ワン・セカンド 永遠の24フレーム

劇場公開日:2022年5月20日

ワン・セカンド 永遠の24フレーム

解説・あらすじ

北京2022冬季オリンピック・パラリンピックで開閉会式の総監督を務めたことでも注目を集めた巨匠チャン・イーモウ監督が、映画をめぐるさまざまな思いを描いた人間ドラマ。1969年、文化大革命下の激動の中国。造反派に抵抗したことで強制労働所送りになった男は、妻に愛想を尽かされ離婚となり、最愛の娘とも親子の縁を切られてしまう。数年後、「22号」という映画の本編前に流れるニュースフィルムに娘の姿が1秒だけ映っているとの手紙を受け取った男は、娘の姿をひと目見たいという思いから強制労働所を脱走し、逃亡者となりながらフィルムを探し続ける。男は「22号」が上映される小さな村の映画館を目指すが、ある子どもが映画館に運ばれるフィルムの缶を盗みだすところを目撃する。フィルムを盗んだその子どもは、孤児の少女リウだった。「最愛の子」「山河ノスタルジア」のチャン・イーが主人公の男を演じ、少女リウ役を本作でデビューを飾ったリウ・ハオツン、村の映画館を仕切るファン電影役を「道士下山」などで知られるファン・ウェイが演じる。

2020年製作/103分/G/中国
原題または英題:一秒鐘 One Second
配給:ツイン
劇場公開日:2022年5月20日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第69回 ベルリン国際映画祭(2019年)

出品

コンペティション部門 出品作品 チャン・イーモウ
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映画レビュー

4.5対比と描写がひたすら胸を締め付ける

2022年5月28日
PCから投稿

映画が幕を開けるや、砂漠をゆく男の姿が映し出される。どれほど砂になぶられても歩調を緩めない彼の目的は何なのか。「フィルム缶」をマクガフィン代わりにした序盤では、セリフや状況説明を控えめに、中年男と少女との偶然性に満ちた出会いをスラップスティック風に編み上げていく。それに続く展開部をなんと表現しよう。場内に入りきらないほどの映画の観客たちが同じ方向を、瞬きもせずじっと見つめる。その荘厳かつ幻想的な光景は映画ファンにとって神聖で祝祭的なものだし、しかも中年男が主張するには、冒頭のニュース映像の中に長らく会っていない愛娘の姿が刻まれていると言う。彼にとってはメインの大作映画よりもこの娘が映る1秒間、24フレームの方がよっぽど大切なもの。そのシンプルながら深みを帯びた構造は、砂漠と人間、文化大革命と市民、永遠と一瞬とも自ずと詩的に重なっていくかのよう。その対比と描写がひたすら美しく胸を締め付けた。

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牛津厚信

3.5表現の不自由な国で作られる映画の不幸

2022年5月6日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

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高森 郁哉

3.5Classically Chinese

2022年4月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

Actors covered in soot, long walks in the Gobi desert; the slow pace of One Second is old-fashioned Zhang Yimou. Actually it is a nice break from the special effects-laden epic movies he has been famous for the last two decades. Consider it an apology for that turd The Great Wall. Returning to the sentimentality of To Live, it shows the love of cinema exists even in Communist propaganda reels.

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Dan Knighton

4.0映画とランプシェード

2025年7月5日
PCから投稿

1975年、文化大革命の最後期。
片や労働活動中に亡くなった娘が出ているニュース映画を見るために労働矯正施設を脱走した男。
片や母を亡くし父親に捨てられた孤児の少女。幼い弟を養いながら必死に生き延びようとしているが、映画フィルムでつくったランプシェードを焼いてしまったため、弁償しようと映画フィルムを盗む。
少女が映画フィルムを盗み、男がそれを取り戻そうとすることで二人が関係していく。

80年代、中国で高倉健主演の君よ憤怒の河を渉れが公開された。中国名は追補、8億人の中国人が見たと言われている。
70年代の中国は毛沢東による文革のもと停滞の10年と言われた。恐ろしい社会的実験が現実に行われ、紅衛兵は旧思想旧文化を唾棄し、歴史物・文化財を破壊し商品の生産販売を禁止し、職人や旧時代関係者が吊るし上げられた。芸術性が忌避され実用的なものだけが残った。麻雀や娯楽が禁止され、頑なな貞操観念が流布された。人々は違反者を密告し、かつ密告を怖れながら質素に希望を捨てて暮らした。ブルジョア・贅沢品を徹底排除した文革下の生活は、ようするに何にもなかった。

そんな文革に染まっていた中国で、文革後はじめて公開された日本映画が君よ憤怒の河を渉れだった。何もない洞穴生活を余儀なくされてきた中国人にとって、どれほどの衝撃だったことだろう。
当然だが今君よ憤怒の河を渉れを見ても何のことはない。70年代、西村寿行は非情な運命に翻弄されるハードボイルド小説を書く超売れっ子作家だった。映画は、大味で短絡的で、大胆な原作を強引に翻案した感じが顕著だった。
しかしあらゆる贅沢品が禁じられてきた世界の住人が突然それを見せられたら魅了されてしまうに違いなかった。

結果、君よ憤怒の河を渉れは文革を経験した中国人の語り草になった。高倉健と中野良子はかれらの心に刻まれ、チャンイーモーは単騎~(2005)に高倉健の出演を懇請した。ジョンウーは福山雅治主演でリメイク(マンハント、2017)をつくった。

そんな文化大革命時の生活の様子をかいま見ることができる映画だった。
冒頭、男が茫漠たる砂漠を歩いている。男の目的はまだわからないが、何もないことはわかる。男の眼前で少女がフィルム缶を盗み追いかけっこが始まり次第に両者の目的がわかってくる。
男の目的は映画の前後に放映されるニュース映画に一瞬映っていた──と人伝えに聞いた亡くなったじぶんの娘を見ることだ。そのために矯正施設を脱走しタクラマカン砂漠を歩いてきた。
少女の目的は弟のためにフィルムを盗んでランプシェードをつくることだ。
ふたりは、それぞれのおそろしくつましい目的のために、しかし命がけだった。

チャンイーモーは文化大革命について──

『文化大革命は中国の歴史において、世界でも類を見ない特別な時代でした。それは私の青春時代の一部でした。16歳から26歳までの10年間、私は多くの恐ろしく悲劇的な出来事を目の当たりにしました。長年、あの時代を題材にした映画を作りたいと思っていました。人々が制御できず、非常に敵対的な世界における苦しみ、運命、そして人間関係について語りたいのです。自伝的なものも、他者の物語に基づいたものも含め、1本だけでなく、たくさんの映画を作りたいと思っています。それはもう待つしかないですね。』(imdbのQuotesより)

と語っておりじっさい初恋のきた道(2000)、サンザシの樹の下で(2010)、妻への家路(2014)も文革が絡んでくる映画だった。

チャンイーモーは高倉健や黒澤明を崇拝している一方で、過激描写の反日映画金陵十三釵(2011)をつくっているが、その意中を知るにあたり映画の登場人物の行動理念が参考になる。
思いやりを描写するにしても中国人は総じて日本人のように全面的には寄せず、自分が生き延びるためにドライなところを残している。裏切るし密告もするがお互い様だから恨みっこなしにしてくれ──という感じがある。
商業作家として資金を調達するために現実的な立脚点に立ち、かつ中共から目をつけられないようにしているともいえる。
なんにせよチャンイーモーは演出が巧いし、張譯も劉浩存もいい表情をとらえていて魅力的だった。

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津次郎