コラム:下から目線のハリウッド - 第43回

2024年4月5日更新

下から目線のハリウッド

日本とはちょっと文化が違う? ハリウッドの「映画評論」の世界

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回は、銀幕を彩る「映画音楽」の世界について解説していきます!


三谷:今回は映画音楽の世界についてお話したいと思います。まず、映画音楽で有名な作曲家と言えばこの人、というのが何人かいるのですが、久保田さんご存知ですか?

久保田:日本人だと、「戦場のメリークリスマス」の坂本龍一さんじゃない?

三谷:あれはすごいですよね。最近、戦場のメリークリスマスを聴くたびに涙が出てきそうになって、ちょっと年を取ったなって思います(笑)。海外の人だとどなたかご存じですか?

久保田:全然知らない!

三谷:極端な言い方ですが、「世間で知られている有名な映画音楽は、大体この人が作っている」という人が二人くらいいます。

久保田:みんな知っている人?

三谷:名前は知らないかもしれませんが、曲は聞いたことあると思います。たとえば、「スター・ウォーズ」の音楽って頭に浮かびますか?

久保田:めっちゃ浮かんでる。

三谷:あとは、「ハリー・ポッター」「スーパーマン」「ジュラシック・パーク」の音楽とか。

久保田:はいはい、だいたいわかりますよ。

三谷:ほかにも、「インディ・ジョーンズ」「ホーム・アローン」とか。それ全部、ジョン・ウィリアムズという方が作っているんです。

ジョン・ウィリアムズ(映画「屋根の上のバイオリン弾き物語」より)
ジョン・ウィリアムズ(映画「屋根の上のバイオリン弾き物語」より)

久保田:今言った作品全部ってすごいね。

三谷:めちゃくちゃすごいんですよ。

久保田:もう結構お年を召されている?

三谷:はい、今92歳(※2024年現在)です。世界で一番有名な映画作曲家、映画音楽家と言われているのがジョン・ウィリアムズなんですね。そして、その次の世代で、ハンス・ジマーという人がいます。

久保田:へえー。

ハンス・ジマー
ハンス・ジマー

三谷:音楽は、その映画の世界観をも決めてしまうくらいすごく重要な要素なんですが、その中でも印象的なものを作るという点では、ジョン・ウィリアムズハンス・ジマーが有名ですね。

久保田:それだけ多作だと、納期とか大変じゃない?

三谷:納期はね、大変ですよ。

久保田:だって、映画の封切とかも全部、スケジュールが組まれているだろうから。

三谷:そうですね。なので、下手をしたら月に何曲も作曲するようなペースで作っているかもしれないですね。

久保田:それをウィリアムズさんは92歳でやるって…。

三谷:ちなみに、ハンス・ジマーはひと世代以上若くて、今66歳です。

久保田:すごいな。66歳とか92歳で働いてるの。

三谷:そのハンス・ジマーは、どんな作品の曲を作っているのかといえば、一番有名なのは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」ですね。

久保田:「パイレーツ・オブ・カリビアン」の曲、M-1グランプリでも使われてるよね。

三谷:そうそう。他には、「トップガン マーヴェリック」「ライオン・キング」とかもそうですし、新しいところでは「DUNE デューン 砂の惑星」。あとは、「インセプション」や「インターステラー」など、「バットマン ビギンズ」以降、「ダンケルク」までのクリストファー・ノーラン監督の長編作品の音楽は全部担当しています。

「デューン 砂の惑星 PART2」
「デューン 砂の惑星 PART2」

久保田:すごいね、66歳で。今挙げたふたり以外に有名な方はいないの?

三谷:他にもいます。こちらは私の好みの人になりますが、エンニオ・モリコーネさんというイタリアの作曲家の方で、2020年にお亡くなりになった方なんですが。

久保田:エンニオ・モリコーネさん。

三谷:エンニオ・モリコーネさんの曲で一番知られているのは、「ニュー・シネマ・パラダイス」ですかね。すごく美しい映画で、タイトルを聞いた瞬間に浮かんでくるあの音楽は、エンニオ・モリコーネさんが作っています。

エンニオ・モリコーネ(映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」より)
エンニオ・モリコーネ(映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」より)

久保田:へえ~。映画音楽を作っている人って、ハリウッドで何人くらいですか?

三谷:何人くらいいるんでしょうね。でも大体、忙しい人にどんどん仕事がいくんですよね。おそらくですけれど、何百人っていう世界じゃないかと思います。

久保田:何百人いて、そのうち数人に仕事が集まっちゃったら、残りの人たちは食べていけないんじゃないの?

三谷:一応、食べていけるくらいの作品数はあるんですけれど、あとは、テレビやコマーシャルとか。

久保田:そうか、そういう音楽を作るってことか。でも、映画音楽ってどうやって作るの? 映像を見ながらイメージするのか、それとも脚本を読んでなのか。

三谷:人によりますが、やっぱり脚本の段階から読んでもらって、どういうイメージが湧くのか、みたいなことをピアノの前で話したりとか。

久保田:製作的には、音楽はどのタイミングで収めなきゃいけないんですか?

三谷:収めるのは最後の方ですね。まず映像の部分が、「もうこれ以上変化しない」というところで固まります。それをピクチャー・ロックといいます。

久保田:はいはい。「もうこれ以上映像の編集はしないよ」ってことね。

三谷:そういうことです。それが終わってから、「どのタイミングで音楽を入れようか?」ということを話し合います。このセリフを言ったところでこの主題歌入れたいなとか。

久保田:でも、そこから作るんじゃ間に合わなくない?

三谷:そこから作る、で間に合わせるんです。

久保田:そこから作る、で間に合わせる!?

三谷:そうそう。だから編集が固まった時点で、どこに曲を入れるかというのを決めていく——これを「スポッティング」と言います。

久保田:そこから作って間に合わせるってすごすぎるね。

三谷:いや、本当にすごいんですよ。そういうすごい人たちがいる、映画音楽の世界なんですけれど、音楽に注目して、「これ、すごくハンス・ジマーっぽいな」とか、「これはジョン・ウィリアムズっぽいぞ」というところを、聴いていく中で見つけられると面白いですね。

久保田:やっぱり、その人なりの特徴みたいのが出るんだ。

三谷:そうですね。最近だと、重低音を入れるのが増えてきている感じがするんですが、ああいうのはハンス・ジマーがよくやる手法だったりしますね。サブウーファーという低い周波数が出るスピーカーから、体を震わす重低音が出てくるのをよくやる印象です。

久保田:ウィリアムズさんは?

三谷:ウィリアムズさんは、印象に残るフレーズがあるのが特徴です。たとえば「ジョーズ」の音楽を想像してみてください。あれもジョン・ウィリアムズが作曲しているんですが、あの2音で、「サメが来てるのかな?」みたいなところを表現できる人だったりします。

「ジョーズ」
「ジョーズ」

久保田:じゃあ、モリコーネさんは?

三谷:モリコーネさんは、昔のクラシック音楽家のタイプですね。交響曲的な美しさがあるような、そういうスケールを感じるオーケストラのものを作る方ですね。あと、じつはウエスタンがすごく知られていて、ウエスタンの音楽の特徴的な曲の多くはモリコーネさんが作っていると言われています。

久保田:へえー。やっぱり突出していくのは難しそうな世界だね。

三谷:音楽家としては、数百人、もしかしたら1000人規模でいるかもしれないですけれど、逆に言うと、その人数で埋められる世界でもありますよね。だから、一応ビジネスとしても成り立ち、尚且つ、突き抜けるというのがなかなか大変で難しいし、わかりにくい世界でもあるかもしれないです。

久保田:若手の人っていうのは出てきているの?

三谷:最近、注目されている人で言うと、ニコラス・ブリテルさんという作曲家がいます。バリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」や「ビール・ストリートの恋人たち」、さらには「メディア王 華麗なる一族」という有名なテレビドラマの作曲も手がけていて、出世頭みたいな感じになってきています。

久保田:誰が最初に新しい人を発掘していくの? それだけ狭い業界だと、丁稚的に徒弟性なのか、有名な監督の紹介で連れてきたりなのか。

三谷:最近は、自分の作品をSoundCloudというクラウドサービスに上げたり、自分の存在を知ってもらうみたいなことが多いんじゃないですかね。とはいえ、適切なタイミングで適切な人に見出されることが必要になるので、たとえば「ハンス・ジマーの弟子です」と言ったら、より仕事が得やすい状況にはなるかもしれないですね。

久保田:でも、同時に期待値が上がるよね。「ハンス・ジマーの弟子なのに…」ってなったら辛い。

三谷:そこは泥を塗らないようにしないといけないでしょうし、その一方でハンス・ジマーの下に居続けることで色がついちゃうとかもあり得ますよね。

久保田:自分のしたい表現がどこまでできるのかみたいな悩みもありそうだよなぁ。

三谷:私の友人で作曲をやっている人がいるんですけれども、なかなかキャリアの積み方は難しいというのは聞いたりします。

久保田:そういえば、映画音楽を楽しめる映画といえばなにかある?

三谷:ジョン・ウィリアムズ映画は楽しめると思いますよ。

久保田:調べたら出てくる?

三谷:出てきます。だから作曲家視点で観るというはアリだと思いますよ。

久保田:たしかに、そういう切り口で観る映画を探すのも新しい切り口だよね。

三谷:個人的には、エンニオ・モリコーネをぜひ聴いてほしいです。特におすすめなのは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」っていう映画なんですが、良かったら皆さんも観て、聴いてみてください。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#141 この人は知っておこう!映画を彩る「音楽」の世界♪)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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