アンダードッグ 前編
劇場公開日 2020年11月27日
解説
「百円の恋」の武正晴監督が、森山未來、北村匠海、勝地涼をキャストに迎えたボクシング映画の前編。プロボクサーの末永晃はかつて掴みかけたチャンピオンの夢を諦めきれず、現在も“咬ませ犬”としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々を送っていた。一方、児童養護施設出身で秘密の過去を持つ大村龍太は、ボクシングの才能を認められ将来を期待されている。大物俳優の2世タレントで芸人としても鳴かず飛ばずの宮木瞬は、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑むことに。それぞれの生き様を抱える3人の男たちは、人生の再起をかけて拳を交えるが……。「百円の恋」の足立紳が原作・脚本を担当。3人の男たちを中心に描いた「劇場版」は前後編の2部構成で同日公開。また、3人と彼らを取り巻く人々の群像劇として全8話のシリーズで描く「配信版」もABEMAプレミアムで配信される。
2020年製作/131分/R15+/日本
配給:東映ビデオ
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ボクサーを描く映画はみな少なからず同じ構造を持つ。すなわち人生を描き、そして対決を描くということ。この前後編で4時間半にも及ぶ長編は、序盤、実にスロースターターとして、地べたの人生を路上の反吐が映り込むかというくらいの過酷さで泥臭く描き込んでいく。そこで交わる3人の魂。とりわけ「前編」では二人のエキシビジョンマッチにむけて照準が絞られ、それぞれの思惑の差こそあれ、とてつもない熱量の戦いが繰り広げられる。映画の基調トーンを司るのが森山の鋭くも劣等感と優しさも秘めた目線ならば、そこに変化球を投げつけて他のボクシング映画にはない奇妙な質感を巻き起こすのは勝地の役目。その化学変化と、両者ともに後には引き返せないという覚悟が、観る側を本気にさせる。さらに言えば、彼のセコンドに立つ山本博のセリフ一つ一つが、さも観客の思いを代弁しているようで胸を打った。試合終了のゴングが鳴る頃、自ずと涙がこぼれていた。
アンダードッグ、噛ませ犬の絶望と再起を、あの『ロッキー』の如く描き倒す。『百円の恋』でもボクシングを扱ったことがある脚本家と監督が、その経験値を生かして放った作品は、ちゃんと映像化するのは困難なはずのリング上の風景をリアルに見せてくれる。同じく『百円の恋』から続投のボクシング指導者、松浦慎一郎や、セコンドを演じるボクシングに精通したキャストたち(ここ大事)のおかけで、作り物とは到底見えないファイトシーンを堪能することができるのだ。もちろん、俳優たちの熱演も讃えたい。数台のカメラが映し出すのは、ボクサーを演じる森山未來や北村匠海や勝地涼が、ふらふらしながらパンチを繰り出し、その途端にへたり込みそうになる姿だ。絵に描いたようなマッチョではない彼らの体が消耗していく過程は、本作の最大の見どころ。それぞれ人としての尊厳をかけた2度のボクシングマッチに至る濃すぎる経緯も含めて、前後編合わせて4時間半の上映時間は決して長く感じない。2020年の日本映画屈指の1作。
2020年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
「百円の恋」チームが再び結集し、新たなボクシング映画を手がけた。それも2部作、合計で約4時間半の超大作。ただ驚くなかれ、これが全然長さを感じず、どんどんのめり込んでいく。
3人のボクサーが登場する。森山未來が演じる末永晃は、かつて日本チャンピオンまであと一歩のところまでいきながらピークが過ぎてしまったプロボクサー。北村匠海扮する大村龍太は児童養護施設出身で、ボクシングの才能を認められ将来を嘱望される期待の若手ボクサー。勝地涼が息吹を注ぎ込んだ宮木瞬は、大物俳優の2世タレントとしてパッとせず、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑むことになる。
森山が上手いのはもちろん知っている。北村が才能豊かな若手俳優であることも、知っている。ただ今作では、勝地が素晴らしい存在感を放っている。非常に美味しい役どころであることも含め、現時点で彼の代表作といえるのではないだろうか。
2022年4月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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タイトル戦で、まさかの逆転負けを喫し落ち目になった
ボクサーの物語を主軸に、売れない芸人と将来有望な若手ボクサーの
話が絡んでいくという構成。前編は、ボクサーと芸人のエキシビジョンマッチ。
後編はボクサー同士の戦いがハイライト。
こういう二部作の場合、中途半端な感じで前編が終わってしまい、
フラストレーションがたまりそうな作品が多いのですが、
アンダードッグは、前編だけで完結する作りになっています。
前後編通して見ると、ストーリーにさらに深みが生まれ、
一番のハイライトであるボクサー同士の戦いへと展開していくという流れ。
なかなか考えられた話だなと思いました。
ボクシングのファイトシーンも、なかなかの迫力なんですが、
ただ、現実のボクシングとして捉えると、全然リアルじゃない。
前編のエキシビジョンマッチも、後編の試合も、ああいう展開には
絶対にならないですよね。
途中でレフリーもしくはセコンドが止めるはず。
「最後まであきらめてはいけない。最後までたたかいぬく姿が美しい」
というようなメッセージを伝えようとしているのでしょうが、
それをボクシングという危険なスポーツで表現するのはダメなんじゃないかな?
試合観戦してる家族の姿もおかしい。「やめてくれ。止めてくれ」というのが
自然なリアクションなのに、感動して拍手を送るシーンは違和感。
ボロボロになった息子を見舞って「感動した」いって去っていく父もおかしい。
全体的におもしろい映画だとは思いましたが、残念な部分も多いですね。
そういえば、テレビ番組のボクサーチャレンジ企画。実際にテレビでやっていた
「ガチンコファイトクラブ」そのままだし、竹原慎二氏が出てたのも驚きでした。
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