サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ

劇場公開日:

サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ

解説

「ヴェノム」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」のリズ・アーメッドが主演を務め、聴覚を失ったドラマーの青年の葛藤を描いたドラマ。ドラマーのルーベンは恋人ルーとロックバンドを組み、トレーラーハウスでアメリカ各地を巡りながらライブに明け暮れる日々を送っていた。しかしある日、ルーベンの耳がほとんど聞こえなくなってしまう。医師から回復の見込みはないと告げられた彼は自暴自棄に陥るが、ルーに勧められ、ろう者の支援コミュニティへの参加を決意する。共演に「レディ・プレイヤー1」のオリビア・クック、テレビシリーズ「ウォーキング・デッド」のローレン・リドロフ、「007 慰めの報酬」のマチュー・アマルリック。監督・脚本は「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命」の脚本家ダリウス・マーダー。Amazon Prime Videoで2020年12月4日から配信。第93回アカデミー賞で作品、主演男優、助演男優など6部門にノミネート。編集賞と音響賞の2部門を受賞。日本では2021年10月に劇場公開。

2019年製作/120分/G/アメリカ
原題:Sound of Metal
配給:カルチャヴィル
劇場公開日:2021年10月1日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第78回 ゴールデングローブ賞(2021年)

ノミネート

最優秀主演男優賞(ドラマ) リズ・アーメッド
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映画レビュー

3.5それでも、人生は続く(取り戻す、を手放すとき)

2021年10月16日
iPhoneアプリから投稿

(話は飛躍するが、)子育てをしていると、「変わらない」物事はなく、後戻りはもちろん、「取り戻す」ことは到底できないなとつくづく思う。これまではこうじゃなかった、こんなはずじゃなかった、と思っても、子は刻一刻と育って変化していき、親の感傷をよそに、時間はどんどん前に進んでいく。
 聴覚を失い、轟音に彩られた生活を突然絶たれたドラマーの主人公、ルーベン。激しいいらだちをバンド仲間の恋人・ルーにぶつけてしまうが、彼女の必死の勧めに従い、しぶしぶ自助グループでの共同生活に転じる。徐々に穏やかな生活に馴染んでいったかに見えたものの、恋人との音楽の日々を諦めきれない、取り戻したい彼は、思い切った行動に出る。
 寄り添い、支え合う生活は理想のはずなのに、はまりきれないのはなぜなのか。心穏やかな生活には、目立った変化は降って湧いてこないない。目指すことややりがいは、自分で見出さなければならないのだ。子どもたちに音楽を教える姿が帰着かと思えたが、ルーベンの視線は、遥か遠く、輪の外に注がれ続けたままだった。
 ツアーバスを売り払い、コミュニティでの繋がりを捨ててインプラント手術を受け、ノイズに耐えながら恋人の家を訪ねるルーベン。まるで、声と引き換えに足を得た人魚姫のように痛々しい。そんな彼を迎え入れる、ルーの父を演じたマチュー・マリアックが、近すぎず遠すぎず、絶妙の立ち位置だった。ルーベンを演じたリズ・アーメッドと同じく、眼力が強い俳優さん。鬼気迫る・狂気が滲む役柄が多く、主人公とぶつかり合うのかと思いきや、今回は徹底して「色々あったけれど、何とかここに行き着いた」娘の父を演じていて、ますます好きになった。(余談だが、ルーベンに茹で卵を振る舞うところが、観ているときは少しピンとこなかった。後でざっと調べてみた限りでは、半熟茹で卵を、カリカリにトーストしたバゲットにつけて食べるのは、フランスではごく日常の食事(夕食)らしい。娘の恋人を、家族のように気負いなくもてなした、ということだろう。卵の殻をナイフで割り、パンをざくざく噛む音もごちそうのうち、というところも印象的だった。)また、父と娘の歌が、哀愁とも不協和音ともつかないメロディと歌詞だったのも良かった。ルーの家でのルーベンの音世界は、何と悲しく、騒がしいものだったのか。
 心待ちにしてきたはずの再会は、心の穴を埋めてくれない。ルーベンが、新たに踏み出した世界とは… 。時間を引き戻し、失ったものを取り戻すことを「手放した」重み。新たな世界の美しさと厳しさ。今も、余韻が耳に残る。

(付記というか、ちょっとした不満。
 本作は、聴覚を失うルーベンの音世界を追体験させるべく、音作りに細やかな工夫がなされている。けれども、カッコ書きの字幕で音の説明が付されるのは、むしろ余計で、目にうるさい気がした。これは日本版のみなのだろうか?「静かな騒音」なんて、完全に矛盾している。せめて、「くぐもった騒音」あたりではないか。字幕を無視するのは難しいので、出来れば、カッコ書き字幕抜きで観直してみたい。)

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cma

5.0喪失と絶望の先に見えるもの

2021年4月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

 聴力を失ったメタルバンドのドラマーがたどる運命を描くこの作品は、様々な音に彩られている。
 冒頭のライブシーンの激しい音の洪水の後は、コーヒーのドリップされる音や開け放たれたドアがかすかにきしむ音、遠く響く鳥の鳴き声、人混みの柔らかなざわめき。遠景のような音がそこかしこに散りばめられる。
 そしてこれらの聞き慣れた音と対照的で印象深いのは、主人公のルーベンが聴力を失った後に聞く「音」だ。わずかに残った聴力が拾う、曇って細部の潰れた音。張り付いて離れない不協和音のような耳鳴り。人工内耳の金属をこするような音。
 本来昨年8月に全米公開の予定だったこの映画を、映画館で観られないことを当初残念に思ったが、ヘッドフォンをつないで鑑賞したことでその考えは変わった。これらの音達を耳元で聞くことで、ルーベンが襲われた変化をよりリアルに追体験し、彼の絶望を間近に見たような気持ちになった。
 過剰な言葉はない。音と、リズ・アーメッドの細やかな表情が、主人公の感情の流れを雄弁に語る。

 パートナーのルーは、当事者のみの参加が条件の自助施設にルーベンを行かせるため、荒れて追いすがる彼を振り切って彼の元を離れた。二人の出会いと同時期にルーベンがドラッグをやめたこと以外、彼らが共に過ごした過去の説明はない。だが別れる間際のやり取りに、繊細な二人が出会ってから4年間、どのように身を寄せ合って生きてきたかが滲む。
「あなたは自分を傷つけ、私も傷つけてる。私も自分を傷つける。施設に行くと言ってほしい。じゃないと全部ムダになる」
 これほど大きな困難を、無謀に受けて立つと二人とも壊れてしまう。そうならないために寂しさを堪えて突き放すルーと、目の前の孤独に怯え助けを求めるルーベンの姿がひたすら切ない。

 自助グループに参加したルーベンが施設に馴染むまでの描写は比較的淡々と進む。元いた社会と接触を絶たれる厳しさはあるものの、彼を受け入れる聾者の世界はどこか牧歌的だ。マーダー監督は、寛大な精神を保つ聾文化を表現するこの物語の構想に13年をかけたという。施設の指導者ジョーには、聾者の両親の元で育ったポール・レイシーをキャスティングしている。
 聾者であることは不幸なことではなく、身体特性に応じた文化に生きるということに過ぎない。そんな印象を受けた。
 ただ、自助グループは聾者として生きていくことを前提に、精神面でのサポートをするものだ。そこでの生活にひとまず馴染みつつも、ルーベンはあくまで手術での聴力回復に望みを繋いでいた。大切な音響機器やトレーラーを売り払って手術費用を工面する彼だが、物語の肝となるさらに厳しい試練が彼を待っていた。

 希望を失った時、生きてゆく力をどう紡ぐのか。
 ルーベンは、生活だけでなく自己表現に直結していた音を奪われた。そこには誰の悪意も過失も介在せず、恨みをぶつけるよすがさえない。
 失われたかけがえのないものが二度と戻らないという事実を、受け入れることは苦しい。諦めれば楽になるなどと、とても軽々しく言えない。
 それでも覚悟を決めて一歩を踏み出せば、その先は決して絶望のみではないと信じたい。

 そして、監督がインタビューで語ったこの映画のテーマ「目覚め」が、ラストシーンに凝縮されている。ルーベンの苦悩と彷徨の物語をたどってきた私たちも、最後に音のない世界を彼と共有し、どんな言葉より胸に迫る安らかな静寂によって目覚めを体感するのだ。

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ニコ

4.0「ろう」という生き方

2021年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

メタルバンドの話で、ものすごく騒がしい作品なのかと思っていたら、むしろ聴覚を失ってゆくミュージシャンの物語だった。まあ、メタルバンドのドラマーが主人公なので、最初の印象が間違っているわけではないのだが。
タイトルの「サウンド・オブ・メタル」はダブルミーニングだった。メタルバンドの主人公が音を失っていくという点でメタルの音の物語でもあるが、もう一つは、聴力を取り戻すためのインプラント手術後の音を指している。インプラント手術は簡単に言うと金属を耳に埋め込むようなもので、疑似的に聴力を回復させるためのもの。この音が大変に不快な金属音なのだ。映画は主人公が手術を受けた後の音を観客にも体感させる。世界の音の何もかもが金属の反響音として聞こえてくる。本作は、そんな描写も含めて、「ろう」とは治すべき病気や障害ではなく一つの生き方の実践であると描いている。ろう者のコミュニティが牧歌的な心地よいコミュニティとして描かれているのもその表れだ。音が非常に重要な作品なので、本当は映画館で観たい作品である。

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杉本穂高

4.0Deafness, Strangely, A Theme Seldom Explored in Cinema

2021年1月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

It's hard to approach deafness or blindness in the way paralysis was explored in The Diving Bell and Butterfly. How can a film sell if there is no sight or sound to it? Sound of Metal goes in an out of the lead character's head, and to a new realm when cyborg technology takes hold. The film is touching, seeing an authentically portrayed crust punk schooled on community. Also a sad film. Must see!

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Dan Knighton

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