【コラム/細野真宏の試写室日記】「ジャングル・クルーズ」。ディズニー映画の状況が残念に思えるほど本作は面白い!
2021年7月29日 12:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
まず、私は「ジャングル・クルーズ」というタイトルを見ても何も感じず、テレビCMを見た際に、なぜ「『パイレーツ・オブ・カリビアン』のディズニーが贈る」といったキャッチコピーが入るのかさっぱり分かりませんでした。
でも、それもそのはず、本作は「パイレーツ・オブ・カリビアン」と同様にディズニーランドの人気アトラクションから誕生した映画で、ディズニーランドにまだ1度も行ったことがない私には未知の世界だったからでした…(笑)。
そこで、まずは「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズについて。
2003年に公開された「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」は、当初はそれほど期待せずに見ましたが、アトラクション・エンターテインメント作品として非常に良く出来ていて、いきなり興行収入68億円を記録したのも納得でした。
そして、第2弾の「パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト」は、第1弾でのファンが増え、大ヒットの興行収入100.2億円。
第3弾の「パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド」では、3部作の終わりに相応しく興行収入109億円となり、右肩上がりで有終の美を飾っています。
(その後、監督が代わり第4弾と第5弾が作られていますが、私はこの2作品は正直に言うと蛇足的な作品のように思っていて、それほど出来が良いとは思っていません)
以上のように、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズについては、私は第1弾の「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」が最も出来が良かったという評価です。
そして、本作も“アトラクション・エンターテインメント作品”で、“秘宝のような伝説の存在を探す冒険”の物語なので、かなり「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズに近いのです。
具体的には「ジャングル・クルーズ」は、第1弾の「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」と非常に似ていて、ディズニー映画の良さが色濃く出ていました。
これは未だに「謎」なのですが、なぜかディズニー映画には、“監督に魔法をかける力”があるようなのです。
例えば、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの第1弾から第3弾までを手掛けたゴア・バービンスキー監督は、この名作シリーズ以外では、あまりパッとしていないのです。
そして、本作「ジャングル・クルーズ」のジャウム・コレット=セラ監督は、「フライト・ゲーム」や「ロスト・バケーション」などそれなりに出来の良い佳作を作っていました。ただ、正直、本作のようなディズニー映画とは作風が違い過ぎて起用に疑問がありました。
ところが不思議なことに、「ジャングル・クルーズ」は“完全な「ディズニー映画」”として完成していたのです!
おそらく、この魔法をかけるようなバックアップ体制があることが、ディズニー映画の大きな強みなのかもしれません。
本作の魅力の一つには、キャストの存在もあると思います。
実は、今回のキャストも、ある意味では“魔法”の領域なのかもしれません。
まず、「あなたが好きなハリウッド俳優は誰ですか?」というアンケートがあるとすると、トム・クルーズ、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオなどが挙がると思います。
少なくとも私は、本作の主演の一人であるドウェイン・ジョンソンが上位にくるランキングを日本では見たことはありません。
その一方で、「世界で最も稼ぐ俳優ランキング」(フォーブス誌)では、2019年、2020年とドウェイン・ジョンソンが連続でトップになっているのです!
つまり、「ワイルド・スピード」シリーズや「ジュマンジ」シリーズなど、当たり役が多いドウェイン・ジョンソンは潜在的な影響力が大きいのです。
そして、ヒロイン役のエミリー・ブラントも、すぐには名前が挙がる女優ではないのかもしれませんが、こちらも絶大な実力があります。
ハリウッド映画初進出の「プラダを着た悪魔」では、主演のアン・ハサウェイに食われながらも、メリル・ストリープのアシスタント役を演じてゴールデングローブ賞の助演女優賞にノミネートされました。
その後「砂漠でサーモン・フィッシング」では現代風なヒロイン役も板についてゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされたりと、着実に演技派として知名度を上げています。
また、ディズニー映画の「イントゥ・ザ・ウッズ」「メリー・ポピンズ リターンズ」では歌も非常に上手いことを示し、共にゴールデングローブ賞の主演女優賞にノミネートされています。
さらには、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」「クワイエット・プレイス」シリーズではアクションの素養も抜群に高いことを証明するなど、まさに本作のヒロイン役にピッタリのキャスティングでした。
このように実力派の2人によるアトラクション・エンターテインメント作品なので、かなり期待が持てるのです。
本作は、まさに「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズと同様に、何と言ってもアトラクションの楽しさがあります。
「ジャングル・クルーズ」は次から次へとテンポ良く物語とアクションが続いていくので、2時間8分に飽きがきませんでした。(ちなみに 「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」は2時間23分です)
吹替版と字幕版については、どちらも遜色なく良かったと思います。
ただ、強いて言えば、ドウェイン・ジョンソンが演じるフランク船長はダジャレ好きという設定なので、その点では字幕版より吹替版の方が分かりやすかったです。
また、冒頭のエミリー・ブラントが演じるリリーの弟・マクレガーが演説する際に読む原稿のオチのシーンも、字幕だとボーっとしていると気付かないので、この点でも吹替版の方が分かりやすくて良いかと思いました。
本作の場合は、このくらいの違いでも、意外と小ネタのような笑えるシーンがあるので、特にこだわりが強くない場合は吹替版の方が無難かもしれません。
さて、最後に肝心の興行収入についてですが、本作は、ポテンシャルとしては「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」くらいのヒットは見込めるはずなのですが、以下の状況により厳しい結果も避けられないのではと思われます。
まず、そもそも本作は、映画館だけで公開するはずでした。
ところが、新型コロナウイルスの影響拡大でディズニーのアメリカ本社が今年の3月23日(現地時間)に急きょ公開方式を変更してしまったのです。
その結果、日本でも3月31日の段階で、アメリカ本社と同様の公開方式にすることを発表したのです。
そのため、ディズニープラスとほぼ同時公開(劇場公開は7月29日から、ディズニープラスでは7月30日から)となり、東宝、松竹、東映系の大手シネコンが上映しない状態での公開となってしまいます。
そして、そもそも新型コロナウイルスの問題が片付いていないので、「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」の時のような大規模な来日会見などは当然ありません。
しかも、オリンピックで日本勢がかなり健闘をしているため、メディアもオリンピック一色となっていて映画の興行面でも影響は出つつあるようなのです。
ただ、明るい面を探すと、今のところディズニーからの発表では同時配信はこの作品まで、となっていて、8月からの作品については劇場公開のみとなりそうなのです!
しかも、「ラーヤと龍の王国」「クルエラ」、そして「ジャングル・クルーズ」と、やはりディズニー映画の出来の良さは健在だということです。
つまり、ディズニー映画が映画館と上手く歩調を合わせて稼働すれば、再び映画業界が盛り上がることになるため、もうしばらくの我慢の時なのかもしれません。
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