広瀬アリス、“ミューズ”としての秘めたる思い
2019年10月29日 17:00
[映画.com ニュース] 第32回東京国際映画祭フェスティバル・ミューズに就任した女優の広瀬アリスがインタビューに応じ、その意気込みを語った。第30回東京国際映画祭の特別招待作品「巫女っちゃけん。」、第31回の日本映画スプラッシュ部門に選出された「銃」と特別招待作品「旅猫リポート」で2度、同映画祭に参加した広瀬。「映画の魅力を伝えたい。後は自分自身が楽しみたい」と笑顔を弾けさせながら、「完全な趣味」というアニメの魅力についても語ってくれた。(取材・文/平辻哲也 撮影/間庭裕基)
フェスティバル・ミューズは第25回の(TIFFアンバサダー)前田敦子、第26回の栗山千明、第27回の中谷美紀ら歴代の女優が務めている。第31回は同年代の女優仲間、松岡茉優が映画祭アンバサダーだった。「去年と一昨年、レッドカーペットを歩かせていただきましたが、今回はミューズ。私でいいんですか、という気持ちでした。まさか、まさか。びっくりしています。本当に思ってもみなかったので、それだけプレッシャーがすごいですね。映画というのは、すごく素敵な作品だと感じる人もいる一方、まったく刺さらない人もいる。一つの映画でも、全然違う感覚を味わえるものだと思います。その面白さを含めて、映画の良さをお伝えできればいいなと思っています。後は自分自身が楽しめればいいなと思いますね」と意気込む。
ミューズは映画祭の顔。オープニング&クロージングなどでセレモニーを盛り上げることになる。「『巫女っちゃけん。』のときは巫女さんの格好で、注目をいただきましたが、レッドカーペットの衣装は、まだ決めてはないです。それを決めるのも今から楽しみです。レッドカーペットは楽しすぎて、遊園地にいるような感覚。ふわふわしているみたい。すごく時間をかけて一周したはずなのに、一瞬だったなと思いましたね。もう少ししっかり味わっておけばよかったと後悔しています。3年目なので、しっかりと味わって、楽しんで、景色を焼き付けておきたい」と話す。
昨年は、「食べる女」で第21回上海国際映画祭に参加し、これが海外映画祭初体験となった。「海外映画祭ですごく面白いなって思ったのは、映画の見方が本当に記者さんと同じだなということでした。Q&Aのときに、『あのシーンの現場はどうだったんですか?』って、質問され、作品を純粋に見ている方だなと感じました。それが嬉しかったですね。映画祭は、自分が出ている映画を世界の人に伝えるいい機会だと思います。日本の方だけではなく、もっともっと世界の方々に伝えたい。映画祭に出させていただく度に思います」と振り返る。
東京国際映画祭の魅力としては、「世界中からいらっしゃるので、華やかな感じなんですけど、映画が大好きな方がいっぱいいらっしゃるので、どこかアットホーム、温かい空間だなっていう印象です。海外映画祭もいいんですけども、やっぱり、日本の方がいると、ホッとしますね」と笑う。ドラマ、バラエティー、CM、舞台と幅広く活躍していながら、映画にもコンスタントに出演し、映画女優の存在感を見せている。「常に、映画が本当に身近な存在になればいいと思います。若い子もそうですし、年配の方もそう。自分と同じ世代の人も、映画を見ている人はとても多いんです。だから、もっともっと年齢に関係なく、近い存在になればいいなと思っています」と力を込める。
今年のコンペティション部門の審査委員長は、中国出身で世界的に活躍する女優チャン・ツィイーだ。「出演映画はちょくちょく見ていたので、たまらないですね。映画祭では、普段は会えない方がいっぱいいらっしゃるので、そういう方々にお目にかかれるのが楽しみ」という一方、「完全に趣味だけど、声優さんには会いたいです! ただのファンですね! 会いたいとかじゃなくていいんですよ。遠くからちょっと見て、『あっ!』というだけでいいです(笑)。完全に職権乱用ですね」と白い歯を見せて豪快に笑った。
例年、特集上映という形で実施されていたアニメーション企画を初めて部門化した「ジャパニーズ・アニメーション部門 THE EVOLUTION OF JAPANESE ANIMATION/VFX」も楽しみな企画の一つだという。「白蛇伝 4Kデジタルリマスター版」「エースをねらえ! 劇場版」「AKIRA」などの過去の名作から、「海獣の子供」「きみと、波にのれたら」「天気の子」「プロメア」「若おかみは小学生!」など高く評価された近作が英語字幕付きで見ることができる。「日本のアニメは世界に誇れるコンテンツ。しっかりと注目して欲しいですね。アニメが大好きな人が映画祭に来て、(実写)映画が好きになるきっかけにもなると思うんですよ」。
特に好きな作品は? と聞くと、「一般に知られている作品だったら、『AKIRA』ですかね。私、バイオレンスが好きなんですよね。少し偏っている」と笑う。「漫画からアニメになることが多いので、漫画から追いかけています。もちろん、一般の映画などいろいろなものを見ていますが、アニメの割合が多いかな。仕事をたくさんやっていると、刺激が欲しくなるんですよ。それを求めていたら、バイオレンスになっちゃった。バイオレンスは異世界な感じがするんです。ありえない感じがいいんです。違う世界に逃げたいなというときに、見るんです。いやあ、何、言ってんだろ、私」と相好を崩した。
期間中は1本でも多くの作品を見たいと思っている。「初日と最終日って、まったく違う感覚になるじゃないですか。だから、その間にはお仕事を入れないで欲しいなと思いますね。こんな機会はないじゃないですか」と同席するマネジャーの姿をチラリとうかがうなど、ユーモアたっぷり。「世界各国からいろんな方々が集まるのが東京国際映画祭の醍醐味だと思います。映画祭でしか見られない作品もありますよね。人との出会いもそうですが、作品との出合いも大事にしたい。映画は言葉や文化を越えるコンテンツ。日本は今、いろんな面で盛り上がってきています。海外からいらっしゃった方には何かアットホームな感じが迎えられたらいいな。おもてなしといいますか、心から歓迎したいです」。
来年1月には、近未来を舞台に、AIが人類の命の選別をする恐怖を描くSFサスペンス映画「AI崩壊」の公開が控えている。最後に、女優としての今後の目標も聞いた。「私って、気づかれないものがちょうどいいなって思うんです。エンドロールで気づいて、あ、出ていたんだと思ってくれるくらいがいい。それぐらいやっぱり印象がコロコロ変わって、私という人間の印象がどんどんブレてくれれば。そういう引き出しが少しずつ増えている気がしますね。いろんな監督さんと組んで、自分でも分からなかった自分を引き出していただき、自分自身が寄り添っていきたいです。いろんな自分を楽しみたい。自分はどんなものかは分からない。だからこそ、変わっていく自分が面白いと思うんです」と話す。ミューズとしての美しさも持ち、アニメ好き、バイオレンス好き、豪快さもある広瀬アリス。その変幻自在さが女優としての魅力となっている。
第32回東京国際映画祭は、11月5日まで六本木ヒルズなどで開催。
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