コラム:「賞レースのユクエ」byオスカーノユクエ - 第4回
2021年1月25日更新
授賞式まであと3カ月!現時点でもっともオスカーに近い作品は?劇場公開作品が少ない状況の中、配信作品がいよいよ頂点に立つのか?
例年なら主要な前哨戦も大方発表され、オスカーの行方も絞られてくる今の時期(1月25日現在)。ただ、今年は新型コロナウィルスの影響で授賞式が2カ月遅れの4月25日に設定されており、それに伴って一部前哨戦のスケジュールも後ろ倒しになっている。とはいえ、授賞式まであと3カ月。オスカーの行方を占う指標となりうる前哨戦の結果をもとに、主要部門における現時点での有力候補を並べてみました。
※数字はオスカーノユクエ独自の集計方法による現時点での前哨戦成績
■ 作品賞ノマドランド|49.2
Promising Young Woman|26.0
First Cow|25.7
ミナリ|21.8
シカゴ7裁判|18.3
ザ・ファイブ・ブラッズ|17.2
Never Rarely Sometimes Always|15.0
サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ|13.9
マ・レイニーのブラックボトム|11.7
もう終わりにしよう。|11.7
Mank マンク|11.7
Small Axe: Lovers Rock|11.4
ソウルフル・ワールド|10.6
あの夜、マイアミで|10.3
トロント&ヴェネチアの両国際映画祭を制した「ノマドランド」がその後の批評家賞でも他を圧倒。次位にダブルスコア近い大差をつけて先頭を走っており、順調にいけばこのままオスカーも戴冠となりそう。
これに続くのが、女性蔑視な男たちへの苛烈な復讐を描く「Promising Young Woman」。女性監督エメラルド・フェネルが描くパワフルなスリラー映画はMeToo運動の流れを汲む映画で、すでに日本での劇場公開も決まっている。
3番手はケリー・ライヒャルト監督「First Cow」。昨年3月にすでに全米で劇場公開されており、オスカーを受賞したポン・ジュノ監督も絶賛。ベルリン国際映画祭でも好評を博している。
サンダンス映画祭でグランプリ&観客賞のW受賞となった「ミナリ」も有力。アメリカの田舎町で農場経営に乗り出す韓国系移民の物語を描く本作は、アカデミー賞が命題として掲げる“多様性”を体現している。
今年こそは頂点を狙う配信勢からも有力作が続々。Netflixが送り込む大量の刺客のなかでは、現時点で「シカゴ7裁判」と「ザ・ファイブ・ブラッズ」が最もオスカーに近い位置にいる。デヴィッド・フィンチャー監督「Mank マンク」は高い前評判ほどの実績を残せておらず、今後の賞レースでの巻き返しが期待される。
■ 監督賞クロエ・ジャオ(ノマドランド)|56.2
エメラルド・フェネル(Promising Young Woman)|17.2
ケリー・ライヒャルト(First Cow)|16.1
スパイク・リー(ザ・ファイブ・ブラッズ)|13.9
アーロン・ソーキン(シカゴ7裁判)|13.9
リー・アイザック・チョン(ミナリ)|12.8
デヴィッド・フィンチャー(Mank マンク)|12.8
スティーヴ・マックイーン(Small Axe: Lovers Rock)|11.0
ダリウス・マーダー(サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ)|10.6
現時点で発表されている賞のほぼ全てをクロエ・ジャオ(「ノマドランド」)が独占する完全な一人勝ち状態。ここまでの圧勝は過去に記憶がなく、もはやこの部門の勝者はなかば決まったようなものか。もし受賞すれば、2009年のキャサリン・ビグロー(「ハート・ロッカー」)以来、女性として史上2人目の快挙となる。
注目すべきはジャオをふくめ、現時点での実績TOP3がすべて女性監督であること。アカデミー賞史上、同年に2人以上の女性監督が監督賞にノミネートされたことはなく、史上初の快挙がにわかに現実味を帯びてきた。
■ 主演男優賞チャドウィック・ボーズマン(マ・レイニーのブラックボトム)|36.7
リズ・アーメッド(サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ)|36.3
デルロイ・リンドー(ザ・ファイブ・ブラッズ)|34.5
アンソニー・ホプキンス(ファーザー)|22.7
スティーヴン・ユァン(ミナリ)|17.2
ゲイリー・オールドマン(Mank マンク)|11.7
最大の注目は、故チャドウィック・ボーズマン(「マ・レイニーのブラックボトム」)にオスカー像が渡るのかどうか。ここまでの前哨戦実績を見ると、その資格は十分にあると言える。過去、故人に演技賞のオスカーが授与された事例は2件。76年のピーター・フィンチ(「ネットワーク」)と2008年のヒース・レジャー(「ダークナイト」)の2人はともに忘れがたい名演技で、決して故人への同情票から受賞したわけではない。今回ボーズマンが見せた残りの命を絞り出すような熱演も、おそらく同情なしに評価されるに違いない。
ちなみにフロントランナーとして挙げた6人のうち、ボーズマン、アーメド、リンドー、オールドマンの4人の演技は配信で視聴できるので、今すぐチェックすることをおすすめ。
■ 主演女優賞フランシス・マクドーマンド(ノマドランド)|40.3
キャリー・マリガン(Promising Young Woman)|35.6
ヴィオラ・デイヴィス(マ・レイニーのブラックボトム)|27.5
ヴァネッサ・カービー(私というパズル)|18.6
シドニー・フラニガン(Never Rarely Sometimes Always)|16.9
ジェシー・バックリー(もう終わりにしよう。)|13.9
エリザベス・モス(透明人間)|9.5
実績TOPはフランシス・マクドーマンド(「ノマドランド」)だが、すでに2度の主演賞を受賞しているのが大きなネック。3度目の受賞となれば、4度受賞の大女優キャサリン・ヘップバーンに次ぐステータスを得ることになるが、アカデミー会員たちがどう判断するか。とはいえ、ノミネートまでは間違いなさそう。
同じく、3番手をいくヴィオラ・デイヴィス(「マ・レイニーのブラックボトム」)も受賞歴が得票の妨げになる可能性がある。その点、いまだ無冠のキャリー・マリガン(「Promising Young Woman」)には大きなチャンスだ。
■ 助演男優賞ポール・レイシー(サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ)|38.5
サシャ・バロン・コーエン(シカゴ7裁判)|26.0
チャドウィック・ボーズマン(ザ・ファイブ・ブラッズ)|22.4
レスリー・オドム・Jr.(あの夜、マイアミで)|20.5
ビル・マーレイ(オン・ザ・ロック)|19.4
デヴィッド・ストラザーン(ノマドランド)|10.6
グリン・ターマン(マ・レイニーのブラックボトム)|9.2
ブライアン・デネヒー(Driveways)|8.4
この部門をリードするのは、映画通にもあまり知られていないベテラン俳優ポール・レイシー(「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」)。主にTVドラマで活躍してきたレイシーが映画賞を受賞したのは今回の作品が初めてということで、72歳にして大ブレイクを果たしている。
2番手につけるのは「シカゴ7裁判」のサシャ・バロン・コーエン。同作の出演者ではマーク・ライランス、フランク・ランジェラも賞レースに絡んでいるが、現時点ではコーエンが頭ひとつ抜け出している。今年度は「続・ボラット」のリリースもあり、あわせ技での一本を狙う。
主演賞部門でも本命視されるチャドウィック・ボーズマンがこちらでも好位置につける。「ザ・ファイブ・ブラッズ」では登場シーンこそ多くないものの、物語のキーパーソンとなる重要な役柄を演じている。主演、助演でのダブルノミネートあるいはダブル受賞も夢ではない。
■ 助演女優賞マリア・バカローヴァ(続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画)|40.0
ユン・ヨジョン(ミナリ)|38.9
アマンダ・セイフライド(Mank マンク)|25.3
エレン・バースティン(私というパズル)|16.1
オリヴィア・コールマン(ファーザー)|15.0
オリヴィア・クック(サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ)|9.5
トニ・コレット(もう終わりにしよう。)|8.4
「続・ボラット」でボラットの娘を演じたマリア・バカローヴァがまさかのフロントランナー。ジュリアーニ元NY市長に驚愕のリアルドッキリをかましたりと、インパクトでは他の追随を許さない。ただ、こうしたトリッキーな作品や演技がこれまでお堅いアカデミー会員たちに無視されてきた歴史があるだけに、どちらに転ぶのかは微妙なところ。
ボラットの娘を猛追するのが、韓国のベテラン女優ユン・ヨジョン。70年代からの長いキャリアを誇り、2010年の「ハウスメイド」で国際的にも注目を浴びた。今回の「ミナリ」ではアメリカの田舎町に移住した韓国系移民の祖母役で、場面をさらう印象的な役柄を演じているとのこと。韓国人女優として初のアカデミー賞受賞の快挙も十分にチャンスあり。