ウォッチメン : 特集
「300/スリーハンドレッド」のザック・スナイダー監督が、これまで映像化不可能と言われてきた名作グラフィックノベルを映画化した春の超話題作「ウォッチメン」。全米での記録的大ヒットを受け、日本での公開を間近に控えた今、その多面的な魅力をチェックしてみよう。(文・構成:編集部)
<パート1>「ウォッチメン」=<ストーリー>×<映像>の魅力
ストーリー編
【1:基本は謎解きミステリー】
「ウォッチメン」の魅力は、まず、さまざまなドラマを内包した重層的なストーリーだが、基本は謎解きミステリー。1985年、ある夜のニューヨーク。何者かに殺された男は、かつて“ウォッチメン”と呼ばれたヒーロー集団の一員だった。同じ集団に属していた男、ロールシャッハは、この事件の影に何者かの陰謀があるのではないかと考え、事件の真相を追ってかつての仲間たちの元を訪ねていく。そして、彼が見つけた恐るべき事実とは……という謎解きが展開していく。
このミステリーに加えて、さまざまな物語が描かれていく。まず、このロールシャッハのトレンチコートとフェドーラ帽、洒落たモノローグは、ハードボイルド小説のスタイル。「カサブランカ」「マルタの鷹」のハンフリー・ボガートに代表されるこのスタイルは、その後、「ブレードランナー」や「シン・シティ」でも使われたが、今回もその伝統は踏襲されている。
そしてロールシャッハが歩むのは大都市の裏側、世間から本性を隠して生きる者たちの地下世界。ここにはフィルムノワールの名作たち、「アスファルト・ジャングル」「現金に体を張れ」から「L.A.コンフィデンシャル」「ブラック・ダリア」へと連なる暗黒映画の香りが漂う。さらに、物語の進行と共に明らかになっていくのは、裏切りと陰謀のドラマ。「ウォンテッド」「ミッション:インポッシブル」に通じる驚愕のストーリーが待っている。
また、物語の背後には、さまざまな人間ドラマがある。現代社会のパロディとして生きることを選択した男の真情、本当の自分を隠して生きる男の鬱屈、同じ仕事を選んだ母と娘の愛と葛藤など、主要登場人物のすべてがドラマを持っているのだ。
【2:原作は名作中の名作】
この重層的なストーリーはもともと原作にあったもの。ザック・スナイダー監督は本作を「可能な限り原作に忠実に」というコンセプトで映画化した。というのもこのアラン・ムーア原作のグラフィックノベルは、88年にグラフィックノベルとして初めてSF文学の最高峰ヒューゴー賞を受賞、最近でも05年に「タイム」誌が選ぶ1923年以降の長編小説ベスト100に選ばれた名作。出版後20年を経た今でも、グラフィックノベルのファンが、この分野を知らない人にまず勧めるのがこの「ウォッチメン」。今なおこの原作は、グラフィックノベルの最高峰なのだ。
【3:名監督たちが映画化に挑戦したが】
こうした魅力ある原作なので、これまでにもさまざまな監督が映画化に挑戦した。「未来世紀ブラジル」の後のテリー・ギリアム監督が挑戦したが、どうしても映画の長さには収められずに断念。次に「π」で注目を集めたダーレン・アロノフスキー監督が挑み、舞台を現在に置き換えて脚色しようとしたが実現せず。そして「ボーン・スプレマシー」「ボーン・アルティメイタム」のポール・グリーングラス監督が挑んだが、こちらも結局実現しなかった。それほどまでに映画化が難しい原作であり、長らく待ち望まれた映画化なのだ。
映像編
【「300」のザック・スナイダー監督がクールに大胆に映像化】
監督は、やはりグラフィックノベルを映画化した「300/スリーハンドレッド」で、斬新な映像表現を見せてくれたザック・スナイダー。とくれば、ド派手な映像表現は期待通り。とくにアクションシーンは、原作以上にクールで過激に映像化されている。今回はさらに、都市の雑踏から、ベトナム戦争の戦場、地球を離れた宇宙での壮大なスペクタクルまで、さまざま場面の映像化に挑戦している。
また、原作の画を担当したデイブ・ギボンズが映画に参加。ザック・スナイダー監督が原作に忠実な映像化を意識したため、構図から色調まで原作にそっくりなシーンが多数登場。原作ファンはその再現度に驚愕するに違いない。
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