ポスターがおしゃれな映画10選 映画ライター・SYOが語る
2020年4月29日 09:00
[映画.com ニュース] 映画.comユーザーの皆さま、こんばんは。映画ライターのSYOと申します。自宅待機が続くこの時期を、少しでも楽しく過ごしていただくために……。前回は 「演技が“ヤバい”ホラー映画5選」をご紹介しましたが、今回もちょっと変わった切り口で「自宅で観られる映画」をピックアップします。
本日のお題は、「ポスター」。特報や予告編よりも先に発表され、作品の世界観を伝える重要な存在です。映画では大きく分けて2種類あり、「ティザービジュアル(ポスター)」「本ビジュアル(ポスター)」などと呼ばれます。
ティザーポスターは初期段階に出すイメージ重視のもの、本ポスターはキャストやあらすじなど色々な情報が足されたものになります(往々にして文字が増えます)。その他、キャラクタービジュアル(ポスター)などもあります。
海外の映画を日本で公開するとき、いわゆるローカライズ――日本の方々が「おっ、観たいな」となるように、独自のポスターを作ります(本国の許可を得たうえで)。そこで今回は、「ポスターがお洒落な映画10本」を、独断と偏見で選ばせていただきました。
今回の基準は、以下の通り。
・本国版ポスターと大きくデザインが違うこと
・本ポスターであること
では、紹介していきましょう!
名作イタリアン・ホラーを、「君の名前で僕を呼んで」(17)のルカ・グァダニーノ監督が大胆に翻案した本作。これは強烈なデザインです……。
一目見ただけで「ヤバい映画」とわかる暗黒舞踏感。主人公→舞踊団→振付師を縦に並べ、「背後に立つ=怖い」を表現しつつ、全体を黒と赤に染め上げ、得体のしれない気味の悪さを画面全体に塗布。様々なポーズを決めた人が集合すると、怪物のようにも見えてきてぞっとしますね……。
しかも、この1枚で「サスペリア」本編の「舞踊団に入ったらアブない集団だった」というストーリーが丸わかり。ロゴを白抜きにすることでしっかり目立たせている点も、流石です。
素直にカッコいい……。これはシビれますね。文字情報を限りなく抑えて、かの有名なエイリアンのフォルムと「エイリアン」のロゴ(しかもこれ、これまでの「エイリアン」シリーズに寄せてます。素晴らしい)、そしてリプリーを彷彿させる白タンクトップの新主人公。
「エイリアン コヴェナント」は「エイリアン」の前日譚を描いた「プロメテウス」(12)の続編。そのことが分かるように、キャッチコピーの「絶望の、産声。」でカバー。完璧としか言いようがありません。
ちなみに、この日本版ポスターは監督のリドリー・スコットも絶賛し、特別に許可を出したそうです。
オバマ前米大統領が、「2018年のベスト映画」に選んだという青春ドラマ。「ムーンライト」(16)や「レディ・バード」(17)、「ミッドサマー」(19)などのスタジオ「A24」の作品です。
プールから顔だけを出し、神妙な表情を浮かべる少女。いったい何があったのか、気になる一枚です。そして、本編の名シーンが写真ではなくイラストで描かれているのもGood! タイトルも敢えて手書き風のデザインで、全体的に「体温」が伝わってくる温かい雰囲気なのも良いですね。
余談ですが、劇場公開時、僕はこのポスターに一目ぼれして買いました(部屋に飾ってあります)。
鬱映画の巨匠ラース・フォン・トリアー監督が、芸術肌の殺人鬼を描いた超アブノーマルな映画。日本では「全部見せます」なR18+指定バージョンで公開され、話題となりました。笑えるほどエグいです。
この作品の日本版ポスター、実は使ってる素材は本国版と同じ。家を模したお洒落なロゴと、ビニールカーテンの隙間からこちらを除いている殺人鬼。しかし日本版では、組み合わせ方をガラッと変え、ロゴの中に写真を入れるというアプローチで「家」のイメージを強調。上手いです。
ちなみに本作にはキャラクターポスターもありまして……。ただ、キャスト陣の身体が異常に折れ曲がった強烈なものなので、勇気のある方は検索してみてください(監督バージョンまであります)。
このポスターを初めて見たときに、美しい色彩に目が吸い込まれました。イタリアで実際に起こった誘拐事件を、幻想的に映画化したラブストーリーー。
上部分では抱き合っている少年少女のロマンチックな姿が映し出されていますが、下部分をよく見ると女の子が腰まで水に浸かって、何かを探すように歩いています。
なんとなく、不穏な空気が漂っていますね。イタリアの美しい自然と、恐ろしい事件……。ダークな要素がそこはかとなく漂っているのが、印象に残ります。
美しく、切なく、儚い。まさにこの作品を象徴するポスターです。
姿が見えない少年と、目が見えない少女の淡い恋――。ふたりのロマンスを描き出す本作は、画像に往年のヨーロッパ映画のようなセピア加工を施し、懐かしさを感じられる手触りに。
青い壁と雨、黄色いワンピース、赤い傘と、シアン・マゼンタ・イエローの三原色が使われているのも見事。ロゴ部分のグラデーションも美しく、そっと寄り添うような「ふたりにだけ、見える愛がある――」のキャッチコピーもお洒落です。
ちなみにこちら、本国版のポスターは少々アダルトなデザインになっています。興味のある方は、ぜひ調べてみてください(そちらも切なくて良いです)。
日本版のポスターでよく言われがちなのが、「文字情報が多すぎる」問題。しかしこの「荒野にて」は、入れたい情報をしっかり入れながらも、文字が写真の邪魔をしていないという好例かと思います。
中でも注目していただきたいのが、タイトルと背景の相性の良さ。薄い水色の空に、桃色のタイトル。まるで、空に浮かぶ雲のような字体。こんなに大きく配置しているのに、見事に調和しています。
「荒野にて」は、天涯孤独の少年と、処分を待つ身だった競走馬の旅を描くロードムービー。淡々とした繊細な作品ながらも、ちょっと驚く展開も用意されています。
Instagramのウォール部分を思わせる、正方形の集合体で構成されたポスター。一枚絵に見せかけて、劇中の名シーンが重ねられているという秀逸なデザインになっています。
妻を失ったのに、哀しみがわいてこない――。日々の生活に疲れ果てて、人間らしい感情を失った男が、身の周りのものを「破壊」することで再出発を図るヒューマンドラマです。
原題の「Demolition(解体)」とは全く違う、深読みしたくなる邦題もセンス抜群。劇中にはエキセントリックなシーンもありますが、「本当はこうありたかった」というような主人公の心情すら、このポスターがカバーしているようにも思えます。
世界的に有名なファッションデザイナー、トム・フォードの監督第2作。小説家志望だった元夫から、彼が書いた小説が送られてきた。その暴力的な内容に、元妻は騒然とする。元夫は何を思い、これを送ってきたのだろうか――。
「小説」をキーアイテムにしている本作を示すように、このポスターではページが破られたようなアレンジが印象的です。さらに、かつての夫を黒く、暗い色調で表現し、かつての妻を明るく、華美な世界で表現。両者のコントラストと、「破られた」ことによる関係の隔絶。この1枚だけで、色々な物語が想像できます。
「破られる」という手法を踏襲したキャラクターポスターも、とてもお洒落です。
最後は、アイデアが光る日本版ポスターをご紹介。永瀬正敏さんも出演したジム・ジャームッシュ監督作「パターソン」です。
詩作を趣味とするバスの運転手と、天真爛漫な妻、そして愛犬の日常を穏やかに描いた良作ですが、このポスターが実に見事なのは、この1枚だけで「日常」を表現しているということ。一見すれば夫婦が眠っているだけですが、夫の横に置かれた本にご注目。なんと、全部違うのです。つまり、これは全て別の日。
同じように見えて、違う。さらに「毎日が、新しい。」というキャッチコピーが、裏付けとなっています。シンプルなデザインであり、主張しすぎていないのに、その奥には巧妙な仕掛けが施されている。味わい深いポスターです。
良いポスターデザインの映画は、往々にして名作・傑作・良作である確率が高い。それは、作品の世界観がポスターという一枚の“画”に、にじみ出しているからでしょう。
今回の記事では、紹介できなかったポスターも数多くあります(とてもハイセンスですが本国版とデザインが近いものや、日本映画で印象深いものなど)。また、レンタル版のDVDやブルーレイのジャケットは、公開時のポスターとデザインが全く違うということもしばしば……。今後はぜひ、ポスターにも注目してみてください!
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