンプレミアが開催された。そこでブラピ本人と、長年ブラピの日本語吹き替え声優を務めてきた堀内賢雄が初対面。堀内の声の印象を問われたブラピは、「セクシー!」と絶賛していた。2日にわたるプロモーションは、盛況のうちに幕を閉じた。

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