【金曜ロードショー放送】「マスク」削除されたトラウマシーン&原作の存在を知ってる?【ネタバレ解説】
2022年9月16日 20:00
この記事では「マスク」のあらすじや主要キャスト、原作との比較、ジム・キャリー&キャメロン・ディアスの起用に関する秘話、幻のプロローグ&カットシーンなど、製作秘話・トリビアなどをご紹介します。
人間の潜在的欲望を引き出す古代の仮面をつけた青年が、謎の怪人となって大活躍する姿を描いたアクション・コメディ。1994年に公開(日本は95年)。目が飛び出る、地面でつぶれるなど“マンガ的な表現”をSFXで再現した映像も大きな話題になりました。
主人公は、気は優しいが小心者で女の子にモテない銀行マン・スタンリー。ある日、ナイトクラブのセクシーな歌姫ティナと出会い、ひと目で恋に落ちます。彼女は銀行強盗を企む恋人のギャング・ドリアンに強いられて、銀行の内部をカメラに収めに来ていたのです。やがて、スタンリーは川で古ぼけた仮面を見つけることに。家に帰り何気なく仮面を付けると、それはゴムのように顔に吸いつき……スタンリーは、緑色の頭にハデなスーツを着た怪人“スタンリー・ザ・マスク”に変身! 陽気な性格と人並み外れた身体能力を手に入れたスタンリーが、大騒動を巻き起こしていきます。
ティナ・カーライル:キャメロン・ディアス(井上喜久子)
ミッチ・ケラウェイ:ピーター・リーガート(若本規夫)
ドリアン:ピーター・グリーン(大塚明夫)
ペギー・ブラント:エイミー・ヤスベック(高島雅羅)
チャーリー・スクアーカー:リチャード・ジェニ(大塚芳忠)
ニコ:オレステス・マタセーナ(麦人)
アーブ:ティム・バグレー(柳沢栄治)
ピーンマン夫人:ナンシー・フィッシュ(青木和代)
マイロ(犬):マックス
原作となっているのは、ダークホースコミックス社の同名コミック。実はこの原作コミック、映画とはかなり雰囲気が異なっているんです。ダークで暴力的、皮肉的な笑いを交えた内容となっており、警察官や一般人が殺害される描写も……。
映画版を製作することになった「ニュー・ライン・シネマ」は、当初“第2の「エルム街の悪夢」”のような作品を目指していました。原作コミックに登場する怪人マスクと、「エルム街の悪夢」のフレディに「元々は虐げられていた弱い人物だった」「ある瞬間から超人的な力を得て、世の中に復讐していく」という共通点を見出していたからです。
監督を務めることになったのは「エルム街の悪夢3 惨劇の館」をヒットに導いたチャック・ラッセル。“ユーモアのあるホラー”として映像化を進めていきますが、なかなか上手くいかず。そこで大胆な路線変更を決断。ラッセル監督は、ユーモアに重点を置くことにしたのです。
脚色を任されたマイク・ワーブは、原作を基にしながら、2つの世界観を結びつけました。ひとつは「白熱(1949)」「仮面の米国」「犯罪王リコ」といった“ギャングの世界”。もうひとつは、バスビー・バークレイの“ミュージカルの世界”。(ちなみに、ラッセル監督は、「ジキル博士とハイド氏」をモチーフにした傑作喜劇「底抜け大学教授」に通じる部分もあると明かしています)
「ニュー・ライン・シネマ」創業者のロバート・シェイは、当初は路線変更に反対していましたが、最終的にGOサインを出すことに。この英断が、現在でも語り継がれる名作を生み出すことになったんです。
本作は、ジム・キャリーを一躍スターにのし上げた作品として知られています。
スタンリー・イプキス役の候補には、「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」「ゴーストバスターズ(1984)」のリック・モラニス、「インナー・スペース」「サボテン・ブラザース」マーティン・ショート、「フェリスはある朝突然に」「プロデューサーズ(2005)」のマシュー・ブロデリックのほかに、ニコラス・ケイジの名前もあったそうです。
キャリーの出演を猛烈にプッシュしたのが、ラッセル監督。物腰が柔らかで人の良さがにじみ出る一方で、クレイジーでヤバイ一面もある。その両面が共存しているのが「ジム・キャリー」だと見抜いていました。「ジム・キャリー=スタンリー・イプキス」以外の案は考えられない……それほどの熱意で「ニュー・ライン・シネマ」を口説き落としたんです。
劇中での暴れっぷりを見れば、この起用が功を奏したことが一目瞭然でしょう。「マスク」封切りの直前は、キャリーが主演した「エース・ベンチュラ」がちょうど話題になっていたタイミングでした。その流れに乗って「マスク」もヒット。キャリーは続けて「ジム・キャリーはMr.ダマー」でも人気を博し、一気にスター街道を駆け上がっていたのです。
本作での“ジム・キャリーの逸話”は数えきれないほど存在しています。これは、ラッセル監督がキャリーの個性を生かすべく「アドリブ大歓迎」の姿勢で撮影に臨んでいたことに起因しています。
例えば、“スタンリー・ザ・マスク”の決め台詞「キマッたぜ!(Smokin!)」。実はキャリーのアドリブなんです。初出は、スタンリーが“マスク”を初めて装着したシーン。竜巻と化した“スタンリー・ザ・マスク”は、ベッドの支柱につかまって急停止。この際、焦げたカーペットから“煙”が立ち昇る……この展開から、キャリーによって生み出された台詞でした。
物語中盤、“スタンリー・ザ・マスク”とティナがゴミの島公園で密会する場面にも注目! フランス人風の“スタンリー・ザ・マスク”が大きなタバコをひと吸いで灰にするという展開を想定していたそうですが、これが上手くいかなかったそう。そこでキャリーが披露したのが、ハートの煙を、鼻から噴射した煙の矢で射抜くというもの。この案が採用され、のちのちCGが付けられることになりました。つまり、アドリブから生まれたCG効果だったのです。
SFXを担当したのは、「スター・ウォーズ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ジュラシック・パーク」でも知られるインダストリアル・ライト&マジック(ILM)。本作の表現が高く評価され、第67回アカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされています。
非常にユニークなのが、ラッセル監督のこんな言葉。「ジムを使えば、CGの費用を節約できる。顔を伸ばせるからILMの仕事が減る」。劇中では、あえてCGをやめている部分もあったそう。その理由が「実写のままでも、(ジム・キャリーの)顔が十分伸びていたから」というものでした。
ジム・キャリーと同様、キャメロン・ディアスにとっても、本作が転機を迎える作品に。初の映画出演でヒロイン役という異例の大抜てきでした。
ティナのイメージは“心の美しい悪女”。「絶世の美女」「キューピッドの弓形の唇」「青い瞳」「100万ドルの美脚」というビジュアルイメージがあり、脚本の草稿段階ではスーパーモデルのシンディ・クロフォードが候補にあがったほか、マリリン・モンローの再来といわれたアンナ・ニコル・スミス、「イレイザー」でも知られるバネッサ・ウィリアムズの起用も検討されていました。
しかし、クランクインが近づいても、ティナ役は確定しません。ここから“奇跡”が生じていきます。キャスティング担当者が働いていたビルには、当時「エリート・モデル・マネジメント」のロビン・レビが勤務していました。「誰か候補はいないか?」と打診したところ「ひとりいる。今、そっちに行かせる」と話したレビ。しばらくして現れたのがディアスでした。
顔合わせを経て、彼女の才能に気づいたキャスティング担当者は「監督に会ってくれ」と願い出ましたが、ディアスはなんと「明日パリに行くから……ごめんなさい」と断り、本当にパリに行ってしまったのです。しかし、ラッセル監督もディアスの事が気になり、二次面接のためだけに、彼女をパリから呼び戻すことになりました。
キャリーもディアスのことが気に入ったようで「彼女のためなら何でもする」と話すほど。ところが「ニュー・ライン・シネマ」のロバート・シェイが起用に反対。それは、演技未経験の女優をヒロインに据えるという、あまりにも無謀な賭けだったからです。しかし、ラッセル監督は「絶対にスターになる」という確信があったようで、製作総指揮のマイケル・デ・ルカに“クビを覚悟”で起用を迫りました。最終的にシェイもディアスの才能を認め、出演に結びついたのです。
「マスク」の“魂”ともいえる存在がいたことをご存知でしょうか? それが、ハリウッドのカートゥーン黄金時代を築いたアニメーターのテックス・エイブリー。彼は、ワーナー・ブラザース、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)で活躍し、「ルーニー・テューンズ」の名キャラクターたちの誕生に深く関わった人物です。「マスク」製作陣は“クレイジーなドタバタアニメの始祖”“現在の短編アニメの基礎を築いた人物”と評しています。
スタンリーが自室のテレビでアニメーションを鑑賞している場面が登場しますが、ここに映っているのが、エイブリーの監督作「おかしな赤頭巾」。その後、クラブ「ココ・ボンゴ」で“スタンリー・ザ・マスク”の頭がオオカミに変化する光景も描かれますが、これもエイブリー作品へのオマージュです。
「マスク」が目指していたのは“実写のようなアニメ”。エイブリー作品らしい「足が伸びる」「目玉が飛び出る」「舌が飛び出す」といったアクションが取り入られています。
装着した人物に不思議な力を授ける“マスク”。劇中で明確に語られることはありませんが、厳密なルールがあります。
ひとつ目は「内なる衝動の出現」というもの。マスクを装着した後、キャラクターによって特徴がわかれることになっています。スタンリーの“裏の顔”は「恋狂いの男」「いたずら好き」というもの。だからこそ、陽気で明るいキャラクターとして描かれることになったんです。一方、ギャングのドリアンは奥底に潜んでいた「暗さ」「凶暴性」が増幅する形。これは「エルム街の悪夢」のフレディに似通った雰囲気を醸し出しています。
2つ目は「マスクが魔力を発揮しない時間帯」。スタンリーが、仮面に関する研究の第一人者アーサー・ニューマン博士(ベン・スタイン)を訪問した際のシーンが印象的です。スタンリーは博士の前でマスクを装着するのですが……なぜか変身することができません。これは「マスクの魔力が、夜限定で発揮される」という設定のせいなんです。
ジム・キャリー、キャメロン・ディアスだけでなく、本作では“犬の名演”にも注目です。スタンリーの飼い犬・マイロを演じたのは、ジャック・ラッセル・テリアのマックス。特殊効果が多用された作品ですが、マックスの動作・演技ではCGを使用していません(“変身”した際の特殊効果を除く)。
脚本執筆段階、スタンリーには“話し相手”となる存在が必要なのではないかという議論がなされていました。その話し合いから発展し、脚本家マイク・ワーブの友人が犬を飼っていたことから、マイロの存在が加わることになりました。
マイロ役のマックスは、人間顔負けの名演技を披露しています。例えば、スタンリーが留置所にいる場面。外にいるマイロが、彼のもとへ何度もジャンプする場面ですが、これはスティーブン・スピルバーグ監督もお気に入りのシーン。後半、マイロがマスクを装着して“変身”するという意外な展開も話題になりました。当初は、マスクに顔を付けた状態から逆再生で表現しようとしていましたが、マックスは「自らマスクに顔を近づける」という天才ぶりを発揮してみせたのです。
本作には「幻のプロローグ」が存在しています。
それは“マスク”の起源を示すものでした。舞台は、紀元10世紀。アイスランド人探検家のレイフ・エリクソンが“新大陸”に到達。バイキング&魔女とともに、未開の地を訪れた理由は「“マスク”の入った箱を封印すること」。地中に箱を埋めたエリクソンが「(“新大陸発見”の)権利はイタリア人(=コロンブス)に譲る」と言い残し、その場を足早に去っていきます。
このような場面が、映画のオープニング以前に存在していました。これはラッセル監督流のアメリカ発見物語で、“マスク”を北欧神話の災いの夜の神・ロキと関連させています。マリブで撮影が行われていましたが、予算の都合でカットすることになりました。
新聞記者のペギー・ブラントの行く末を知っていますか? スタンリーの味方になるかと思いきや、土壇場で裏切ってしまうという、ティナとは異なるタイプの“悪女”。劇中ではしれっと姿をくらましているのですが……カットされたシーンでは、トラウマ級の展開が待ち受けています。
カットされたのは、ドリアンが“マスク”で初めて変身したシーンの「その後」。スタンリーを裏切ったペギーは、ドリアンの異様な姿を目の前にすると「悪いけどお先に帰らせてもらうわ」とその場を去ろうとします。ドリアンが立ち塞がると「どきな。私を甘く見るんじゃないよ!」と銃を突きつけるペギー。ところが、その脅しに臆さないドリアンは、ペギーを軽々と持ち上げて……なんと新聞の印刷機に放り込んでしまいます。印刷機から出てきたのは、赤い文字で書かれた「奇怪な事故で新聞記者が死亡」という見出しの新聞……そう、ペギーはドリアンによって殺されていたのです。
同シーンは、試写会に参加した観客の反応を受けてカットした部分。観客に嫌いな点を尋ねたところ「ペギーが死ぬ場面」という回答が多く、「暴力が過ぎる」という意見もあったそうです。
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