作品の完成度
2008年に公開された本作は、『名探偵コナン』劇場版シリーズの第12作。クラシック音楽をテーマに、音楽家を狙った連続殺人事件の謎をコナンが解き明かす物語。物語の根幹にクラシック音楽を据え、劇中では「アメイジング・グレイス」や「アヴェ・マリア」といった名曲が効果的に使用され、作品世界を彩る。しかし、一方で、クラシック音楽の描写において、専門家からは現実離れした部分が指摘される声もある。例えば、クライマックスにおける灰原哀のリコーダーの描写や、コンサートホールでの音響の表現など、音楽的な整合性よりも物語的な演出を優先した点が批評の対象となる。また、犯人の動機が事件の規模に対してやや弱いという意見も散見され、シリーズ特有のスケールの大きさと、個人的な復讐心という動機との間にギャップを感じさせる部分がある。しかし、クライマックスの演出は非常にドラマチックで、危機的状況に立ち向かうコナンとゲストキャラクターの連携は、見ごたえのあるシーンを生み出している。全体として、音楽という新たなテーマに挑戦した意欲作だが、その描写の細部において賛否が分かれる完成度といえる。
監督・演出・編集
監督はシリーズを長年手掛ける山本泰一郎。クラシック音楽を題材としながらも、アクションシーンやサスペンスフルな展開を巧みに盛り込み、エンターテイメント性の高い作品に仕上げている。特に、クライマックスのコンサートホールの爆破や、コナンとゲストキャラクターが協力して事態を打開するシーンの演出は、緊迫感と高揚感を同時に生み出す。編集もテンポが良く、事件の真相へと向かう推理パートと、アクションパートのバランスがとれている。しかし、一部では、物語の展開がやや強引で、ご都合主義的な側面があるとの声もある。特に、音楽的なトリックや、コナンが窮地を脱する描写には、リアリティよりもファンタジー要素が強く感じられる。
脚本・ストーリー
脚本は古内一成。クラシック音楽という題材をミステリーに落とし込むというアイデアは新鮮で評価できる点。音楽学校出身者が次々と殺されるという連続殺人事件から始まり、コンサートホールでの大爆破計画へとスケールが拡大していくストーリーは、劇場版らしい壮大さを感じさせる。また、コナンが絶対音感を持つソプラノ歌手と協力して事件を解決するという構図も興味深い。しかし、前述の通り、犯人の動機が弱く、物語の説得力に欠けるという批判も存在する。復讐心という個人的な感情が、多くの人々を巻き込む大規模な犯罪へと発展する過程に、深みや必然性が不足しているという指摘は、本作のストーリーの弱点ともいえる。
映像・美術衣装
本作の美術は、クラシックコンサートホールを舞台に、壮麗なパイプオルガンや豪華な内装を描き出し、作品の世界観を構築。色彩設計も美しく、コンサートシーンの華やかさと、事件のシリアスな雰囲気を両立させている。キャラクターの衣装も、コンサートという設定に合わせてドレスやタキシードなどが描かれ、視覚的な楽しさを提供している。
音楽
音楽は大野克夫が担当。クラシックの名曲が作品全体に散りばめられ、ミステリーと音楽が見事に融合している。特に、クライマックスでコナンが「アメイジング・グレイス」を歌うシーンは、物語の感動的なピーク。主題歌はZARDの「翼を広げて」。坂井泉水の生前に制作された未発表曲で、彼女の澄んだ歌声が、物語の余韻を美しく彩る。
作品
監督 山本泰一郎 100×0.715 71.5
編集
主演 B8×3
助演 B8
脚本・ストーリー 脚本
古内一成
原作
青山剛昌 B6×7
撮影・映像 B8
美術・衣装 B8
音楽 脚本
古内一成
原作
青山剛昌 S10