偶然と想像

劇場公開日:

偶然と想像

解説

「ハッピーアワー」「寝ても覚めても」の濱口竜介監督初の短編オムニバス。2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した。親友が「いま気になっている」と話題にした男が、2年前に別れた元カレだったと気づく「魔法(よりもっと不確か)」。50代にして芥川賞を受賞した大学教授に落第させられた男子学生が逆恨みから彼を陥れようと、女子学生を彼の研究室を訪ねさせる「扉は開けたままで」。仙台で20年ぶりに再会した2人の女性が、高校時代の思い出話に花を咲かせながら、現在の置かれた環境の違いから会話が次第にすれ違っていく「もう一度」。それぞれ「偶然」と「想像」という共通のテーマを持ちながら、異なる3編の物語から構成される。

2021年製作/121分/PG12/日本
配給:Incline
劇場公開日:2021年12月17日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第71回 ベルリン国際映画祭(2021年)

受賞

審査員グランプリ(銀熊賞) 濱口竜介

出品

コンペティション部門 出品作品 濱口竜介
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(C)2021 NEOPA / Fictive

映画レビュー

4.5必然の3部作

2021年12月31日
iPhoneアプリから投稿

 今年の締めはこの映画!と、観る数日前からわくわくしていた。シアターが暗くなって映画が始まる瞬間、2時間後には終わってしまっている…と早々と名残惜しさが。期待どおりの、濱口監督らしい3部作だった。
 3つの物語に、直接の繋がりはない。登場人物も場所もばらばらだ。けれども、3つの並び方は絶妙だった(ぶつかり合い、誘いかけ、繋がりの修復)。すっと始まる第1話は、女友達との他愛ないやり取りが延々と続くと思いきや、彼女が乗ったタクシーと同様に物語は急展開、泥沼の一歩手前となる。親友、新たな恋の予感、元恋人…と相容れない3人。そこから再び、ふわりと予想外の展開へ。クラシカルな映画手法に、気持ちよくすっかり引き込まれた。そして、2話へバトンを繋ぐ。
 第2話は、個人的には一番面白かった。第1話の反動のように、軽やかな可笑しみがあふれている。マイペースで捉えどころのない小説家兼教授を演じる渋川清彦さんが、とにかく良かった。彼はまったく揺るぎなく、周りがあたふたと振り回され、変化していく。打算から出会ったはずのヒロインは、会話を重ねる中で、自分の心の奥底を見出す。そんな高揚感もあってか、ちょっとした踏み外しが、唖然とするほどの大惨事を招いてしまう。
 第3話は、偶然の再会に説得力を持たせるべく、ウィルスの拡散でメールやSNSが機能していないという設定がなされている。とはいえ、1話、2話と心地よく振り回されてくると、そんな作為的な設定も、すんなり受け入れられるというものだ。物語自体は、ある意味、最も穏やか。旧友との思いもよらない再会から、2人は今の自分の再発見や過去のやり残しに気付き、ぎこちなくもあたたかな共同作業に至る。
「ドライブ•マイ•カー」の家福が役者たちに求めたように、登場人物たちは感情を削ぎ落とし、淡々と言葉を重ねて物語を紡ぐ。だからこそ私は、五感を研ぎ澄ませて彼らの感情を押し図り、自分ならどうするだろうと想像する。彼らが偶然出くわすシチュエーションは、実生活では遠慮しておきたい悩ましさに満ちている。自分はスクリーンの彼らを眺めていればよい、と気楽に高みの見物をしていたはずが、いつしか物語に引き込まれ、そこに居合わせているかのような切実さが胸に迫る。そして今もなお、ふとした時に彼らを思い返し、語られなかった背景や、その後の成り行きを想う。映画が、日常に重なり溶け合っていくのは、つくづく幸せな体験だ。
 本当に偶然なのだけれど、この映画を観る直前に、古い友人から久しぶりに連絡があった。年賀状がいらなくなるくらい近況をやり取りし、ふっと軽やかな気持ちになった。この偶然は、本作との出会いとも相まって、これからの自分に、きっと欠かせない出来事になっていくと思う。

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cma

4.0「ドライブ・マイ・カー」だけじゃない、濱口竜介監督の真骨頂

2022年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

「ドライブ・マイ・カー」で今や時の人となった濱口竜介監督が手がけた初の短編オムニバス作品。第71回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品され、銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞している。
「ドライブ・マイ・カー」はもちろん素晴らしく、日本映画の2020年代を象徴する作品であることに間違いないが、個人的な好みとしては「偶然と想像」に一票を投じたい。
親友が「いま気になっている」と話題にした男が、実は2年前に別れたかつての恋人だったと気づく「魔法(よりもっと不確か)」では、濱口監督の現場に初参加組と経験組が良いアンサンブルを奏でている。
古川琴音、中島歩、玄理の3人が、今回の濱口組を経て、別の撮影でどのようなパフォーマンスを披露するのか目を離せなくなりそうだ。

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共感した! 5件)
大塚史貴

4.0濱口監督らしい短編集にして堂々たるコント集

2021年12月31日
PCから投稿

正直『ドライブ・マイ・カー』に乗れなかったので警戒心を持って劇場に言ってしまったのだが、ある意味でここまでストレートなコントだとは思わなかった。もちろんコント以外の要素もたくさんあるのだが、でも各エピソードの構成の根幹をなしているのはやはりコントだと思う。濱口監督はどうしても意図やコンセプトを前景として感じざるをえず、そこが作風や個性だとは思いつつも乗れない一因になっていて、本作もそこから外れているわけではない。作為的なセリフもナチュラルに発することができる手練れの役者がみごとだからこそ、逆説的に意図の強さを感じてもしまう。しかしながら、それでもなお余りあるくらい笑わせてもらったし、出てくる俳優たちが途方もなく魅力的だった。古川琴音にいたっては、個性と実力のある若手というより、今後の日本映画を担っていくんじゃないかと思わされるほどの貫禄を感じた。

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共感した! 13件)
村山章

5.0人は日常で演じている生き物

2021年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

3本の中編からなるオムニバス映画で、それぞれも物語にはつながりはない。タイトルにある2つの単語をキーワードに人々の悲喜こもごもが描かれるわけだが、濱口監督の鋭敏さが全編に溢れていて大変見ごたえある作品だった。偶然の出会いから、想像性が生まれ、化学反応を起こして一瞬の奇蹟のような瞬間が最後に訪れる。
日常生活で、人は意外と想像して演じているものなのだとよくわかる3本だ。1話では友人の新しい彼氏が自分の元カレだとわかり、そのことを隠して初対面の人間を演じる、2話ではセックスフレンドの大学生に頼まれ、教授を色仕掛けしようと演じる、3話では高校時代の同級生だと勘違いしてしまった2人の女性が、あえてそれぞれの級友を演じる。それぞれ、偶然の出会いから、想像して誰かを演じている。
全編、肩の力の抜けた、一筆書きのスケッチみたいな感覚なのも、心地よい。結構笑える作品なのだ。「うわー、そこで出会っちゃうあ」みたいな間の悪さとやり取りのズレの滑稽さ。誰にでも訪れそうな、ありふれた日常にこんな豊かな物語があるんだと思わせてくれる素敵な作品だった。

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杉本穂高