【中国映画コラム】市場累計興収は1兆円! 2019年を総括する“10大ニュース”を発表
2020年1月26日 12:00
[映画.com ニュース] 北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数274万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”を聞いていきます!
1月15日に配信されたニュース「2019年中国映画興行ランキング」(https://eiga.com/news/20200115/5/)でも明示されたように、中国映画市場は“市場累計興収1兆円”の時代に突入し、好景気が続いています。しかし、19年は、様々なトラブルも発生しました。今回は10個のテーマをチョイスして、同年の中国映画市場について語ってみたいと思います。
中国年間興行収入(市場の累計)は、約1兆円の642億6600万元となり、歴代記録を更新しました。18年は609億8000万元(9512億9000万円)だったため、5.4%の増加。ちなみに、19年度の北米年間興行収入は、18年より4.9%減少(113億2000万ドル:1兆2500億円、Box Office Mojo調べ)。中国と北米の興行規模は、さらに近づいている傾向にあると言えるでしょう。
19年の中国映画市場では、10億元(156億円)を超えた作品は15本(中国映画:10本、外国映画:5本)。外国映画を含めた総合興収ランキングのベスト10に中国映画が8本も入ったため、中国映画の年間市場占有率は64.1%に上昇しました。特に、旧正月に公開されたSF大作「流転の地球」、夏休みに封切られたアニメ映画「Ne Zha(英題)」の奮闘ぶりが顕著です。「流転の地球」は、興収46億8000万元(725億4000万円)となり、旧正月映画市場を独走。「Ne Zha」は口コミが功を奏し、50億1000万元(766億6000万円)となり、中国映画興行収入歴代2位に輝きました。
とはいうものの、絶好調の裏側には、問題点もあるんです。それは「興収、動員の前年比が、毎年下がっている」ということ。興収では、17年は22.3%、18年は9.1%、19年は5.4%となっているため、マーケットが飽和状態に近づいていることを示しています。特に、動員が昨年から0.5%しか増えていないという点には、注目しておかなければなりません。国内経済の下振れ、大企業の映画界離脱、厳しい政策――これらの不安定な要素は、今後の中国映画界に大きな影響を与えるでしょう。
中華人民共和国誕生70周年を祝した記念映画が数多く製作され、大ヒットしました。その一方で、作品への検閲が、さらに厳しくなっています。記憶に残っているのは、第69回ベルリン国際映画祭。チャン・イーモウ監督の新作「One Second」を含めた2作が“技術的問題”によって、上映が中止となりました。現在でも、中国国内での公開は実現していません。この出来事から“技術的問題”による上映中止は、19年の中国映画市場を象徴するキーワードのひとつになりました。
最も損害を受けたのは、大手映画会社「Huayi Brothers」です。製作費8000万ドルの大作「The Eight Hundred(英題)」を、夏休みのタイミングに公開する予定でしたが、なぜか“技術的問題”で上映中止となりました。その後「ついに上映される!」という噂が何度も流れましたが、まだ上映には至っていません。また、他作品にもトラブルが生じたことで、「Huayi Brothers」は存続の危機に陥ってしまいます。この事態は、誰にも予想できませんでした……。“技術的問題”の被害に遭った作品は、かなり存在しています。このような状況が継続すれば、映画市場はもちろん、映画人の創作意欲にまで影響を与えかねません。
Netflixで配信されている「流転の地球」は、当初それほど注目度は高くありませんでしたが、口コミのおかげで、旧正月の興行収入ランキングで逆転首位に。その勢いは、旧正月が終わっても止まらず、最終興収46億8000万元(725億4000万円)まで到達しました。「流転の地球」の成功は“中国でもSF大作を作れる”という可能性を見出しましたが、決して良作とは言えない仕上がりだと感じています。海外では「よくわからない」「科学をなめるな」という意見も多かったですね。
また、夏休みに公開されたSF大作「上海要塞」(Netflix配信中)は、「流転の地球」とは真逆に、興収は1億2300万元(19億2000万円)。評価も散々で、惨敗を喫しました。中国国産SF映画の発展は無視できませんが、まだまだ多くの課題が残されているでしょう。
19年を代表する中国映画といえば、国産アニメ映画「Ne Zha」でしょう。中国アニメ業界が急成長しているという事実は周知されていると思いますが、50億元超えの興収を記録するなんて、誰も予想していませんでした。他作品への規制、国民的キャラクターである“ナタ”が成功の要素にあげられますが、最も大きな要因は完成度の高さ。「Ne Zha」以外にも、日本でも話題となった「羅小黒戦記」が3億1500万元(49億1000万円)、「White Snake(英題)」が4億5500万元(71億円)と大ヒットしたため、SF映画よりも、国産アニメへの期待が高まってます。20年の旧正月(1月25日)には、「Ne Zha」に続くシリーズ第2弾「JIANG ZIYA:Legend Of Deification(英題)」が公開されます。今度の主人公は、伝説の軍師・姜子牙――どんな作品になるのか、かなり期待されています。もし「Ne Zha」のようなメガヒットとなれば、中国国産アニメは絶頂期へと突入していくでしょう。
中華人民共和国の“70歳”を祝して、建国70周年をテーマとした作品が多数製作されました。10月1日の建国記念日から始まる「国慶節」という1週間の大型連休があります。この連休中には、各映画会社の話題作が上映されていますが、昨年は特に話題作が多く、「国慶節」1週間の累計興行収入を大幅に更新。50億5000万元(782億7000万円)というとてつもない数字叩き出したんです。
愛国心を利用し、映画を製作、あるいは宣伝を行うという手法は、近年の中国では珍しくありません。歴代興収トップの「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」(56億8000万元:約909億3000万円)も愛国映画です。しかし、以前と比べたら、現在の中国では“単なる愛国映画”では、動員が難しくなってきたという事実もあります、そういう意味では、「国慶節」に上映された2本は成功例と言えます。70周年記念プロジェクトのひとつとして製作され、チェン・カイコーを含む7人の名監督が“中国人と中国の発展”を描いたオムニバス映画「My people My country(英題)」は、31億4000万元(486億7000万円)。「インファナル・アフェア」シリーズのアンドリュー・ラウ監督がメガホンをとり、実際に中国で起こった四川航空8633便事故をモデルにした奇跡の生還劇「The captain(英題)」は、29億1000万元(451億1000万円)。両作ともエンタテインメント性があり、非常に完成度が高く、観客をしっかりと満足させた仕上がりだったと言えるでしょう。
ハリウッド映画の成績はどうだったでしょうか? 「アベンジャーズ エンドゲーム」は公開2日間で10億4500万元(172億7000万円)、最終興収42億3000万元(655億7000万円)というとてつもない成績を残しました。しかし「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」(1億4300万元:22億3000万円)をはじめ、日本では大ヒットした「アラジン」(3億6800万元:57億4000万円)、「ターミネーター ニュー・フェイト」(3億5500万元:55億4000万円)、エリザベス・バンクス監督版の「チャーリーズ・エンジェル」(7600万元:11億9000万円)、中国国内で人気のあるアン・リー監督の新作「ジェミニマン」(2億3500万元:36億7000万円)は、期待外れの興行成績でした。
19年の映画市場占有率を見てみると、外国映画の割合は35.9%。確かに外国映画の上映本数は限られていますが、10年前の市場占有率の方が上(56.4%)なんです。「スター・ウォーズ」といった昔から続く人気シリーズは、市場形成の遅かった中国では、受け入れられにくいですし、ディズニー・アニメでさえも、中国での成績はそれほど優れたものではありません。どうやって中国の観客を獲得でしていくのか――ハリウッドのエリートたちにとって、大きな課題になっているはずです。
新鮮かつ大胆な宣伝戦略によって、興行成績とは無縁のアート映画が、大ヒットへと導かれました。特筆すべきは「存在のない子供たち」「グリーンブック」です。3億7400万元(約56億8000万円)を稼ぎ出した「存在のない子供」に関しては、上半期の総括(https://eiga.com/extra/xhc/4/)で触れたので、ここでは省略します。今回は「グリーンブック」についてお話しましょう。 第91回アカデミー賞作品賞ほか全3部門を制しましたが、中国の興行成績を調べてみると、“オスカー受賞”という経歴はそれほど興行成績に影響を与えないということがわかりました。では、何故「グリーンブック」は当たったのでしょうか?
「わかりやすく共感できる内容」「口コミで絶賛された」という前提はありますが、興収4億7800万元(約76億円)となったのは、ユニークな宣伝戦略のおかげと言われています。映画をご覧になった方はご存知だと思いますが、劇中に「ケンタッキー」が登場しますよね。あまり知られていませんが、中国のファーストフード業界では、ケンタッキーがマクドナルドよりも人気&知名度が上なんです。宣伝サイドは、中国人であれば誰もが知っているケンタッキーを上手く利用し、結果を出しました。具体例としては、微博(ウェイボー)に作った「『グリーンブック』を見たら、ケンタッキーを食べたくなりました」というキーワードが話題となり、1週間も経たず、PV数が4億回に到達。長時間のトレンド入りを果たしたんです。「存在のない子供たち」「グリーンブック」の成功によって、アート映画の可能性が見えました。映画宣伝のシステムにも、大きく影響を及ぼしていくでしょう。
日本映画の上映本数は、24本。内訳は、アニメ作品が17本、実写作品が7本――この数字も歴代最多です。日本映画の興収1位は、4億8800万元(75億6000万円)の「千と千尋の神隠し」。18年に上映された「となりのトトロ」(1億7368万元:27億6000万円)に続き、ジブリの実力を感じました。一方、実写作品は苦戦続き……。興収ランキング(日本映画に限定)のベスト15には、第7位に「祈りの幕が下りる時」(6700万元:10億4000万円)が入っただけ。実写映画は、どのように中国映画市場で道を切り拓いていけばいいのか――日本の映画会社は、もっともっと海外向け宣伝プロモーションの戦略を練らなければならないはずです。
「天気の子」(2億8800万元:44億6000万円)を大差で抜き去った「千と千尋の神隠し」は、01年の日本公開から18年越しに公開されました。しかも、大半の人は海賊版を見たうえで「もう一度スクリーンで見たい」という気持ちで劇場へ行っています。旧作だとしても、その魅力を再び劇場で体感したいと考える人は、数百万人はいるはずです! 11月には、ジュゼッペ・トルナトーレ監督作「海の上のピアニスト」も上映されたんですが、反響が非常に良く、興収も1億4300万元(22億3000万円)。この数字は「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」を超えるものですね。ジブリ作品はもちろん、今まで上映されなかった作品は、旧作上映という形によって、中国の観客と出合うのかもしれません。映画ファンには嬉しいことですし、ビジネスとしても成り立つのでは?
インターネットの時代に突入した中国。各映画会社は「インターネットを駆使して、どのように映画を宣伝するか」という課題に直面しています。ウェブメディア、微博(ウェイボー)、tiktok――19年は、新たな宣伝方法が試されました。ECサイトが強い中国では、生中継で“モノ”を売るという手法が目立ち始めています。つまり「ライブコマース」です。でも、まさか映画チケットにまで手を出すとは……。
「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督が、第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品された新作「The Wild Goose Lake(英題)」を発表しました。ただし、アート映画というイメージが強いため、誰もが「どのように宣伝すればいいのか」と悩んでいたようです。そこで、人気ECサイト「TAOBAO」とのコラボを企画。主演のフー・ゴーが、生中継で映画を解説しながらチケットを売るという奇想天外なことをしました。結果はどうなったか。開始6秒で、チケット25万枚が瞬殺。しかもチケット収入に加えて、映画自体への注目度も高まったんです。このような企画への疑問や批判はありますが、結果は大成功でしたし、今後の動向にも注目したいと思っています。
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