コラム:細野真宏の試写室日記 - 第70回

2020年5月1日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


第70回 試写室日記 【新型コロナ番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第4回

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日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。

その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。

昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?

ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!

そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。

そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。

その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。

【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】

≫第1回(第21位~第25位)はこちら
≫第2回(第16位~第20位)はこちら
≫第3回(第11位~第15位)はこちら

●第10位

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「ベスト10位」にランクインした作品は、「ジュマンジ」シリーズの「ジュマンジ ネクスト・レベル」です。

まず、2017年の「ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル」は、1995年に公開された「ジュマンジ」のリブート的な続編で、前作から20年後を舞台に描き、ドウェイン・ジョンソン主演で、ジャック・ブラックケヴィン・ハートらが脇を固めています。

実は、本作の前作「ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル」は、制作費9000万ドル(90億円規模)と、1億ドル(100億円規模)は超えていない大作映画でした。

ところが、世界興行収入は9億6210万ドル(962億円規模)も稼ぎ、ソニー独自の製作・配給作品として、過去の「スパイダーマン」シリーズを抜き去り、歴代1位の記録を叩き出すほどの成績だったのです!

そして、最終的な利益は3億0570万ドル(305億円規模) も稼ぎ出し、一気にソニーの“キラーコンテンツ”にまでなっています。

ただ、そうなると、当然キャストの報酬も上がることになり、本作「ジュマンジ ネクスト・レベル」の制作費は、1億2500万ドル(125億円規模)と一気に跳ね上がりました。

その一方で、世界興行収入は7億9660万ドル(796億円規模) と、やや落ちてしまいました。

とは言え、本作の最終的な利益は2億3600万ドル(236億円規模)と、見事に2億ドル(200億円規模)を突破しているのです!

これだけの利益を出しているので、公開時期はまだ未定ですが、もちろん続編はあるでしょう。

次の作品がどのくらいの利益をソニーにもたらすのかは、やはり「脱パターン化」でしょうか。

ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル」がいろんな意味で斬新だったため、本作「ジュマンジ ネクスト・レベル」は少し見慣れた感じがあったので、良い意味で裏切るパターンだと新鮮さを取り戻せて前作並みのメガヒットも期待できると思います。

もし、まだ「ジュマンジ」シリーズを見たことがない人は、きっと想像よりは面白いと思うので「ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル」から見てみてください。

●第9位

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「ベスト9位」にランクインした作品は、1977年から始まった「スター・ウォーズ」シリーズの“スカイウォーカー・サーガ”を締めくくる完結編でディズニー配給の「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」です。

あれだけ盛り上がり42年間にもわたって世界を魅了し続けた「スター・ウォーズ」シリーズの完結編なので、「もっとランキングは上位なのでは?」と思った人も少なくないと思います。

実際に、3部作の「エピソード7」である「スター・ウォーズ フォースの覚醒」は2015年の「第1位」で、7億8011万ドル(780億円規模)もの利益を出しています!

さらには、3部作の「エピソード8」である「スターウォーズ 最後のジェダイ」も2017年の「第1位」で、4億1750万ドル(417億円規模)の利益を出しています!

では、「エピソード9」である本作「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」の内訳を見てみましょう。

まず、世界興行収入から見てみると10億7400万ドル(1074億円規模) と、10億ドル(1000億円規模)を突破しています。

ただ、その一方で、制作費も2億7500万ドル(275億円規模)と、「スター・ウォーズ」シリーズでは歴代最高という、かなり破格な金額となっているのです。

この破格な制作費に加えて、興行収入に連動する形でキャストや監督らにボーナス的な報酬が支払われたりして、本作の最終的な利益は3億ドル(300億円規模)となっています。

3億ドル(300億円規模)の利益はさすがですが、ラストに向かって盛り上がる形ではなく、下がっていってしまったのは少し残念ですね。

普段は忙しく、なかなか時間がとれなかった人も自宅で改めてエピソード1から9まで一気に見てみると、単体で見るより感じ方が変わってくるのかもしれません。

●第8位

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「ベスト8位」にランクインした作品は、「アベンジャーズ」シリーズ(マーベル・シネマティック・ユニバース)に入ったソニー配給の「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」です。

この作品は、「アベンジャーズ エンドゲーム」の、まさに“その後”が描かれていたので、世界的な関心が非常に高いベストなタイミングでの公開となりました。

まず、比較として前作の「スパイダーマン ホームカミング」の制作費は1億7500万ドル(175億円規模)で意外と高く、世界興行収入は8億8010万ドル(880億円規模) でした。

その結果、最終的な利益は2億ドル(200億円規模)となっていました。

そして、本作「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」では、制作費を1億6000万ドル(160億円規模)と、前作から上げずに済み(おそらく、ある大物キャストの出演料が関係)、しかも世界興行収入は11億3300万ドル(1133億円規模)と大幅にアップさせることができたのです!

その結果、最終的な利益が3億3900万ドル(339億円規模)という大成功を果たしました。

ただ、この成功は良いことだけでもなく、スパイダーマンの映像化権利を持つソニーと、マーベルを買収したディズニーとで“提携解消”も視野に入れた「利益の配分に関する争い」が起こってしまったのです。

最終的には、3作目について、ソニーは、これまでより多くの利益をディズニーに分ける(ディズニーが25%を出資し、利益の25%を得る)ことで合意に至ったので、しばらくは現状の枠組みで進みそうです。

ちなみに、現時点では新型コロナウイルスの影響もあり、シリーズ第3弾「スパイダーマン3 (仮題)」は2021年11月5日に公開予定となっています。

●第7位

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「ベスト7位」にランクインした作品は、日本でも興行収入100億円突破の大ヒットとなったディズニー配給の「アラジン」です。

まず、世界興行収入から見てみると、10億5070万ドル(1050億円規模) と「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」に少し負けています。

ところが、制作費を見ると1億8500万ドル(185億円規模)となっていて、「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」より9000万ドル(90億円規模)も安いことが分かります。

そのため、最終的な利益は3億5600万ドル(356億円規模)と「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」より上回っているのです。

この実写版「アラジン」のメガヒットは経済的な意味合いが大きいと思います。

すでにアニメーション映画としては「名作」があり認知されていたため、実写が成功すれば相乗公開で過去作が再び稼働しますし、新作ができた際には、プロモーションツールとして最大限に有効活用できるので、まだまだ世界中で利益を生んでいきそうだからです。

実際に、これだけのメガヒットをした「アラジン」なので、すでに(アニメーション映画とは独立した)実写版の完全オリジナルな続編製作が決まっていて、現在は脚本が進められている状態のようです。

●第6位

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「ベスト6位」にランクインした作品は、こちらもディズニー配給の「トイ・ストーリー4」です。

ミニオンズ」などのイルミネーション作品と、「トイ・ストーリー」などのピクサー作品は“人気度合い”は拮抗している雰囲気がありますが、制作費には大きく差があり、「トイ・ストーリー4」の制作費は(「ペット2」の倍以上の) 2億ドル(200億円規模)となっているのです。

本作「トイ・ストーリー4」は、日本では何とか興行収入100億円を突破しましたが、「トイ・ストーリー3」の108億円には届きませんでした。

一方、世界興行収入では10億7340万ドル(1073億円規模)となっていて、「トイ・ストーリー3」の10億6600万ドル(1066億円規模)を上回ることができたのです!

そして、「トイ・ストーリー4」の最終的な利益は3億6800万ドル(368億円規模)となっています。

この「トイ・ストーリー」シリーズを含め、ピクサー作品が大ヒットし続けるとピクサーのブランド価値がどんどん上がるので、2次利用で稼ぎ続けられる体質になっているのも大きな強みですね。


ベスト11位までは「一部の例外を除き、制作費が1億ドル(100億円規模)以下の大作映画」といった相場でしたが、利益が2億ドル(200億円規模)を突破するような作品は、制作費も2億ドル(200億円規模)というのが当たり前な相場だったりするのです。

いずれにしても、この制作費規模の「超大作映画」を年間に何本も作れるディズニーのブランド力は凄いものがありますね。

すでに第6位と第7位で、日本で興行収入100億円を突破したハリウッド大作が出てしまっているので果たして、どんな番狂わせが起こっているのでしょうか。

次回は、いよいよ第5位から順に紹介していきます。

≫第5位はこちら
≫第4位はこちら
≫第3位はこちら
≫第2位はこちら
≫第1位はこちら

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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