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【アジア映画コラム】釜山、平遥、東京――アジアの映画祭を巡る! “withコロナ”開催で出合った注目作を紹介

2021年12月7日 08:00

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「ドライブ・マイ・カー」
「ドライブ・マイ・カー」
(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

2021年も残すところあと僅かとなりましたが、いまだにコロナの猛威は収まりません。新たな変異種も発見され、先行きの見えない時代が続いています。そんな状況下において、多くの業界が“withコロナ”という新しいライフスタイルを意識するようになってきています。

映画業界では、カンヌ国際映画祭をはじめ、多くの映画祭がフィジカル、もしくはオンラインでの開催を実施。開催中止という最悪の事態を避けるようになっています。10月から始まったアジアの各映画祭も、無事に閉幕を迎えることができました。第26回釜山国際映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021、第5回平遥国際映画祭、第34回東京国際映画祭、第23回東京フィルメックス、第58回金馬奨/台北金馬影展等々……。

今回は、映画祭の新たな動向と、私が注目した新作を紹介させていただきます。

「偶然と想像」
「偶然と想像」
(C)2021 NEOPA / Fictive

まずは、10月6日に開幕した第26回釜山国際映画祭。今年も昨年に続き、コロナの影響で海外からマスコミを呼ぶことはなく、現地入りすることができませんでした。とはいえ、ラインナップは相変わらず豪華! 最も注目されていたのは、「GALA部門」に出品されていた「偶然と想像」「ドライブ・マイ・カー」でしょう。ベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭で連続受賞を果たした濱口竜介監督は、2021年における“映画界の顔”と言っても過言ではありません。

釜山国際映画祭
釜山国際映画祭

「GALA部門」の上映にあわせて、濱口監督とポン・ジュノ監督のスペシャル・トークも開催されました。対談中、ポン・ジュノ監督は「濱口監督のファンだ」と公言。映画製作に関する質問をしながら、「パラサイト 半地下の家族」と「ドライブ・マイ・カー」における“車中の対話シーン”を比較していました。

濱口監督は「ドライブ・マイ・カー」の“車中の対話シーン”を細かく解説。さらに「ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』が大好き」と話す一幕も。それを聞いたポン・ジュノ監督は「(『殺人の追憶』は)黒沢清監督から非常に影響を受けた」と発言。2時間弱のトークは非常に盛り上がりました。このトークの模様は、釜山国際映画祭の公式Youtubeチャンネル(https://youtu.be/ar2_Nzun2bo)で配信されています(英語字幕付き)。是非チェックしてみてください。

20年度は、春本雄二郎監督の映画「由宇子の天秤」がグランプリを受賞した「New Currents部門」。今年も優秀な新人監督作品が揃っていました。グランプリを受賞したのは、韓国映画「The Apartment with Two Women」と、中国映画「Farewell, My Hometown」でした。

「The Apartment with Two Women」
「The Apartment with Two Women」

「The Apartment with Two Women」は、ある出来事がきっかけとなり、家族の中における母と娘の関係が細かく描かれる、とても余韻のある作品です。同作を手掛けたのは、1992年生まれの女性監督キム・セインさん。長編デビュー作となりました。近年では、釜山国際映画祭で注目を浴びた韓国の女性監督作品が、世界中で話題を集めていますよね。例えば、キム・ボラ監督の「はちどり」、ユン・ダンビ監督の「夏時間」も。キム・セイン監督の今後にも注目していきたいと思います。

「Farewell, My Hometown」
「Farewell, My Hometown」

「Farewell, My Hometown」は、同じく女性を描いた作品。監督のErzhuo Wangは、中国の名門中央戯劇学院を卒業し、本作が長編デビュー作となりました。作品の雰囲気は、まるで私小説のよう。「祖母」「母」「彼女」と3章に分け、ナレーションを駆使しながら、それぞれの“生活”を描出。洗練された演出は、映画祭関係者や観客から高評価を受け、第5回平遥国際映画祭でも国内コンペティション部門特別表彰賞を受賞しています。

「New Currents部門」には、片山慎三監督作「さがす」も入選しました。最終的に受賞を逃してしまいましたが、現地でも評価が高く、「新感染 ファイナル・エクスプレス」のヨン・サンホ監督も絶賛していましたね。ヨン・サンホ監督といえば、Netflixドラマ「地獄が呼んでいる」も手掛けています。

「地獄が呼んでいる」
「地獄が呼んでいる」
Netflix

今年の釜山国際映画祭では、新設された「On Screen部門」が注目されました。この部門には「地獄が呼んでいる」のほか、同じくNetflixで配信されている「マイネーム 偽りと復讐」、HBO ASIAが制作したタイ発のサスペンス&ホラードラマ「Forbidden」が入選し、大きなスクリーンでドラマを上映するという試みを行いました。部門の新設に伴い「映画製作/ドラマ制作」というテーマでトークも実施。「キングダム」シリーズを監督したキム・ソンフンをはじめ、世界的な人気を誇る韓国ドラマのクリエイター陣が、Netflixにおけるドラマ制作、配信時代における映画とドラマ、監督から見るドラマの演出など、さまざまな議論を展開していました。2021年、「イカゲーム」が世界を席巻した韓国ドラマ界。今後どのような展開をみせるのか? 映画業界にどのような影響を与えるのか? 注目すべきポイントです。

平遥国際映画祭
平遥国際映画祭

2017年から開催されている平遥国際映画祭は、ジャ・ジャンクー監督、マルコ・ミュラー氏らの尽力によって、釜山国際映画祭に匹敵するほどの国際映画祭に成長しました。しかし、昨年の映画祭閉幕前日、ジャ・ジャンクー監督と彼のチームが、急遽映画祭の運営から退くことになりました。あまりにも突然の発表に、中国映画業界は衝撃を受けました。

その後、平遥国際映画祭に関する情報はなかったのですが……今年の6月1日、ようやく進捗があり「10月12~19日に開催予定」となったんです。ジャ・ジャンクー監督が映画祭に復帰するという報道もありましたが、具体的にどのようなことを担当するのかは明らかにされませんでした。また、プログラミング・ディレクターだったマルコ・ミュラー氏も、プログラミング・アドバイザー(海外作品担当)となり“最終決定権”を失いました。

例年通りであれば、夏頃から映画祭の宣伝、ラインナップの発表があるのですが、今年の情報は非常に少なかった。なかなかラインナップも発表されないので、ネット上では「本当に開催できるのか?」という声もあがっていました。最終的にラインナップが明かされたのは、開幕直前だったため、映画ファン以外の間では大きな話題になることはありませんでした。そのラインナップも、以前の作家性重視、インディーズ映画を中心とした映画祭の“独自の色”と比較すると「長津湖」「My Country, My Parents」といった、いわゆる愛国映画も入っていたんです。

「宇宙探索編集部」
「宇宙探索編集部」

そんな状況ではありましたが、中国の新鋭監督たちの新作は、映画業界、映画ファンの間で、とても話題になっていました。特に国内コンペティション部門の作品賞を受賞した「宇宙探索編集部」(孔大山監督)は、SNSのトレンド入りまで達成。低予算で作られたSFコメディでしたが「ある意味、中国の低予算版『メッセージ』」「中国SF映画の新境地を開拓した」と評価され、今後は中国での一般公開、海外への展開も期待されています。

「永安鎮の物語集」
「永安鎮の物語集」

また、今年のカンヌ国際映画祭の監督週間にも入選した「永安鎮の物語集」(ウェイ・シュージュン監督)は、今年の中国映画界で、最も注目された1本とも言えるでしょう。“映画業界”や“監督”を描いた作品でもあり、“映画”そのものを描く作品――最も映画祭にふさわしい作品とも言えます。ビー・ガン(「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」)、グー・シャオガン(「春江水暖 しゅんこうすいだん」)に匹敵するほどの、新たな鬼才の登場です。

10月30日に同時開幕となった第34回東京国際映画祭と第23回東京フィルメックス。日本国内におけるコロナ沈静化により、昨年と同様のフィジカル開催となりました。特に東京国際映画祭は、映画祭会場の移転、プログラミングの再編、プログラミング・ディレクターの交替など、変革の時を迎えました。

映画.comと活弁シネマ倶楽部のコラボ番組「10min.アジア」(https://youtu.be/ZQLSGqAIxqs)では、東京国際映画祭、東京フィルメックスに関する特集を実施しています。映画.com編集部の岡田寛司さん、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の堀切健太さんとともに、映画祭の変化、現地での体験、注目作品などを語っていますので、よろしければご覧ください!

ちなみに、同番組で紹介した作品のなかで、台湾映画「瀑布」(チョン・モンホン監督)と「アメリカン・ガール」(ロアン・フォンイー監督)は、第58回金馬奨で大健闘。東京フィルメックスで上映された「瀑布」は作品賞、最優秀女優賞を含む4部門での受賞。東京国際映画祭「アジアの未来部門」で披露された「アメリカン・ガール」は、最優秀新人監督賞、最優秀新人賞を受賞。2作品ともに、感染症によるパンデミックが、社会、家族、そして人に深刻な影響を与えるという切り口となっており、素晴らしい人間ドラマとなっています。今後は、日本国内での劇場公開にも期待したいです!

(徐昊辰)

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