ファースト・カウ

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説

「オールド・ジョイ」「ウェンディ&ルーシー」などの作品で知られ、アメリカのインディペンデント映画界で高く評価されるケリー・ライカート監督が、西部開拓時代のアメリカで成功を夢みる2人の男の友情を、アメリカの原風景を切り取った美しい映像と心地よい音楽にのせて描いたヒューマンドラマ。

西部開拓時代のオレゴン州。アメリカンドリームを求めて未開の地へ移住した料理人クッキーと中国人移民キング・ルーは意気投合し、ある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である牛からミルクを盗み、ドーナツをつくって一獲千金を狙うというビジネスだった。

クッキー役に「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のジョン・マガロ。これまでライカート監督作の脚本を多く手がけてきたジョナサン・レイモンドが2004年に発表した小説「The Half-Life」を原作に、ライカート監督と原作者レイモンドが脚本を手がけた。2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

2020年製作/122分/G/アメリカ
原題:First Cow
配給:東京テアトル、ロングライド
劇場公開日:2023年12月22日

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第70回 ベルリン国際映画祭(2020年)

出品

コンペティション部門 出品作品 ケリー・ライカート
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映画レビュー

4.02人の絆の痕跡が現代まで残る

2024年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

気負いとか気取りのようなものが全然ない映画だなと思った。そして、それがとても尊い美徳になっている。

西武開拓時代、とある街に流れ着いた2人の男、仲間に置いてけぼりにされた料理人のクッキーと中国人移民のキングルーは、街にたった一頭しかいない牛のミルクを夜な夜な絞り、甘いドーナツで稼ごうと画策する。一攫千金を夢見る西部開拓時代で、随分地味な計画を立てるものだ。2人の地味めな男がせっせと牛の乳をしぼり、せっせとドーナツを作って売りさばく。しかし、それが結構繁盛していまい、牛の所有者の名士にも気に入られるが、ミルク泥棒がバレるんじゃないかと気が気でない。
そして、やがて2人の行為がバレてしまい、逃避行が始まる。しかし、2人の男の絆は死んでもきれないのだ。ここを映像で描くショットがとてもさりげなくも美しい。二人の友情の痕跡が。
冒頭とラストがリンクするのだが、そこには人間は滅んでも豊かな大自然が残っていることを示唆している。牛と森と川、そこに映される自然の姿はシンプルに美しくて、自然に生きる人々の豊かな生き方というものがてらいなく映されているのがいい。この時代、おしつけがましくならないことは貴重なことだが、この映画はそれができている。

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杉本穂高

4.0この運命的な川辺でしみじみと沁み渡っていく感情

2023年12月28日
PCから投稿

好みが分かれる作品だろうとは思う。せかせかした日常を送る我々にとってまず必要なのは、ケリー・ライカート監督が描く開拓時代の気が遠くなるほどスローなペースにどっぷり身を浸すこと。時計など気にせず、この永遠に続くかのような会話速度に身を預け、森の静寂と暗闇をこよなく愛し、そこで育まれる彼らの関係性を幾ばくか微笑ましく感じ始めたなら、その頃合いからようやく、我々はこの世界の住人なのだ。川面をゆっくりタンカーが過ぎていく。その200年前、当地で初めての雌牛がいかだでゆっくりと運ばれていく。そのミルクを用いて男たちがスコーン作りで大成功を収める・・・一連の顛末は「わらしべ長者」さながら。と同時に、冒頭の「結末」に向けひたすら流れ、導かれていくこの寓話は、恐らく開拓地オレゴン史上初の友情物語。骨格標本に肉付けしていくかのように丹念に織りなされるストーリーが美しく、唯一無二で、しみじみと沁み渡っていく。

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牛津厚信

5.0映画の冒頭とラストが見事にリンク

2023年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

西部開拓時代のアメリカ、オレゴン州には、アメリカ人だけではなく、様々な国籍の人々が一攫千金を夢見て集まってくる。そこで行われるのは物々交換によって限られた富を奪い合うという原始的な手法だ。

物語は、乳牛の乳と小麦粉を練って油で揚げ、砂糖をまぶしてドーナツを作って荒んだ男たちの舌と心を潤そうとする料理人のクッキーと中国人移民のキング・ルーにフォーカスする。だが、そもそも2人のビジネスは犯罪の上に成立したものだった。

西部開拓時代の物々交換という斬新な視点、ドーナツの真相がいつバレるかとハラハラさせる展開、見どころはいくつかあるが、アメリカンドリームのかけらもないオレゴンの森で知り合い、意気投合したクッキーとキング・ルーが育む友情の意外な重みが、最高に心を打つ。しかも、それを表現するために映画の冒頭とラストを見事にリンクさせた手法が、この映画を忘れられない1本にしている。

なぜか日本では紹介される機会が少なかったアメリカ・インデペンデント界のトップランナー、ケリー・ライカートの最高傑作と呼ばれる本作。願わくば、賞レースを賑わせた昨年度から間を置かず公開して欲しかった。

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清藤秀人

4.0食い物の恨みは恐ろしい

2024年4月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画は巨大な船が川を進むシーンから始まる。その川べりを犬と散歩する一人の女性。彼女がある物を見つけたところで、舞台は現代から一挙に開拓時代へ。そして同じ川を、小さな筏に乗せられた牛がゆっくりと運ばれてゆく。川が“流れゆく時”のメタファーだとすると、ここで時代は遡り、そこで育まれる時間が非常にゆったりとしたものであることを示しているのだろう。と同時に変わらない物として、森や大自然の美しさも対比させている。
一方で、川は“忘却”の隠喩でもある。今では西部劇として美化されてしまっているが、本作に登場する男たちは、テンガロンハットやカウボーイ・ブーツなど身につけない薄汚れた格好で、ヒーローとは程遠く小汚い姿である。描かれるのも乗馬ではなく、牛の乳搾りだ。そしてクッキーはユダヤ系、ルーは中国人というマイノリティな存在で、劇中ではネイティブ・アメリカンともごく普通に共生している。「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」でも描かれていた、これがこの時代の実態だったのであろう。(奇しくも両者にリリー・グラッドストーンが出演している)そして、こうした真実は全て忘れ去られているという現代アメリカへの風刺なのかもしれない。
しかし、本作のメインはやはり2人の友情物語。ユーモラスな出会いから、徐々にビジネスが軌道に乗っていく様は爽快なのだが、牛の所有者にバレてしまうのではないか、どちらか片方が欲に目がくらんで相棒を裏切るのではないかと、ハラハラドキドキしてしまう。
そして冒頭のあの場面。そことリンクするのだから大体の予想はつくのだが、肝心のそこへ繋がるシーンを飛ばしている。つまり、如何にそうなったかは観客の想像に委ねられているのだ。その上で同じく冒頭の「鳥には巣、蜘蛛には網、人には友情」というウィリアム・ブレイクの格言とも結びつき、静謐な感動をもたらすのである。

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ぺがもん