生きる(1952)

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説

市役所の市民課長・渡辺は30年間無欠勤、事なかれ主義の模範的役人。ある日、渡辺は自分が胃癌で余命幾ばくもないと知る。絶望に陥った渡辺は、歓楽街をさまよい飲み慣れない酒を飲む。自分の人生とは一体何だったのか……。渡辺は人間が本当に生きるということの意味を考え始め、そして、初めて真剣に役所の申請書類に目を通す。そこで彼の目に留まったのが市民から出されていた下水溜まりの埋め立てと小公園建設に関する陳情書だった。この作品は非人間的な官僚主義を痛烈に批判するとともに、人間が生きることについての哲学をも示した名作である。

1952年製作/143分/日本
配給:東宝

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映画レビュー

4.0(生前の母の観た映画。そんな思い出を見たくって) 「生きる」ことの賛歌。

2022年6月13日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

私にしては珍しく、名作・オブ・名作邦画のレビューです。
アマプラ課金の東宝チャンネルにラインナップされていた作品ですので、観なきゃ勿体ないと思い。

こういう映画と私のレビュースタイルは、すこぶる相性が悪いのですね。
今回はおちゃらけは封印して、真面目に書くつもりです。
名作中の名作の古典映画ですので、ネタバレは上等ですよね。
そして、この映画、生前の母との思い出の作品なのですね。

母が遠い目で思い出すように語っていたものです。
この映画を観た時に、てっきり志村喬さんはリアルにお亡くなりになったと思い込んでいたらしいのですね。
赤貧の家庭に生まれ育った母ですので、映画館での鑑賞ではなかったのですね。
村の公民館の映画鑑賞会で観たらしいのです。。
何しろ、辺鄙極まりないド田舎ですから。
村の娯楽といえばそんなものくらいでしょう。母は大喜びだったろうな…と思うです。
スレていない母、当時の年齢は、計算すると、おそらく10代中盤です。
映画というものが、どういう物だとか、まだわかっていなかったんでしょうね。
後にテレビだか映画だかで志村喬さんのお姿を見た時に
「えっ?この人死んだんとちゃうん!?」と、かなり驚いたそうな(笑)
そんな純真な母の幼き日を回想すると、ちょっと涙が。

またしょっぱなから、割とどうでもいいことを書いてからのレビュー本文です。

実はこの映画、導入部で地雷臭を感じたんですよ。
くどすぎるナレーションの説明だとか、ステレオタイプのお役所仕事の描写だとか。
もしかすると楽しめないかなぁ…と、思いました。
主人公・渡辺氏が遠くない自分の“死”を知る察するあたりも、ありきたりかな…と思い。

ですが一杯飲み屋で小説家くずれと知り合った件からは、このおじさんに妙な可愛さを感じたんですよ。
そのあたりから一気に渡辺さんに、ぐいぐいと感情を引き込まれまして。
今まで「生きてきて」自分の全く知らなかった異世界に戸惑いながらも、しばしの間「生きる」ことの物珍しさを感じる描写(帽子事件)に少し笑っちゃいました。
ストリップホールの件だとか。「ああっ!Σ('◉⌓◉’)」だとか(笑)
そしてダンスホール(?)のピアノ演奏に合わせて、涙ポロポロと歌う『ゴンドラの唄』の哀しいこと哀しいこと。
ここでうるっと来ちゃいました。
何かの映画じゃないけれど「その顔はやめて」って言いたくなるほど、何とも言えない不憫な表情なの。
『ゴンドラの唄』はこの作品の挿入歌として、これ以上の物はないと思い。
むしろこの歌を着想として、この作品が生まれたのではないかとさえ思い。

“とよ”との交流では、観ているこちらまで思いっきり楽しくなっちゃったの。
渡辺さん!「生きる」ことを思いっきり楽しんで!って思っちゃうの。
死なないで!お願い!黒澤さんのいけず!って思っちゃうの。
“とよ”との間で見せる渡辺さんの笑顔に、感情移入目いっぱいですよ。
干からびた“木乃伊”が、どんどん生気を取り戻す様子に。
なのに、ぼっちになった途端、やはり死の恐怖に怯えるさまには、本当に同情以上の物を禁じ得ないの。

息子との残された時間を大切にしたい父なのに。
あのバカ息子、なーんにも気づかずにゼニ金のことばかりで厳しい態度とるのには、本当に頭に来ちゃったの!鬼かよ!
(仕方ないちゃぁ仕方ないんですが)
一方で“とよ”密会の約束の取り付けに、ニヤリニヤリとするさまが、本当に可愛いの。
気を許した“とよ”と遊ぶと言っても、カフェ→お汁粉屋→お寿司屋orお蕎麦屋、そんなことしか繰り返せない渡辺さんが本当に可愛いの。
なのに、いい加減愛想つかされている渡辺さんが本当に可哀そうなの。
当然ながら誰にもわかってもらえない胸中、いかばかりのものがあったでしょうか。

もういいから!いっそ自分の余命が幾ばくもないこと、みんなに吐露してよ!って思っちゃうの。
でも、それができなかたったのが渡辺さんの強さであったり優しさであったり、哀しさであったりだと思うの。

私、恥ずかしながら長年の鬱との付き合いがあった日々の中で、何度も死んでしまいたいと思うことがあったのですね。
でも、実際に差し迫った死を実感したことなど一度たりともありませんでした。
死がすぐぞこにあるっていうのはどんな気持ちなのでしょうか。
母の最期も、もはや助かる見込みもないことを知った短い日々でした。
どんな気持ちで私たち家族と向き合ってくれたのかなぁ。
私がそうであったように、まだまだ伝えたいことが山ほどあったろうなぁ。
「親孝行したい時に親は無し」ってこれ、真実だから。

カフェで“とよ”の横に座って半ば強引に、朴訥かつ必死に「生きる」実感だとか、「生きた」証がほしいと訴える志村さんの好演が素晴らしかったです。
母じゃないけれど、この人=志村さん本当に死んじゃうんじゃないかと思うほど迫真の演技なんですね。
「その顔はやめて」ですよ。
からの「ハッピバースデー♪トゥーユー♪」が本当に心憎い演出なの。
「生まれ変わった」シン・渡辺さんの再出発、門出の歌として。

したら、いきなりの渡辺さんのお通夜じゃないですか!
通夜の席で、出席のみなさんの回想の語りが続くじゃないですか。
ここで渡辺さんが何を、どうやってきたのかが明らかになっていくのですね。
尺の三分の一使って。
このシーンの前後の順の構成、斬新で秀逸だと思いました。
通夜を後に持ってくると、渡辺さんの最期のカットがかなり霞みますし。
尺の取り方のバランスも狂ってきますし。
物語として、彼の「生きざま」と功労を描くのなら、この順番しかないと思い。
そして、役所のお偉いさんの不誠実さと傲慢さが、めーっちゃ頭きたのな!
手柄横取りするなし!ですよ!
でも、渡辺さんにとってはそんなことは当然、どうでもよかったことと思い。
雪の降る中、自分が「生きた」証で造った、公園のブランコで『ゴンドラの唄』を歌いながら天に召されたのって、ある意味幸せな最期だったかな…と思ったです。
きっと「生きた」ことへの悔いはなかったと思いたいです。

で、謎なのが“とよ”が通夜の席に現れたのかどうか。
通夜では全く姿が見えなかったのですが
うさぎさんのオモチャがお供えされていたことを見ると
きっと会いに来てくれたに違いない…そう思いたいです。
ここだけが胸につっかえてスッキリしなかったです。
“とよ”が渡辺さんの遺影を静かに見守っているシーンがあってもよさそうなものの。
意図的にそれを外したのなら、きっと黒澤監督の描きたい映画なりの理由があったに違いないのですが。
アホの私には、それがよくわかりませんでした。

そんな渡辺さんの「生きざま」を忘れないでいてくれる人って
名もなき職員Aくらいしかいないのは、とても寂しかったです。

真面目な話、この作品を観ても、まだ「生きる」ことへの感謝の気持ちは湧かなかったんですね。
でも、もし私が近い日々に死を迎えることを知った日には、きっとこの映画のことを思い出すでしょう。。
そんな日々が来ることがあったなら、私は渡辺さんのように懸命に「生きる」ことができるのかなぁ…?
自分が「生きた」ことの賛歌を奏でることができるのかなぁ…?
何だか自分がとても恥ずかしい…
観終えた感想はこれに尽きます。
困った映画をチョイスしたもんだ…(^_^;

次回はまた東宝チャンネルで、頭バカにできる怪獣物でも観ようかなぁ。

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野球十兵衛

5.0何をしてきたのか、これからどうするのか、人生の分岐点に観る

2022年4月25日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

笑える

興奮

あまた作られている、単なる闘病物ではない。
人生への哲学×人間ドラマ×組織批判×社会風刺×エンターテインメント。
悲劇であり、喜劇。
これだけいろいろなものが詰め込まれているのに実にシンプル。
そして、揺るぎない主人公の存在感。
脚本×演出×音楽×映像。これらすべてが、志村氏の演技を際立たせていると同時に、
志村氏の演技が、技巧を凝らした映画を可能にさせている。
他には有り得ない、唯一無二の映画。

「人を憎んでいる暇なんてない」
 自分にとって大切なもののためなら、自分をないがしろにされた、嫌味を言われた。そんなプライドなんてちっぽけなこと。
 後頭部を殴られたような気がした。
 喜怒哀楽。人間にとってはとても大切な感情。だが、それをも凌駕するこの決意。なんと鬼気迫る言葉!
 ちっぽけなプライドのために、見失ってしまう大切なもの。
 ちっぽけなプライドすら乗り越える、人としての器。鬼迫。
 何が大切なのかを見極める。
 反省させられた。

☆  ☆  ☆

死を目前にして、自分の小さな器を大きくした男の一代記なのかと思っていた。絶望の淵から希望・生の意味を見つけ、徐々に周りを巻き込んでカタルシスを得るというような話だと、安易に思っていた。

だが、黒沢監督はそんな安易なつくりにはしなかった。

 前半、自分の死期が迫っていることを知る主人公。
 それを知った行きずりの男が「それでは、メフィストフェレスとなりましょう(思い出し引用)」と、主人公が今まで経験したことのない世界に連れ出す。
 その主人公の”初めての経験”が、死期が迫る主人公の陰鬱さと同時に、おかしみをもって描き出される。そのバランス!!!
 かつ、そんな奇妙な行動に出た主人公を取り巻く人々の反応が、頓珍漢で滑稽味を出す。

 そして、残りの人生をかけるものを見つけ、死を意識しながらも生き生きと鬼気迫る様相で活躍する主人公の姿が見られるのかと思ったら…。
  (人生かけるものを見つけた男の後ろで歌われるのは「Happy birthday」だし)

 いきなり、映画の半分くらいで、主人公は亡くなってしまう。
 やられた。
 通夜の席で、主人公と公園をめぐって、関係者が回顧していく。そこに浮かび上がる人々・行政の思惑が空回りしていく。まるで舞台劇を見ているみたいだ。
 しかも、誰もが主人公の想いを自分の器で図っていくだけで、主人公の気持ちや決意を知らないで、勝手なことを言い募る。なんていう孤独。私だったら、化けて出そうだ。
 生涯かけて育て上げた息子でさえ、主人公の真意を知らない。何度か、主人公は息子に打ち明けようとしたのに、それを阻止しておいて、「知っていたら僕に言ってくれたはずだ」って、あなた…。なんという孤独、そしてむなしさ。
 組織への痛烈な批判。(縦割りで事が動かないのは役所だけではない)
 ”今”を生きる人々への痛烈な批判。
 そして、観客が喜びそうなカタルシスが得られたかに見えて、極めつけのオチで終わる。

 そんな基盤を横軸に、主人公の生きざまが物語を進める縦軸として交差する。
 人生への後悔。生命力あふれる若々しさへすがりつき。迷走を経て、なすべきことへの妄執・鬼迫。孤独。「男は黙ってサッポロビール」の時代だっけ?否、説明して了解を得る時間さえ惜しかったのだろう。「憎む時間さえない」のだから。
 死にゆく自分。長年付き合ってきた人にも誰にもわかってもらえていない真意。孤独・孤独・孤独。
 それなのに…。有名な一人でこぐブランコのシーン。静かに、静かに、響く「命短し、恋せよ、乙女~」。
 そして子どもたちの声で幕が閉じる。

この物語をこれほどまでに深めたのは、黒沢監督の演出。何たる鬼才!
 喜劇的な舞台×陰鬱な主人公。相反するはずの要素が見事に調和して、両方を際立たせている。
 物語の緩急。スパッと切るところと、余韻が残る場面と。
 男の一代記的な構成なら、”男”の人生を追体験するだけで終わってしまうが、このような演出にすることで、社会での位置づけが見えてくる。

そして、何度も書いてしまうけれど、上記の演出を成り立たせているのが、志村氏の演技。「あ、う、」ぐらいのぼそぼそとしたしゃべりなのに、その時々の主人公の気持ちが胸に迫ってくる。なんてすごい役者さんなんだ。

☆   ☆   ☆

最近取りざたされる孤独死。だが、その方が孤独の中に死んでいったのか、満ち足りて死んでいったのかは、本人にしかわからないのであろう。
自分の葬式の風景を考えてしまった。

渡辺課長は、子どもを育て上げたんだから、それだけでも大仕事をしたのだけれど、ミイラのままでは死ねなかった。
歯車だって、それがなければ、そのシステムは動かない。どの歯車だってなければ困る。

けれど、書類の煩雑さ。
渡辺課長の仕事は、書類に判を押して右から左に回すだけ。
今だって、説明責任を果たすために増える事務仕事。微妙に違う様式で、同じ内容を、各方面から報告するように求められる。現場を見ずに、数字・書類だけ見てわかった気になる。統計のマジック。これが何に繋がるかなんて、わからなくなってくる。
 ふうぅ。
 歯車として機能しているのは判るけれど、透明人間にはなりたくない。
 失敗は成功の母と言うけれど、余計なことをしてはみ出したら終わり。KYはこのころからあったんだ。
 どうしようもない世の中に、あきらめかけてしまう私の心の中に、いつまでも主人公の歌声が響いてくる。

☆  ☆

PS。予告も傑作です。予告だけでドラマしている。人生をつきつけられる。

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とみいじょん

4.5黒澤監督の真摯な問い掛けにある、人間の内に秘めた力を信じるヒューマンドラマの社会批評

Gustavさん
2021年11月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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Gustav

4.0昭和27年の衣食住

ぺん太さん
2021年10月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画の素晴らしさは、他の皆様が書いてくれているのでカット。
特筆すべきは昭和27年の風俗です。
食事・住まい・職場の風景など。
なかでもファッションには目を見張るものがあります。
通夜(葬儀)の場面での皆様の衣装。
今一般的に皆様がお召しになる、いわゆるブラック(礼服)ではないのです。
ウイングカラーにモーニング(ということはこの場面は夜に見えたけど昼なのか?)あるいは普通のスーツ。喪主に至っては羽織袴、その妻は着物の黒喪服だが帯締・帯揚がともに白、裾廻しも黒ではない。
こんなことを考えながら見る名作もなかなか良いものです。
船堀シネパルで上映中の黒澤映画。「生きる」は今日まで。
明日からは「用心棒」、次の週は「七人の侍」です。

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ぺん太
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