よこがお
劇場公開日:2019年7月26日
解説
カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した「淵に立つ」の深田晃司監督が、同作でもタッグを組んだ筒井真理子を再び主演に迎え、不条理な現実に巻き込まれたひとりの善良な女性の絶望と希望を描いたサスペンス。周囲からの信頼も厚い訪問看護師の市子は、1年ほど前から看護に通っている大石家の長女・基子に、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。ニートだった基子は気の許せる唯一無二の存在として市子を密かに慕っていたが、基子から市子への思いは憧れ以上の感情へと変化していった。ある日、基子の妹・サキが失踪する。1週間後にサキは無事に保護されるが、誘拐犯として逮捕されたのは意外な人物だった。この誘拐事件への関与を疑われたことを契機に市子の日常は一変。これまで築きあげてきた生活が崩壊した市子は、理不尽な状況へと追い込まれていく。主人公・市子役を筒井が演じるほか、市川実日子、池松壮亮、吹越満らが脇を固める。
2019年製作/111分/PG12/日本・フランス合作
配給:KADOKAWA
スタッフ・キャスト
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2020年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
脚本が抜群によくて、役者の芝居も抜群によい。人間の奥深さが見事に描かれていた。人は多面的な存在であって、1つ事象で人物の全てはわからない、わからないから起きてしまう問題というものがあり、本作の物語はまさにそれだ。「よこがお」とは右の横顔もあれば左の横顔もある、全てを見通すことができない、誰にでもある多面性を表している。
主人公は、理不尽な噂と報道によって、イメージを植え付けられる。報道のカメラが写すものもまた、人物の一面でしかない。主人公に憧れを抱く女性もまら、彼女の一面しか見ていない、だから別の側面を見てしまって絶望する。この映画を観終えた後、自分自身の多面的な側面を自分でどれだけ知っているだろうかと自問してしまう。自分は自分自身の「よこがお」すら知らないかもしれない。そんな気分にさせられる作品だ。深田晃司監督は素晴らしい、これからもますます活躍してほしい。
2019年7月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
自意識と外部との関係を考えるとき、建て前と本音とか、外面と内面とか、心と身体を「多層」でとらえる表現が多いのはおそらく、自我を(外から見る客観ではなく)中心から認識する主観で把握しやすいからではないか。
しかし映像では、人物を多層的にとらえることは困難だ。そこで深田晃司監督は、筒井真理子が演じる市子の自我のゆらぎを、過去と現在という2つの時間軸と、それぞれに対応する髪の形と色によって、「多面」で描こうと企てた。思えば現代はコミュニケーションの技術が発達し、情報を大量消費するようになったことで、かえって他者を短絡的に一面でとらえて評価したり非難したり傾向が強まっているのではないか(マスコミと世間の市子への攻撃は典型的)。
市川実日子が演じた基子の内面の動きも、物語を進める補助エンジンとして有効に機能していた。市子と基子、2人の女のミステリアスな心の揺らぎに幻惑され、魅了された。
2019年7月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
この映画をどう形容していいものか、久々に言葉を失った。まずもって巧みに時制が行き来する構成ゆえ、「あらすじ」さえも時間軸通りに語ればいいとは言いがたい。主人公のエピソードが二つあり、交互に語られていく感じだ。一つは現在の話、そしてもう一つは何年か前の話。もちろん、両者は切っても切れない関係性でつながっている。
時折、瞬時に頭の中を切り替えられない自分は「あれ?今どっちの話だっけ?」と戸惑うこともあった。が、この戸惑いは初めから周到に意図されたものだったのかも。なぜなら、主人公は過去でも現在でも、終始心ここに在らずの状態で足元を浮遊させているからだ。
普通ならこの戸惑いは分かりにくさへと転じていくものだが、深田監督の演出は観客を心地よくミステリアスな森の中で彷徨わせる。そしてここから離れがたい気持ちにさせる。この、研ぎ澄まされた采配に何度も何度も息を呑んだ。観ておいて損はない秀作である。
2021年9月10日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
幾重にも解釈できるけど、あんまりハマらず。人間の気持ち悪い成り行きの感情を濃縮還元したような映画。モヤッとするしドロっと痰を吐き捨てるほどの無情さが在った。
あらすじをちゃんと読んでなかったというのもあるが、そもそも前提として、2本の軸で描かれていたのね。過去と現在、浮かび上がる2つの顔。魔性ぶりと堅実ぶりが同居する。遠い放物線が次第に重なり合うとき、ようやく合点がいった。ささやかな復讐をコピーで見ただけにどうなるのかと思ったけど、重く鈍い感情が居座る程度。序盤に引き込まれないとちょっとその違和感や恐怖が匂って来ないように思える。
キャストに関しては何処も豪華でびっくりなのだが、誘拐される子は小川未祐だったのね。すっかり顔の印象が違くて気づかなかった。また、主演の筒井真理子が怖いこと。何を考えているのかもわからず、何を腹の中で考えているかすら見えない。市川実日子との関係性も利用と提供の関係にしか見えなかったから、あの台詞が表立つのも一定の理解を示してしまう。また、掌を返して情報に熱を持って追い続けるメディアの気持ち悪さも上辺だけでアンドロイドのよう。実際あんなもんなのだろうか…。
凄く丁寧かつ多角的に"腐敗"を映し出していたが、ヨーロッパでウケるのも納得である。音楽の使い方も少々わざとらしくて気になったし、まだ映画で完結しきれていない部分があると思った。