リコリス・ピザ

劇場公開日:

リコリス・ピザ

解説

「マグノリア」でベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞したほか、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭の全てで監督賞を受賞しているポール・トーマス・アンダーソン監督が、自身の出世作「ブギーナイツ」と同じ1970年代のアメリカ、サンフェルナンド・バレーを舞台に描いた青春物語。主人公となるアラナとゲイリーの恋模様を描く。サンフェルナンド・バレー出身の3人姉妹バンド「HAIM(ハイム)」のアラナ・ハイムがアラナ役を務め、長編映画に初主演。また、アンダーソン監督がデビュー作の「ハードエイト」から「ブギーナイツ」「マグノリア」「パンチドランク・ラブ」など多くの作品でタッグを組んだ故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマンが、ゲイリー役を務めて映画初出演で初主演を飾っている。主演の2人のほか、ショーン・ペン、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディらが出演。音楽は「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」以降のポール・トーマス・アンダーソン作品すべてを手がけている、「レディオヘッド」のジョニー・グリーンウッドが担当。2022年・第94回アカデミー賞で作品、監督、脚本の3部門にノミネート。

2021年製作/134分/PG12/アメリカ
原題または英題:Licorice Pizza
配給:ビターズ・エンド、パルコ
劇場公開日:2022年7月1日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第79回 ゴールデングローブ賞(2022年)

ノミネート

最優秀作品賞(コメディ/ミュージカル)  
最優秀主演男優賞(コメディ/ミュージカル) クーパー・ホフマン
最優秀主演女優賞(コメディ/ミュージカル) アラナ・ハイム
最優秀脚本賞 ポール・トーマス・アンダーソン
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映画レビュー

3.0商売にアグレッシブな15歳と成長しきれない25歳の恋のさや当て

2022年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 リコリスといえば、ハリボーの渦巻きお菓子やサルミアッキなど、癖の強い味の黒い菓子を連想する。リコリスのピザとは……と思ったら、映画の舞台であるサンフェルナンド・ヴァレーにあったレコード店の名前だそうだ。リコリスの黒、ピザの円盤型、LICORICE PIZZAの頭文字で、LPレコードのことを指す。物語には、ピザもレコード店も出てこない。
アンダーソン監督の中での、物語の場所と時代をあらわすアイコンなのだろう。

 恋愛感情の芽吹きはじめの、幼い駆け引きにむずむずする楽しさがある映画だ。ただし、70年代のアメリカローカルのアイコンがたくさん出てくるので、知識がないと楽しさが半減するタイプの作品だとも感じた。アンダーソン監督の見聞が織り込まれているそうで、この時代や地域、それに根付いたカルチャーに親しみのある層にはすごく刺さるのだろうと思う。私は知識がない方なので、ゲイリーとアラナの突飛な行動にただただ振り回された。
 ゲイリーは高校のイヤーブックのための写真撮影の場で10歳年上のアラナをナンパする。ウォーターベッドの販売を始めるが、店で知り合った女の子にも手を出す。車の運転もするし、オイルショックでベッドの商売が厳しくなったらピンボール店を始める。
 いや、15歳でそんなにガツガツ商売するんだ?なんでそこでフロントガラス破壊すんの?(直後の展開は笑ったけど)当時のハリウッドの子役ってあんな感じなの?と面食らった。
 それに対してアラナは、年齢の割に幼い印象がある。10歳差と聞いて、お姉さんの手のひらで少年が転がされる話を連想したが(ポスターの影響もあります)、不器用な恋のさや当てをする姿は、まるでゲイリーと同年代だ。撮影現場ではメイクをしないことがルールだったそうで(登場人物が物語の中でメイクをするという設定の場面のみ、俳優が自分でメイクをしたそうだ)、余計に幼く見えた。
 ふたりのやり取りのテンポのよさは楽しい。レトロなファッションがかわいい。ショーン・ペンとブラッドリー・クーパーが拝めたのもよかった。でもやっぱり、一見脈絡のない展開は、こまごま詰め込まれているであろう小ネタや時代背景、当時を表すアイテムなどを知っていてこそ初めて生きてくるのだろうという気がする。
 そのニッチさがアンダーソン監督の作風ではあるが、好みが分かれる映画の典型という気がした。というか、日本に住んでいてこの内容にピンとくると言えたとしたらよほどの何か(賞賛でも揶揄でもない)。それくらいのローカル映画。
 深く考えず、ひとつひとつのシチュエーションを刹那的に楽しむが吉。

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共感した! 24件)
ニコ

4.5本筋がなんなのかわからないのが青春映画としてとてもいい。

2022年8月31日
PCから投稿

もう本筋がなんなのかわからないし、あえて方向性を定めることもなく、それでもどこかに闇雲に走り出したいような衝動があって、それをカメラの横移動と物理的に走るという行為で表現されていて、年が離れているとはいえ若者2人を取り巻いている大人たちは誰もが胡散臭くていい加減で、どこかタガの緩んだ1970年代の空気をみごとにすくい取ったような映画だった。

ハイムのファンとしては、アレナ・ハイムが主演というだけでなく、バンドメンバーでもある2人の姉と、彼女たちの両親がそのままの役どころで出演していて、それだけでファン心をくすぐられてたまらないのだが、この映画の特徴として、ノンプロフェッショナルの役者たちの佇まいというのが大きく、メタなキャスティングもただのファンサービスではない(役者ではないディカプリオの父親も存在感が半端ない)。

そして面倒な脇役を演じているのが芸達者な本職のベテラン役者たちといういびつさはなんなのか。名優たちを配してみごとな演技を引き出してきたポール・トーマス・アンダーソンが試みた、いままでとは違うアプローチがどこに向かうのか。今後のキャリアの方向性への影響も気になっている。

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共感した! 4件)
村山章

4.0ヤバい大人たちが若い2人に襲いかかる!!

2022年7月10日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

1973年のハリウッド郊外、サンフェルナンド・バレーで、子役上がりの少年ゲイリー(15歳)とカメラマン・アシスタントのアラナ(25歳)が出会い、恋に落ちて、まるで周囲から逃げるように疾走劇を展開する。実年齢以上に世情に精通した15歳と、彼と比較すると、何を始めるにも若干遅きにしした感がある年上の女性。この年齢差も絶妙だが、何しろ、サンフェルナンド・バレーはハリウッド映画ビジネスの魑魅魍魎が集約されたような町。主人公の2人は初恋がしたいのに、青春がしたいのに、彼らの前に次々に登場するヤバい大人たちに邪魔されて、なかなか思い通りに事が進まない。そこが笑える。いわゆる青春映画の普遍性は、ここでは希薄だ。

そのヤバい連中の中でも、監督のP.T.Aが本人と直接会ってキャラ描写を詰めていったという、ブラッドリー・クーパーが演じるジョン・ピータースのぶっ飛びぶりが強烈だ。ピータースはL.A.のロデオドライブでその名を知られた超人気のヘアドレッサーからハリウッドのプロデューサーに転身した人物で、彼が開発したカーリーのショートウィグを当時の恋人、バーブラ・ストライサンドが『スター誕生』(76)で被ったことでも知られる。ピータースは『スター誕生』でプロデューサー・デビューを果たすのだが、その頃の常軌を逸したイケイケぶりをクーパーが怪演していて、若い2人の目の前に覆いかぶさってくるところが見どころだ。

筆者がより興味をそそられたのが、主人公のゲイリーが所属する子役専門のエージェント、メリー・グレイディだ。クレイディも実在するエージェントがモデルだが、相手を値踏みするように小刻みに揺れる視線や、異常なほどの警戒心は(子供相手なのに!?)、ハリウッドの子役ビジネスの熾烈さを想像させて思わず引き込まれてしまった。

そんな風に周囲がキテレツだからこそ、主人公の2人を応援したくなる異色の懐古的業界ドラマ。これはやはり一筋縄ではいかない天才監督の最新作なのだった。

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清藤秀人

4.5ふたりのフレッシュな化学反応に魅了されっぱなし

2022年7月3日
PCから投稿

前作で職人の愛を澄み切った映像で掘り下げたアンダーソン監督が、新作ではこれほど快活な恋愛劇を描ききるとは。この人の力量は本当に底知れず、まずもって出会いのシーンから輝きがいっぱいだ。長い行列に並びながらの切れ目なき会話は、相手の返しや表情の変化によって有機的なリズムが生まれ、この時点ですでに彼らの駆け引きに心底魅了されまくってる自分に気づく。これがありきたりな「ボーイ・ミーツ・ガール」ならば話も単純なのだろうが、主人公アラナとゲイリーは、片や歳上、片や早熟の高校生ということもあってなのか、両者ともに主導権を取らないと気が収まらない。それが時に驚くほど破天荒な展開へ振り切れてしまう可笑しさと哀しさ。こんな厄介な感情を持ち合いながら近づいたり離れたりを繰り返す彼らを、不思議と好きにならずにいられない。アラナとゲイリーが一緒にいたら完全無敵。今なお目を閉じると二人の走り出す様がありありと浮かぶ。

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牛津厚信