劇場公開日 2020年2月21日

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ミッドサマー : 映画評論・批評

2020年2月18日更新

2020年2月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

花々が咲き乱れるまばゆい映像世界が正常/異常の認識を狂わせる奇祭ホラー

ノーテンキな若者たちが人里離れた旅先で、文明社会の常識が通用しない惨劇に巻き込まれる。これはいわゆる田舎ホラーの王道のプロットだが、「ミッドサマー」のアメリカ人大学生の一行が訪れるのは北欧スウェーデンの山奥だ。そこで彼らは90年に一度行われる夏至の祝祭に参加し、想像を絶する出来事を目の当たりにする。田舎どころではない秘境ホラーである本作は、あの怪作として名高い1973年のイギリス映画「ウィッカーマン」を数段スケールアップさせたかのような“奇祭ホラー”なのだ。

アリ・アスター監督率いるクルーは、代替ロケ地であるハンガリー・ブダペスト郊外の山間部にオープンセットの村を建造した。土着信仰を具現化したシュールな形状の建築物と絵画、装飾品の数々。カルト集団がまとう純白の伝統衣装。大地に咲き乱れる色とりどりの花々。美術、コスチュームのスタッフによる鮮烈なアートワークに負けじと、撮影班の仕事ぶりも異彩を放つ。日の沈まないミッドサマーの草原をまばゆいほどのハイキーのトーンで捉えるとともに、いつしか時間感覚が朦朧とし、現実と悪夢の境目が溶けていく様を幻惑的なカメラワークでビジュアル化。フォークロアなダンスと音楽、極彩色の花飾りがスクリーンに横溢する光景は、めくるめく陶酔感すら呼び起こす。

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ふと我に返ると、これは本当にホラーなのだろうかと疑念がわく。本来、ホラーとはうっとりと酔いしれるものではなく、おそるおそる指の隙間から観てはいけないものを覗き見するジャンルのはずだ。それなのに白昼堂々と奇怪な儀式が次々と繰り出される映像世界は、筆者の困惑などお構いなしにぐんぐん高揚し、冗談のようにカラフルな輝きを増していく。

実はこの映画、視点が普通ではない。主人公のダニーは家族の不幸と恋人による背信の二重苦に見舞われ、精神状態がどん底の女の子。そんな彼女の主観ですべてが進行するため、どこか正常と異常の認識がとち狂っている。他の男子学生たちには理不尽なホラーでしかないこの祭りは、ダニーにとっては未知なる快楽や解放をもたらすファンタスティックなセラピーなのだ!

惨たらしい家族崩壊のオカルト劇だった前作「ヘレディタリー 継承」には、アスター監督の“自伝”的要素がこめられていたというが、おそらく今回の主人公Dani Ardorもまた、韻を踏んだネーミングからしてAri Asterの分身的キャラクターなのだろう。かくして狂気が歓喜へ、地獄が楽園へ反転する映画は、尋常ならざるクライマックスへ突き進んでいく。もはや悲鳴さえ聞こえない、荘厳なる絶頂がそこにある。

高橋諭治

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