【29歳の誕生日記念】伊藤沙莉の芝居を堪能する映画5選
2023年5月4日 11:00
女優・伊藤沙莉が、5月4日に29歳の誕生日を迎えました。6月30日に主演最新作「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」の公開を控えているほか、2024年前期のNHK連続テレビ小説「虎に翼」では主演を務めます。更なる飛躍が期待される伊藤の過去作を振り返ってみながら、作品世界に溶け込んでみせた芝居を堪能することができる映画5本を紹介します。
「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画をつくったら」「くれなずめ」など意欲的な作品を手がける松居大悟監督のオリジナル脚本を、池松壮亮と伊藤の主演で映画化。ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観が自身のオールタイムベストに挙げる、ジム・ジャームッシュ監督の代表作のひとつ「ナイト・オン・ザ・プラネット」に着想を得て書き上げた新曲「Night on the Planet」に触発されて松居監督が執筆した、初めてのオリジナルのラブストーリー。
今作は2021年7月26日から始まる。池松演じる主人公・佐伯照生の誕生日(7月26日)を軸とし、1年ずつ同じ日をさかのぼりながら、別れてしまった男女の“終わりから始まり”の6年間を描いている。怪我でダンサーの道を諦めた照生とタクシードライバーの葉を軸に、様々な登場人物たちとの会話を通じて都会の夜に無数に輝く人生の機微を、繊細かつユーモラスに映し出すことに成功した意欲作。21年の第34回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、観客賞を受賞している。
池松と伊藤が奏でるリズムが、ストーリーが進んでいくごとに観る者の心を鷲づかみにしていきます。それは“定点観測”であるかのごとく、1年ずつ同じ日をさかのぼっていくため、観客は照生と葉、どちらの心情にも寄り添うことが出来る作りになっているからではないでしょうか。タクシーを運転しながら、お馴染みのハスキーボイスで繰り広げる会話劇は、どこからが芝居なのかを見定めることが難しいほど。それだけの世界観を成立させてしまった、池松と伊藤の俳優としての卓越した技能を満喫してください。
それぞれ事情を抱えながらも力強く生きるセックスワーカーの女たちを描いた群像劇。劇団「□字ック」主宰の山田佳奈が、2013年初演の同名舞台を自らのメガホンで映画化。2019年・第32回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門に出品され、伊藤が東京ジェムストーン賞を受賞した。
雑居ビルにあるデリヘルの事務所で、華美な化粧と香水の匂いをさせながらしゃべる女たち。デリヘル嬢たちの世話係をするカノウは、様々な文句を突きつけてくる彼女たちへの対応に右往左往している。やがて、店で一番人気のマヒルが仕事を終えて戻って来る。何があっても楽しそうに笑う彼女がいると、部屋の空気は一変する。ある日、モデルのような体型の若い女が入店したことをきっかけに、店内での人間関係やそれぞれの人生背景が崩れはじめる。
刺激的な題材ですが、とことん楽しむべきは伊藤をはじめ恒松祐里、佐津川愛美、片岡礼子、森田想、円井わん、行平あい佳ら実力派女優たちによる、ピリついた演技合戦。設定として完全な1シチュエーションではないのですが、だからこそ各キャラクターの息吹が伝わってきます。伊藤が演じたカノウは、デリヘル嬢たちの世話係としてその空間に存在していますが、いわば“部外者”。この立ち位置から不協和音を眺めるからこそ、山田佳奈監督の代弁者として存在していることが浮上してきます。
「火花」で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目となる同名小説を、主演・山崎賢人、ヒロイン・松岡茉優、行定勲監督のメガホンで映画化。劇場公開と同日に、Amazon Prime Videoでも配信が開始されたが、実写邦画が封切りと同時に全世界独占配信されるのは初の試みとなった。
中学からの友人と立ち上げた劇団で脚本家兼演出家を担う永田。しかし、永田の作り上げる前衛的な作風は酷評され、客足も伸びず、ついに劇団員たちも永田を見放し、劇団は解散状態となってしまう。厳しい現実と理想とする演劇のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独と戦っていた。
そんなある日、永田は自分と同じスニーカーを履いている沙希を見かけ、彼女に声をかける。沙希は女優になる夢を抱いて上京し、服飾の大学に通っている学生だった。こうして2人の恋ははじまり、お金のない永田が沙希の部屋に転がり込む形で2人の生活がスタートする。沙希は自分の夢を重ねるかのように永田を応援し、永田も自分を理解し支えてくれる沙希を大切に思いながら、理想と現実と間を埋めるかのようにますます演劇にのめりこんでいく。
伊藤は今作で、山崎賢人扮する永田と仲違いするものの、友人として心配し続ける「おろか」の元団員・青山を演じています。演劇にのめり込むあまり“天上天下唯我独尊”を体現する社会性ゼロの永田の顔を売るため、演劇評論家たちが集う飲み会に誘ったかと思えば、心身ともに次第に追い詰められていく沙希を慮り永田に別れるよう迫る場面などは大きな見せ場。伊藤が青山として作品世界を生きることで、今作をリアリティ溢れるラブストーリーへと昇華させています。
直木賞を受賞した桜木紫乃の自伝的小説を、「百円の恋」「全裸監督」の武正晴監督が映画化。北海道の釧路湿原を背に建つ小さなラブホテル、ホテルローヤル。経営者家族の一人娘・雅代は美大受験に失敗し、ホテルの仕事を手伝うことに。アダルトグッズ会社の営業・宮川に淡い恋心を抱きながらも何も言い出せず、黙々と仕事をこなすだけの日々。そんな中、ホテルにはひとときの非日常を求めて様々な客が訪れる。
ある日、ホテルの一室で心中事件が起こり、雅代たちはマスコミの標的となってしまう。さらに父が病に倒れ家業を継ぐことになった雅代は、初めて自分の人生に向き合うことを決意する。波瑠が主演を務め、松山ケンイチ、安田顕が共演。脚本は「手紙」「イエスタデイズ」の清水友佳子。
波瑠、松山ケンイチ、安田顕をはじめ、芸達者な個性派俳優が結集した群像劇のなかで、伊藤は親に見捨てられた女子高生の佐倉まりあを演じ、岡山天音扮する妻の浮気に耐える高校の担任教師・野島亮介とホテルローヤルを訪れ、大きな選択をすることになります。特筆すべきは、教師と生徒のふたりが、実は同い年だということ。違和感なく演じ切ったわけですが、今作で女子高生役は卒業だと公開時に語っています。
「下衆の愛」の内田英治監督が、地方都市で周囲の大人たちに翻弄されながら生きる場所を探す若い男女の姿を、実話をベースに描いたブラックコメディ。とある地方都市で生まれた愛衣は、信仰ジャンキーの母親によって宗教施設に入れられ、7年間世間から隔離された生活を送っていた。
教団が警察に摘発されたことにより、保護された愛衣は中学に通い始めるが、そこに彼女の居場所はなく、ドロップアウトした愛衣は、万引きと生活保護で生きるヤンキー一家や、サラリーマン家庭などを転々としながら、自分の居場所を必死に探していた。愛衣に恋をし、愛衣の唯一の理解者である不良少年の亮太もまた自分の居場所を探していたが、やがて半グレたちの世界に居場所を見つけ、愛衣は風俗の世界に身を落とす。
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文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。