雪風 YUKIKAZE : 特集
【本作に出合えて、知って、心から本当によかった】
観る前の想像を“いい意味で裏切る”映画.com推し映画
あの時、大勢を救った艦と男たちがいた…「コード・ブ
ルー」「海猿」に涙した人にもオススメする新たな傑作

「雪風 YUKIKAZE」(8月15日公開)の予告編やポスターを見たとき、「戦争映画」と思った人も多いだろう。だが、それはほんの入口にすぎない。
実際に本編を体験すると、そこにあったのは“戦うこと”以上に、“生きること・救うこと”にフォーカスされた、壮絶にして美しいヒューマンドラマだった。

誰かのために命をかけるとは、どういうことなのか。一隻の艦が激しい戦闘を何度も何度も生き抜き、危機的状況にある仲間を次々と助けては、生還を果たしてきたという“奇跡の史実”が、今を生きる私たちの心を強く揺さぶるのだ。
想像をいい意味で裏切る“感情”にめぐりあった、映画.com編集部の鑑賞レビューをご紹介しよう。
【最初に結論】
この映画に出合えて、本当に、本当によかった。「コード・ブルー」「TOKYO MER」「海猿」などに涙した人へ贈る感動作だった。

観終わったあと、胸の奥にじわじわと温度が広がる。満たされたとか、感動したとか、そんな単純な言葉ではなく、もっと、ずっと深いところに響く映画だった。
「雪風 YUKIKAZE」の本質は、戦闘や犠牲をドラマティックに飾り立てるのではなく、“生きること・命を助けること”の尊さが真正面から描かれること。そんな物語は、「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」や「TOKYO MER 走る緊急救命室」「海猿」などの“命を助けるテーマ”に感動し、人生を突き動かされた人にも、きっと響き渡るはずだ。

この作品に出合えたことで、自分自身の価値観にも変化があった気がする。今、観られたことが本当に、本当に良かった――心から、そう言える映画だと断言したい。
【予想していなかった“史実”のすごみ】
戦争映画にあまり興味がない自分も、雪風の事実に胸がアツくなる…戦時中、大勢を救った艦と男たちがいたことを、私は知らなかった。

正直に言えば私はこれまで、戦争映画に対してどこか身構えてしまうところがあった。もちろん重要なジャンルであることは百も承知だが、だからこそ重く、悲しく、気合いを入れて観なければ、というイメージが強かったからだ。
しかし「雪風 YUKIKAZE」は、そんな凝り固まった姿勢を、根本からほぐしてくれた。全編に“救い”と“希望”があった――。
あらすじは予告編などから把握していただければ幸いだ。ここで知っておいてほしいことは、(大事なことなので何度も繰り返すが)雪風という艦があり、「戦うために出撃し、仲間を救って生きて戻った」ということだ。

激しい戦闘の最前線で勇猛果敢に活躍する“駆逐艦”でありながら、沈没したほかの艦の仲間たちを救い続け、自らは沈むことなく何度も奇跡の生還を果たした雪風。“幸運艦”と呼ばれ、日本のみならず世界的な称賛の声を浴びた。
本作の彼らは時に、敵兵さえも海から引き上げ帰ってきた――そのような“事実”があったことを、私はこの映画で初めて知った。出演した竹野内豊や玉木宏ら、「誰かを救うため」に行動する男たちの一挙手一投足、セリフの一つ一つに、胸がひたすらにアツくなった。
このような“理屈を超えた感情がこみあげてくる体験”は、そう簡単に味わえるものではない。
【期待を超えた“ヒューマンドラマ”】
日本を代表する豪華キャストで紡ぐ、生きること、救うこと、そして日常の愛おしさ。あふれる涙が、抑えきれなかった。

本作の魅力は史実だけではない。豪華キャストで紡がれる“ヒューマンドラマ”の圧倒的な力だった。
物語の軸となるのは、竹野内豊演じる艦長・寺澤一利。戦場における上層部からの命令と、部下の命。その狭間で揺れながらも、常に「生きて帰る」「生きて還す」ことを信条に行動する姿は、時に父性すら感じさせる力強さを持っていた。

そして、彼を取り巻く人間模様──雪風を誰よりも知り尽くす先任伍長・早瀬役の玉木宏、早瀬に救われ、絆を育んでいく井上役の奥平大兼、戦地の兄の帰りを待つ早瀬サチ役の當真あみ、寺澤が不在の家を支える妻・志津役の田中麗奈、海軍大将・伊藤整一役の中井貴一――それぞれが切実なバックボーンを抱えた“生身の人間”として描かれており、1人1人それぞれの感情が、迫真の演技とともにドッと流れ込んでくる。
なかでも劇中で印象的だったのは、彼らの日常の温かさが際立っていたこと。束の間の休息日に、酒を片手に好きな映画の話をする。仲間たちが寝静まった夜、生まれ故郷に思いを馳せる。久しぶりの雨をシャワー代わりに体を洗い、晴天の甲板で輪になって相撲をとる。

緊張の連続の中に差し込まれる、何気ない日常のかけら。涙があふれるほどに愛おしく、今の私たちが暮らす“平和な日々”が、いつもより輝いてみえる。そんな心の変化をもたらしてくれた「雪風 YUKIKAZE」は、まぎれもなく“多くの人に観てほしい一作”だと思う。
【どうしても刺さりに刺さった“リーダーシップ”】
主人公・寺澤一利のチームの導き方を観れば、自分自身がレベルアップする――職場でも学校でも家庭でも、様々な人が参考にできる心構えが詰まっていた。

本作は会社や学校、そして家庭におけるさまざまな局面で、参考になる実用的なテーマも多く盛り込まれていた。
それが、雪風を率いる寺澤一利(演:竹野内豊)のリーダーシップである。寺澤の“導き方”は、まさに現代にも通じる“理想のリーダー像”だった。

時にエゴイスティックに感じられるほど、寺澤は他人のことや人道について考える。自分だけが助かろうと保身に走るのではなく、的確に仲間たちを導き、鼓舞し、間違っていることは間違っていると叱責し、不発弾の解体現場からも動かず、運命をともにする覚悟がある。
命令だけでは人は動かない。理念だけでも人はついてこない。彼が見せたのは、その中間にある“信じる力”と“背中で見せる姿勢”だったように感じた。「この人になら命を預けられる」。観客席の私も、1人の登場人物としてそう思った。
職場で部下を抱える人、部活やサークルで仲間を束ねる人、家庭で子を育てる親、誰かを支えるすべての人にとって、この映画は「導き方」においても深く刺さるはずだ。
【映画館でこそ迫力が増す“緊迫の戦闘”】
前知識なしでも、圧巻の“リアリティ”に言葉を失う――あえて“くぐもらせる”音の演出が、映画館での体験を忘れがたいものにする。

映画館で観るべき理由についても語っておこう。個人的に非常に琴線に触れたのが、戦闘の描き方だった。
正直、戦闘や史実のリアリティについては知識が乏しいため詳述できないが、いち映画ファンとして言えば、“空気の重み”や“緊張感の密度”が、劇場空間でひしひしと伝わってきたことを特記したい。

なかでも、砲撃の炸裂音、爆発音、艦体がきしむ低い唸りなどが、“くぐもった音”で演出されていたことに感銘を受けた。
一枚の厚い鋼板を隔てて外から聞こえてくるような、“あえて鮮明には鳴らされない”音の設計。これがかえってリアルで、作られた派手な音よりも「本物」のように感じられて、まるで艦内に自分がいるかのような臨場感を生み出していた。

戦闘は派手であればいいというものではないのだ。むしろ、激しい戦闘のなかに、ぽっかりと“静けさ”や“何が起こるかわからない空気”がある、これこそが、張り詰めた緊迫感を生み出すのだと再認識させられた。
【やはり最重要だった“平和へのメッセージ”】
戦後80年、昭和100年を迎える2025年に願う愛と平和。これは単なる警鐘ではない。今、観るべき最重要作のひとつだった。

「九死に一生はあっても、十死に零生という戦法はない」
「守らねばならぬ者のために、我々は生きなくてはなりません」
物語中盤、寺澤と早瀬が発するこれらのセリフは、本作のテーマを明確に表現しているように感じた。そして、特攻に向かう零戦を目の当たりにした寺澤らの表情が、何よりも雄弁に観客へ訴えかける。

この物語は「戦争は二度と起こしてはならない」としつつも、さらにその先の、極めて重要なメッセージを託す。それは、もしも戦争が起きてしまったならば、なにがなんでも生き抜くべきだ、ということ。
敵を倒すことよりも、生きて帰り続けた雪風。日本には“滅びの美学”があるが、死は美徳でもなんでもない。どんなときも、生きるのだ――。
その意味で、本作は“戦争と、生きること”を描いた新たな傑作なのだと、筆者は断言したい。

2025年は戦後80年であり、“昭和100年”という大きな節目を迎える。今、世界中で戦火が絶えず、日本も100%無関係とは言い難い状況が続いている。この作品が、この時代に公開される意味は、あまりにも大きい。
だからこそ。この記事を読むあなたに、いや、可能な限り多くの人に、本作「雪風 YUKIKAZE」を知ってもらいたいのだ。
【最後に:ラストの感情は言葉にできない】
観ると必ず心に刻まれる“とんでもなく素晴らしいシーン”――エンドロールまで、席を立たないで。

「雪風 YUKIKAZE」のラストシーンは、言葉では表現しきれない“感情”を残していった。映画.com内でも満場一致で「ラストとエンドロールの一連のシークエンスが素晴らしすぎた」と話題になったほどだ。
それは決して劇的でも、派手でもない。しかし、物語を最後まで見届けた観客の心の奥に、静かに、確実に沈殿していく何かがある。さざ波のようにゆっくりと押し寄せ、やがて私という存在自体を包み込み、決意を新たにさせる。そんな余韻があった(実際に、その目、耳で感じてほしい)。

エンドロールが流れるあいだ、私はじっと、本作がくれたメッセージを考え続けていた。私は何をすべきなのだろう。未来に向けて何ができるだろう。一歩ずつ、小さくても、自分が何かをできるような気がしてきた。
「雪風 YUKIKAZE」は、単なる感動作ではない。この映画に出合えてよかった。“今を生きる私たち”が、心からそう思える特別な一本なのだと、私は思う。
