コラム:第三の革命 立体3D映画の時代 - 第2回

2008年2月29日更新

第三の革命 立体3D映画の時代

第2回:過去の立体映画ブームとの違い

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■「スター・ウォーズ」シリーズも立体化

BIFCOM2007会場
BIFCOM2007会場

これらの作品に続くと見られているのが、ルーカスフィルムによる「スター・ウォーズ」シリーズ全作品の3D変換計画である。エピソード4・5・6・1・2・3という順で、毎年1作ずつ再公開するというものだが、現在具体的な公開時期などは未定である。

この3D変換を担当しているのは、米In-Three社で、この技術にDimensionalization(TM)という名称を与えている。同社はこれまで具体的な技法を秘密にしていたが、07年10月に韓国・釜山で開催されたBIFCOM2007において、Real D(TM)方式で世界初上映した。その内容は、詳細なメイキング映像と「スター・ウォーズ エピソード4」および「同3」のテスト映像だったが、その出来は極めて自然で、最初から立体映画として制作されたものと変わりがなかった。

■新作映画にも2D→3D変換

3D版も公開された「ルイスと未来泥棒」
3D版も公開された「ルイスと未来泥棒」

また旧作に限らず、新作の映画もこの技術によって立体化し、2D版と同時上映する動きが盛んだ。05年末に公開されたディズニーのフルCGアニメ作品「チキン・リトル」では、映画の大部分がILMによって3D変換されている。また同じくディズニーのフルCGアニメ作品「ルイスと未来泥棒」(07年)は、ILMに代わってデジタル・ドメイン社が2D→3D変換作業を行った。

実写作品では、「スーパーマン・リターンズ」(06年)の劇中4カ所の合計20分間が、2D→3D変換によってIMAX 3D化された。劇中の4シーンにおいて、緑のマークが出ると立体眼鏡を掛け、赤いマークが出ると外すという形式である。IMAX社この手法を用いて07年にも「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」をIMAX 3Dで上映している(国内未公開)。これは、クライマックスの20分間を2D→3D変換したものだった。

なおこれらの作品は、35mmフィルムの10倍以上の面積を持つIMAXフィルムにレコーディングするため、IMAX DMRというデジタル・ブローアップ技術を用いて、解像度が大きく引き上げられている。

■3D撮影・編集システム

もっともすべての作品が2D→3D変換なのではなく、ちゃんと2台のカメラでステレオ撮影されている作品も少なくない。現在注目されている撮影システムは、ペイス・テクノロジー社が、ソニーのHDC-F950やHDC-1500などのデジタルHDカメラをベースにして開発した“フュージョン・カメラ・システム”だ。ペイス社は、ジェームズ・キャメロン監督の「アビス」(89年)や「タイタニック」(97年)などに、水中撮影用のカメラハウジングや照明装置などを提供したことが縁で、IMAX 3Dのドキュメンタリー「ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密」(02年)のためにフュージョン・カメラ・システム(当時の名称はリアリティ・カメラ・システム)を開発した。

キャメロンはまた、フリーダイバーの伝記映画「The Dive」(08年全米公開)をこのカメラで立体撮影した。これは、ドクターストップがかかった夫のピピン・フェレーラスに代わって、素潜り世界記録の170mに挑戦するも失敗し、02年10月12日に亡くなったオードリー・メストレの夫婦愛を描くもの。フェレーラスは、翌年の妻の命日にこの記録に挑み、見事に世界記録を樹立した。

今夏、日本でも全国の劇場で3D上映される 「センター・オブ・ジ・アース3D」
今夏、日本でも全国の劇場で3D上映される 「センター・オブ・ジ・アース3D」

さらにフュージョン・カメラ・システムは、同じくキャメロンの「アバター」(09年)に用いられた他、ロバート・ロドリゲスの「スパイキッズ3-D:ゲームオーバー」(03年)や「シャークボーイ&マグマガール3-D」(05年)、エリック・ブレビッグの「センター・オブ・ジ・アース3D」(08年夏公開)、ジェリー・ブラッカイマー製作の「G-Force」(09年7月24日全米公開)、「ファイナル・デスティネーション」(00年)シリーズの4作目となる「Final Destination 4」(09年1月全米公開)などに使用された。また、「NBAオールスター・ゲーム中継」(07年)などのスポーツ番組、「U2 3D」(07年)といったコンサート映像など、様々な用途の立体撮影で活躍している。

また、立体映画用の編集システムも発売されている。ポストプロダクションシステム大手のクォンテル社は、今後の立体映画需要の高まりに答えるため、立体視しながらリアルタイム編集作業が行えるiQ4や、カラーグレーディングシステムPablo 4Kなどの販売を開始した。これらの機材はペイス・テクノロジー社や、米ポスプロ大手のフォトケム社、英アクシス・ポスト社などに導入されている。映画作品としては、予想外の大ヒットとなった「Hannah Montana & Miley Cyrus: Best of Both Worlds Concert Tour」(08年)に用いられている。

■コンピュータ・グラフィックス作品

さらにフルCG映画でも、左右2画面分のレンダリング(映像の生成)をしている作品も多い。レンダリングの計算時間が倍になってしまうが、人手間を考えると2D→3D変換よりは効率は高いからだ。「ポーラー・エクスプレス」(04年)や「ベオウルフ/呪われし勇者」を手掛けたソニー・ピクチャーズ・イメージワークスの場合は、2D版のイメージをセンターと考え、さらに3D用の左右の映像を別々に作るという、手間のかかる方法を採っている。つまり、通常の3倍のレンダリングをしたということだ。

これは単純に2D用の素材を利用しただけでは、立体視に最適化された映像にはならないからである。画面のレイアウトや被写界深度(ピントの合う範囲)などを、立体用に調整する必要があるのだ。

とはいえ、フルCG作品は実写作品よりも立体映画化が容易であるため、多くのスタジオが参入を計画している。先行したウォルト・ディズニー・スタジオに続いて、20世紀フォックス傘下のブルースカイ・スタジオは、「アイス・エイジ」シリーズ第3段であるフルCGアニメーション「Ice Age 3」(09年7月1日全米公開)を、立体上映すると発表した。監督は前作に続いてカルロス・サルダーニャが務める。

また、この連載の第1回で紹介したように、ドリームワークス・アニメーションは全作品の立体化を発表している。前回お知らせした「Monsters vs. Aliens」(09年3月27日全米公開)、「How to Train Your Dragon」(09年11月20日全米公開)、「Shrek Goes Forth」(10年5月全米公開)の3本に続き、俳優のベン・スティラーがプロデューサーを務める「Master Mind」(09年)や、クリス・サンダース(Chris Sanders)監督の「Crood Awakening」(09年)、「シュレック」シリーズのスピンオフ作品「Puss in Boots」(10年)、さらに「シュレック」シリーズの第5作や、「Interworld」「Punk Farm」といった企画も進められている。

また、スティーブン・スピルバーグとピーター・ジャクソンの、最強コンビが手掛けると話題の「Tintin」も立体映画になる。これは、世界的に有名なコミック「タンタンの冒険旅行」を、WETAデジタル社がパフォーマンス・キャプチャーによって3部作のフルCG映画にするという計画で、監督はスピルバーグとピーター・ジャクソンがそれぞれ1本ずつ手掛け、ロバート・ゼメキスにも打診されているらしい。第1作は09年に公開される予定である。

リトル・レッド/レシピ泥棒は誰だ!?」(05年)でCGアニメ業界に参入したワインスタイン・カンパニーは、カナダのレインメイカー・アニメーション&ビジュアル・エフェクト社などで制作中の「Escape from Planet Earth」(09年全米公開)に続き、米エクソダス・プロダクションが手がけるゴシックホラー・コメディの「Igor」(08年10月17日全米公開)を立体映画にすると発表した。監督はディズニーやドリームワークス・アニメーションでの経験を持つAnthony Leondis。さらにワインスタイン社は、香港のイマージ・アニメーション・スタジオで製作中の、「鉄腕アトム」のフルCGアニメ化作品「Astro Boy」(09年)も立体映像にするプランを検討中らしい。監督は「マウス・タウン/ロディとリタの大冒険」(06年)のデビッド・バワーズが決定した。

ヨーロッパのCGプロダクションも次々と参戦に名乗りを上げている。先行するベルギーのエヌウェーブ・ピクチャーズ社の「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」(08年8月全米公開)に続き、HandMade Films、Ilion Animation、Lolafilms、Nickelodeon Animation Studios、Worldwide Biggiesといったイギリスやスペインのプロダクションが手がけるSFフルCGアニメ「Planet 51」(09年3月24日)や、フランスのマク・ガフ・リーニュ社が手がけ、ゴーモン社が配給する「Rock the Boat」(09年全仏配給)といった作品が発表されているが、まだまだ増えると予想されている。

筆者紹介

大口孝之のコラム

大口孝之(おおぐち・たかゆき)。立体映画研究家。59年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像「ユニバース2~太陽の響~」のヘッドデザイナーなどを経てフリー。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)。

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