コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第25回
2008年12月1日更新
第25回:「私は貝になりたい」公開。リメイク映画に未来はあるか?
しつこいようだが、今、日本の映画市場は東宝が支えている。今年に関しても、宮崎アニメ「崖の上のポニョ」(興収150億円)を筆頭に、人気TVドラマの映画化「花より男子」(77億円)、「容疑者Xの献身」(45億円)、三谷幸喜監督・脚本の「ザ・マジックアワー」(40億円)、定番アニメ「ポケモン」(48億円)に「ドラえもん」(33億円)、そしてベストセラー・コミックの映画化「20世紀少年」(40億円)などなど、興収30億円を超えた映画が7本も出ている。今年に入ってから、東宝以外で、興収30億円以上の映画を2本以上配給した映画会社はない。
ジャンル的にも死角の見あたらない印象だが、その東宝にして、なかなか苦戦しているジャンルがある。それは、リメイクだ。ここ2年ぐらいの、東宝配給のリメイク作品の成績を見てみよう。
「犬神家の一族」(06年12月)・・・9億円
「椿三十郎」(07年12月)・・・12億円
「隠し砦の三悪人」(08年5月)・・・10億円
※カッコ内は公開時期。その後の数字は興収(編集部推定)
「犬神家の一族」は、76年の市川崑監督の大ヒット作を、監督自らがリメイクした作品。昨年の正月映画として封切られたが、オープニングの順位は8位と振るわず、最終的に興収10億円にも届かなかった。「椿三十郎」は、黒澤明監督・三船敏郎主演の62年の傑作を、織田裕二主演、森田芳光監督でリメイクし、これまた正月にぶつけたが、最終興収12億円と低迷。ちなみに同作の公開週には、11月上旬から続映中の2作品「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(1位)、「恋空」(2位)が居座っており、「椿三十郎」は自社配給作品に頭を押さえられての4位スタートという皮肉な状況になっていた。そして、もう1本の黒澤監督作リメイク、今年5月の「隠し砦の三悪人」も、樋口真嗣監督に松本潤、長澤まさみというスターパワーを加えたが、これまた興収10億円と凡庸な成績に終わっている。
まあ、普通の配給会社なら10億円行けば御の字という話もあるが、そこは常勝軍団の東宝のこと、周囲は「20億円、30億円は当たり前」と期待してしまう。15億円を下回ってしまうと、「成功」ではなく「失敗」と捉えられても仕方がない。
そして今回の「私は貝になりたい」。こちらのオリジナルは劇場映画ではないが、TBSが58年にオンエアした名作TV番組のリメイクである。上に挙げた3作はいずれも30年以上を経たリメイクだが、今作も50年ぶりのリメイクなので、ちょっと嫌な予感もあった。
「私は貝になりたい」、オープニング3日間(3連休)の成績は、動員32万5000人・興収4億0700万円。首位にはなれなかったが、「レッドクリフ」に次ぐ2位でデビュー。主演の中居正広が全国28都市を回るキャンペーンも奏功し、まずまずのスタートを切った。ひとまず20億円以上は確実なので、先の3本よりはいい結果を残せそうである。
リメイク作品の成否については、「なぜ、今の時代にこの映画を再び世に出すか」という、時代に対する必然性がどれだけ高いかがポイントだと思う。06年の「犬神家の一族」の時も、なぜ今さら犬神家なのか?という疑問の声が多かった。そういう意味では、東宝の一連のリメイク作品の中でも、06年7月の「日本沈没」だけが53億円と大ヒットしているのが興味深い。
また、そういう意味では、黒澤映画のリメイクがいずれも不振なのが気になる。昨年のテレ朝でのリメイク版オンエアも、「天国と地獄」こそ20.3%と健闘したが、「生きる」が11.7%と失敗の部類。世界中で普遍的な名声を浴び続けている黒澤映画は、果たして今の時代には馴染まないのだろうか。こちらは、リメイクの「本場」ハリウッドで進行中の一連の黒澤作品「生きる」「天国と地獄」「七人の侍」が何らかの解答を示してくれることだろう。(eiga.com編集長・駒井尚文)
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi