コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第23回
2019年12月12日更新
個人的には「翔んで埼玉」。でも、審査結果は「新聞記者」となった今年の日刊スポーツ映画大賞
11月30日、私は築地の日刊スポーツ本社を訪れていました。今年から「日刊スポーツ映画大賞」の選考委員を拝命し、その選考会に出席したのです。
選考会は、13時開始・17時終了予定となっており、正直「4時間もやるのか!」と参加前から少し尻込みしていました。
私は日本アカデミー賞にも投票していますが、こちらは郵便による投票によって、ノミネート作品も授賞作品も決まる仕組みになっており、選考会というプロセスは存在しません。そもそも、選考会って何のために行われているの? そこが疑問でもありました。
日刊スポーツ映画大賞の選考委員は16名。この16名によって、作品賞、監督賞、主演男優賞・女優賞、助演男優賞・女優賞、さらには石原裕次郎賞、石原裕次郎新人賞など、10の賞の授賞作・授賞者が決定されます。
それぞれの賞には、ノミネート候補が5作品(または5人)あり、それらは、事前に選考委員からの推薦で決まっています。そのノミネート作品の中から授賞作を決定していくのが、選考委員のミッションなのです。
さて、当日ですが、選考委員の中には私にとっての懐かしい先輩方が何人かいらっしゃいました。朝日新聞の編集委員を務めていた秋山登さん、日刊スポーツで映画担当デスクを務めていた相原斎さん、日経エンタテインメントの編集長だった品田英雄さん。知っている顔を見ると安心します。そして、皆さんとてもお元気そうです。
昼食のお弁当をいただいたあと、まずは作品賞の選考から始まりました。そう、いきなり作品賞を決めるという段取り。
映画パーソナリティーの伊藤さとりさんが口火を切って応援トークが始まります。映画監督の寺脇研さんや、社民党の福島みずほさんらがそれに続きます。錚々たる面々が、各自の推したい作品について熱く語っていく展開。みんな熱い。
作品賞ノミネート作品は「新聞記者」「天気の子」「翔んで埼玉」「蜜蜂と遠雷」「宮本から君へ」の5作品ですが、最初の投票で「蜜蜂と遠雷」「天気の子」がまず脱落し、続いて私が推した「翔んで埼玉」も脱落。「新聞記者」と「宮本から君へ」のどちらかに決める決選投票の結果、「新聞記者」が作品賞に決まりました。
この、作品賞決定にいたるプロセスはなかなか白熱していて、最終的に「新聞記者」に決まるまで50分を要しました。ノミネートの段階では3位だった「新聞記者」の見事な逆転勝利です。この映画の「タブーに挑戦する姿勢が買える」というポイントは私もまったく同感。同作と、作品賞を争った「宮本から君へ」の両方が、河村光庸プロデューサーによる作品だってのも興味深いですね。ちなみに、2017年の日刊スポーツ作品賞「あゝ、荒野」も、河村氏がプロデューサーです。
作品賞は「新聞記者」に譲りながら、監督賞、主演男優賞で「宮本から君へ」が受賞したのも納得です。個人的には蒼井優にも受賞して欲しかったのですが、そこは意見の別れるところでしょう。意外にも、選考会における「推薦者の熱いトーク」が重要で、そこが決め手になるケースがいくつもありました。
そして、私もようやく理解できたのです。何で、投票だけで決めないのか。何で、伊藤さとりさんや他のメンバーが自分の推薦作についてこんなにも熱く語るのか。
それは、選考委員たちの、気に入った映画に「賞を取って欲しい」「賞をあげたい」って思いを集約するためなんだと。興行的には振るわなかった映画でも、賞をもらえたら、監督はじめスタッフ・キャストの皆さんは嬉しいですよね。選考委員には、それを成就させるチャンスがある。
私は、日刊スポーツ映画大賞の選考会を経験したことによって、映画を、特に日本映画を見るポイントが明らかに変わりました。
「面白いかどうか」「興行的にヒットするかしないか」に加え、「賞にノミネートしたいか」「賞をあげたいか」というのは、この日に得た新鮮な観点です。日本映画を見る楽しみがひとつ増えました。
この12月に試写で見た映画の中に、来年ノミネートしたい映画が何本か現れています。
2019年の日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎映画賞の受賞作品は以下の通りです。
作品賞 「新聞記者」
監督賞 真利子哲也「宮本から君へ」
主演男優賞 池松壮亮「宮本から君へ」
主演女優賞 松岡茉優「蜜蜂と遠雷」
助演男優賞 渋川清彦「半世界」「WE ARE LITTLE ZOMBIES」「閉鎖病棟 それぞれの朝」
助演女優賞 市川実日子「初恋 お父さん、チビがいなくなりました」「よこがお」
新人賞 清原果耶「愛唄 約束のナクヒト」「デイアンドナイト」「いちごの唄」
外国作品賞 「グリーンブック」
石原裕次郎賞「アルキメデスの大戦」
石原裕次郎新人賞 成田凌「チワワちゃん」「翔んで埼玉」「愛がなんだ」「さよならくちびる」「人間失格 太宰治と3人の女たち」
最後、石原裕次郎新人賞には、このところ売れっ子状態の成田凌が選出されて、4時間に及んだ選考会が終わりました。日刊スポーツ本社を出ると、近くにある築地本願寺は美しくライトアップされており、上空には月が浮かんでいました。なかなか楽しい、とても有意義なイベントでした。
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi