【インタビュー】「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」にも参加 ハリウッドで活躍するクリエイター、片桐裕司さんのキャリア
2023年3月12日 11:00

いよいよ来週、アカデミー賞授賞式が開催されます。作品賞を含む4部門にノミネートされた「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」を鑑賞し、その映像表現の素晴らしさにどっぷりと浸った映画ファンは多いことでしょう。そんな世界的大ヒット作にかかわったスタッフのひとりであり、キャラクターデザインや造形師としてハリウッドで活躍、「パシフィック・リム」「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ、近年では「マンダロリアン」などに携わるクリエイターが片桐裕司さん。
高校卒業後単身渡米し19歳からキャリアをスタート、ハリウッド大作の仕事と並行し、自身の監督作品を発表、日本では後進育成のための「彫刻セミナー」も主催するユニークな経歴の持ち主です。
映画.comでは片桐さんのキャリア、監督作品、そして「彫刻セミナー」の模様を、3回に分けてご紹介。第1回は、キャラクターデザイナーや造形師としてのキャリアの道程を片桐さんに語ってもらいました。

映画の仕事でまず目指したのは、特殊メイクという道です。映画における造形は、特殊メイクの一部なので。特殊メイクと日本語で書くと範囲が狭くなってしまう感じがするのですが、英語で言うところの<special makeup effects>そのブームが1980年代にありました。僕が小学生の頃、82~83年に「E.T.」「遊星からの物体X」「ダーククリスタル」が公開されたんです。あと「トロン」と「少林寺」も。小学校5年生の時の冬休み映画が「遊星からの物体X」「少林寺」で、お小遣いでどっちかを選ばなきゃいけなくて……僕は、当時「少林寺」を選んだんです。ジャッキー・チェンが人気になりだした頃でしたね。
そうなんです。まだ小学生だったし、その時はスタントマンやりたいって。で、83年にリック・ベイカーが手掛けたマイケル・ジャクソンの「スリラー」のMVが出たんです。ゾンビものの映画も出てきて、中学生になる頃に特殊メイクが注目されるようになりました。
いいえ、映画を見るのは大好きでしたが、特殊メイクに興味を持ったのはある本がきっかけだったんです。「特殊メイクの世界」という本を中学生になって読んで、そういう職業があるって初めて知って。それまでは、ただの映画ファンでしたが、こういう仕事が存在するっていうことに興味を持ちました。だから、その後から映画を見るときに、誰が作っているか?という意識を持つようになりました。例えばアカデミー賞を獲った「アマデウス」は、サリエリのメイクアップ賞についてパンフレットにはそれに関する事が載っていなかったり、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の老けメイク、あれも特殊メイクなんだけど日本のパンフレットや雑誌などには言及がなくて。そういうことにちょっとフラストレーションを持っていたのを覚えてます。でも、その当時は別に自分でなにか作ってみたいっていう気持ちはなかったんですけどね。
で、実際にやってみたきっかけは、高校2年生の終わりに受験勉強を始めたものの、2カ月続かなくて(笑)。で、このまま頑張って大学に行った後に何するのかな?って考えたら、まあ遊ぶだろうなと。遊ぶのはいいとして、それが終わってから何になるか……と考えたら、サラリーマンしかないなと思って。サラリーマンには申し訳ないけど、僕はやりたくないなと。じゃあ何しようかって考えたときに、特殊メイクで映画に携わる仕事をしたいということを思い出して、高2の2月に渡米すると決めました。準備としては英会話の学校に通ったり、レイテックスやフォームレイテックスなどの素材を買って、友人にモデルを頼んでマスクを作ったりしていました。

アメリカで10週間だけメイクアップの学校に通いました。何のつてもないので、それくらいしか道がなかったんです。2週間は一般的な美容メイク、あとは、ひげやカツラについて学んで、最後の2週間だけ、<スペシャルメイクアップ>という講座で学びました。もちろん自分が劣っているという自覚はしていました、本当にやっていけるのかという不安は常にあって。もし、ダメだとしても英語は話せるようになるし……という気持ちはありましたが、成功できるという確信はゼロでしたね。
特殊メイクの顔につけるものを作る、ということは一通り自分が独学で経験したことだったので、その学校で学んだものは大したことではなかったのですが、僕は本当に真剣だったから、昼間のクラスを履修すると、夜のクラスも無料で受けられるということで、毎日朝から晩までずっと学校にいて、モデルを探してメイクの練習していました。学校側からも真面目な生徒だと思ってもらえて、アルバイトの話をもらえるようになったんです。
ハロウィンのお店で、お客さんに傷のようなメイクをするアルバイトがあったんです。そこのレジ係の方が、なんと「ガイバー」(高屋良樹氏の漫画作品『強殖装甲ガイバー』が原作の日米合作映画)のプロデューサーを知っていると。監督は、ハリウッドの特殊メイクの世界で活躍されていた日本人のスクリーミング・マッド・ジョージとスティーブ・ワン。1991年でしたね。それがきっかけでプロデューサーに連絡して、ポートフォリオを見てもらったらすごく気に入ってくれて。まだ19歳でしたから、超ラッキーでした。
そうですね。最初は無給が条件でしたが、それでもやりますと。最初から映画の現場に入れたので、もう喜びしかないです。だから、一番働いたんです。とにかく何かを任されるようになりたいって思って。ちゃんと給料をもらってるアメリカ人たちは定時に帰るんだけど、僕は必ず残って何か必要があればやったし。金もなかったし、帰っても寝る以外にやること無いから(笑)。だからずっと職場に入り浸りで、役に立ちたいっていう気持ちが良かったのか、3カ月のその仕事が終わったら、こんなに働いてくれてお金を払わないわけにはいかない、と。それからお金をもらえるようになったんです。

ネックはビザでしたね。ビザさえあれば仕事もらえるのにっていう案件がいくつかあって、悔しい思いをしたこともあります。でも、アメリカの永住権がクジで当たるグリーンカード抽選プログラムが始まって、1人1通の応募で1発で当選したんです。それが20歳の時で、これでもう堂々と仕事できるって安心しました。グリーンカードを取得して最初の仕事が「ガイバー2」でした。
僕が渡米した当時は、特殊メイク業界自体が新しくて、ハリウッドは他ではできないことを最先端でやっていました。今まで誰もやったことないことを作り上げてきたという自信はありますね。今はシリコンが当たり前のように使われていますが、当時は素材として普及していなかったし、出てきたときにどうやって使うのか? どうやって色を付けるのか? って自分で試行錯誤してやってみるしかない。だから、何でも教わらないとできない、なんて聞くと、何甘いこと言ってるんだ? なんて思っちゃいます。
順風満帆ではないですね。98年ぐらいだったかな、キャリア7年くらいたった時に、伸びが感じられなくて、行き詰まったことがありました。それをブレイクスルーしたときに、ちょうど「A.I.」の話がきて。スタン・ウィンストンスタジオという憧れていた工房の一つで仕事ができることになって。そういう時って運命的なことが起こるんだなあと思いました。

「ジュラシック・パーク」が93年に公開されて、仕事仲間と見に行ってものすごい衝撃を受けましたね。徐々に作られたんじゃなくて、今までなかったものが登場した。もう「なんだこれは!」という驚きで、そこからCGを始める人は多くなりましたが、僕はそれほどやる気にはならなくて。90年代は転換期で、僕たちが作ったものすごく出来のいいものがしょうもないCGに変わってしまうっていう時期で。
でも、ハリウッドのすごいところは、やはり新しい技術に敢えてお金をかけて使うところ。今見返してもわかりますが、90年代のCGはひどかったんです。だから、ギレルモ・デル・トロ監督などCGを毛嫌いする監督もいます。要は、アーティストがいなかった。技術がある程度あっても、アーティストがいないので、僕も人に教えたりする中で、CGの人たちが、「自分たちはコンピューターを使えるから今これをやっているけど、君たちみたいなアーティストがCGをやりだしたら、仕事がなくなるからめちゃくちゃ怖い」って言っていました。一方でアーティストも、CGの必要性を感じてきて、ソフトも使いやすくなってきたので、デジタルに移行する人も出てきましたね。「スピーシーズ」や「エイリアン」シリーズなんかはパペット時代の方が良かったけれど、今はもう本当にすごいレベルのものがCGで出てきています。

僕もデジタルに行った時期があったんです。2009年にZBrushというモデリングのソフトを使ってみました。監督、脚本家、俳優組合のストライキが一度に重なる時期があって、そうなると全てのプロダクションが止まってしまうんです。それで仕事がゼロになったときに、これはやばいんじゃないかと思ってZBrushを使ってみたら、正直面白いんです(笑)。造形ができたらいいものはできるので、それなりに形にはなるのですが、技術的な行き詰まりを感じて、それを調べたりしているうちに、ふと、自分は20年のキャリアがあるのに、モデラーやデザイナーになりたいのか?と我に返ったんです。このままCGに移ったとしても、今までやったことをただCGに置き換えていくだけになるって。それで、自分が一番やりたい映画監督業に注力できるように、現在はアナログでの仕事と、「彫刻セミナー」を並行しています。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」の人魚と「キャビン」の半魚人は彫刻だけではなく、色も素材も何から何まで完全に自分のスーパーバイズで任されたので、とても思い入れがあります。

具体的に言うと、2体のナヴィ族のCGのモデルをプリントアウトしたものを粘土に起こして、CG担当者向けの見本を作る仕事でした。実は、最初の「アバター」の仕事を断ってしまっていたんです。それは人生最悪の選択ミスでしたね……。いろんな事情があって他の仕事を取りましたが、映画見てから後悔しましたよ。今回は「マンダロリアン」をやっていたら、ちょっと明日からこっち(「アバターWOW」)もやってくれ、みたいな感じで声をかけてもらいました。

サム・ライミ監督の幻の「スパイダーマン4」の企画があったんです。ジョン・マルコビッチがヴァルチャーを演じる予定で、そのデザインに携わっていて。そのヴァルチャーを見たライミ監督が「機械の羽が飛ぶっていうイメージが分からなかったけど、これでできるって確信が持てた、ありがとう」って大喜びしてくれたのはうれしかったですね。映画はキャンセルになってしまったのが残念ですね。
これをすればできるよ、という具体的なことは一つもありませんが、まずはやってみること。常に考えて工夫すること。実際、動いて行動すると、当然できるようになってくるし、“できるようになる能力”が付いてくる。だから、いざ違う仕事を選んだとしても、その能力でいろんなことができるようになります。うじうじ諦めないで、とにかく1年でもいいし、もう下手したら1カ月だけでもいいから何か集中してやってみてください。やらなきゃ分からない事ばっかりだから。動くことがもう何より大切だとお伝えしたいですね。

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(C)2016 GEHENNA FILM COMPANY, LLC.
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