第96回キネマ旬報ベスト・テン 「ケイコ 目を澄ませて」が日本映画作品賞、主演女優賞をはじめ4冠
2023年2月2日 09:00
第96回(2022年)キネマ旬報ベスト・テンの表彰式が2月1日、東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールで行われた。耳が聞こえないボクサーの実話をもとに描いた人間ドラマ「ケイコ 目を澄ませて」が日本映画作品賞、主演女優賞(岸井ゆきの)、助演男優賞(三浦友和)、読者選出日本映画監督賞(三宅唱監督)の4冠に輝き、受賞者が喜びを語った。
「ケイコ 目を澄ませて」で主人公を演じた岸井は、ボクシングの動きと手話を身に着けることで、感情表現が得意とはいえないキャラクターを、声を発することなく演じきり、見事に初受賞。トレーニングや増量、手話の練習といったものと向き合いながら、「そういうものが自分だけのものだと思ってしまう瞬間もあったが、現場が一丸となり、『せいの』で一歩を踏み出せる。そんな現場だった」と振り返った。
主人公を見守るジムの会長を演じた三浦は、コロナ禍の影響もあり、22年後半に出演作が集中したことに触れ、「合わせ技のような形で賞をいただいた。柔道部だったので、納得もいき、とてもうれしい」とユーモアを交えながら、喜びをかみしめ「賞をもらっても勘違いしないように、俳優として精進してまいりたい」と背筋を伸ばしていた。
主演男優賞に輝いたのは、「土を喰らう十二ヵ月」の沢田研二。表彰式への出席はかなわなかったが、「賞とは一生縁がないと思っておりましたので、こんな賞をいただけるというのは本当に驚きであり、喜びでもありました。これからも頑張ります」とビデオメッセージを寄せた。沢田は長野の人里離れた山荘に1人で暮らす作家を演じ、松たか子と共演した。
広末涼子はバラエティ豊かな3作品で、演技の幅を見せつけ、見事に助演女優賞を受賞。「役者という職業が本当に必要なんだろうか、と考えさせられる時期もあった」とコロナ禍の葛藤を明かし、「こうしてずっしりと重みのあるトロフィーをいただき、間違いではなかったと感じさせてもらった。映画が勇気とパワーを与えてくれると信じ、生きている限り、俳優を続けていきたいと思います」と決意表明。「あちらにいる鬼」の廣木隆一監督がお祝いに駆けつけ「あの演技は、怖かった(笑)」と夫の不倫に耐え忍ぶ本妻を演じた広末を絶賛していた。
新人男優賞を手にした「Snow Man」の目黒蓮は、同日六本木ヒルズアリーナで開催された主演作「わたしの幸せな結婚」の完成披露イベントを終え、オーチャードホールホールに駆けつけた。六本木では映画に合わせた大正ロマン香る衣装だったが、表彰式では蝶ネクタイも決まったフォーマルな洋装に。「心臓がすごくバクバクしています」と緊張した面持ちだったが、メンバーの反応に話題が及ぶと、「喜びを体全体で一緒に分かち合ってくれた」と向井康二、深澤辰哉、佐久間大介の名前をあげた。昨年はドラマ「silent」で若年発症型両側性感音難聴を患う青年を演じており、聴覚障害のボクサーを演じた岸井の役作りについて、大きくうなずく姿も見られた。
俳優デビューにして、「マイスモールランド」で初主演を飾った嵐莉菜が、新人女優賞を受賞した。難民申請が不認定となり、一家が在留資格を失ったことで、在日クルド人の少女が自身の居場所に葛藤する姿を描いた本作。劇中では家族役として、実の父、妹、弟と共演もしており、「こんなことあるのって思いましたが、オーディショに合格したので、何も言えなかった」と照れ笑いを見せていた。
第96回キネマ旬報ベスト・テンの各賞は以下の通り。
・日本映画監督賞:高橋伴明(「夜明けまでバス停で」)
・日本映画脚本賞:梶原阿貴(「夜明けまでバス停で」)
・読者選出日本映画監督賞:三宅唱(「ケイコ 目を澄ませ」)
・外国映画作品賞(ベスト・テン第1位):「リコリス・ピザ」
・外国映画監督賞:ペドロ・アルモドバル(「パラレル・マザーズ」)
・読者選出外国映画監督賞:シアン・ヘダー(「コーダ あいのうた」)
・主演男優賞:沢田研二(「土を喰らう十二ヵ月」)
・主演女優賞:岸井ゆきの(「ケイコ 目を澄ませて」「神は見返りを求める」「犬も食わねどチャーリーは笑う」)
・助演男優賞:三浦友和(「ケイコ 目を澄ませて」「線は、僕を描く」「グッバイ・クルエル・ワールド」)
・助演女優賞:広末涼子(「あちらにいる鬼」「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」「コンフィデンスマンJP 英雄編」)
・新人男優賞:目黒蓮(「月の満ち欠け」「映画『おそ松くん』」)
・新人女優賞:嵐莉菜(「マイスモールランド」)
・特別賞:小林信彦
・読者賞:川本三郎
・文化映画作品賞(ベスト・テン第1位):「私のはなし 部落のはなし」
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