劇場公開日 2022年5月20日

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ハケンアニメ! : インタビュー

2022年5月11日更新

吉岡里帆中村倫也を変えた“出会い”とは? 愛すべき監督・吉野耕平への信頼も明かす

初タッグとなった吉岡里帆&中村倫也
初タッグとなった吉岡里帆&中村倫也

「今、おすすめの映画ってある?」

職業柄、1年を通して、何度も投げかけられる質問だ。その度、まずは考える。質問者は、いわゆるライト層(年間に1、2本の鑑賞)なのか。はたまたミドル層(年間6~11本)、もしくはヘビー層(年間12本以上)なのか。組する“層”によっては、答えを変えなければならない。毎回悩み抜いた挙句、とっておきの1本を差し出すことになる。

だが“今”であれば、即答することができる。

ライト層、ミドル層、そしてヘビー層にもおすすめできる……いや“届けたい”作品。

それが「ハケンアニメ!」だ。

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直木賞作家・辻村深月氏の人気小説を実写映画化した本作は、アニメ業界で“最も成功したアニメ”の称号「ハケン(覇権)」を手にするべく奮闘する人々を描いた作品。アニメ業界を舞台としているが、クリエイターは勿論のこと、「自分の思いを“届ける”」という要素が、多くの人々の心に響くはずだ。

徹底したリサーチを行った製作陣の姿勢には、原作者の辻村氏も心打たれ、自ら劇中アニメ2本分(各12話)のプロットを提供している。「とても“愛”を感じる現場」と評した辻村氏。企画立ち上げから7年の歳月を経て、「ハケンアニメ!」は遂に日の目を見ることになった。

物語の中心を担うのは、新人監督の斎藤瞳とスター監督・王子千晴。

アニメ界の頂点を目指して奮闘する2人を演じるのが、吉岡里帆中村倫也だ。

初タッグとなった両者は、互いに何を感じ取り、劇中で火花を散らしたのだろうか。時に笑いを交えた2人の対話は、忘れ難き“出会い”を経由して、物語を先導した吉野耕平監督への信頼に結びついていった。(取材・文/編集部 岡田寛司、写真/間庭裕基)


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――本作が、お二人にとって初共演の場となりました。その後「劇団☆新感線」による舞台「狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり)」でも共演されていますが、そもそも“初対面”となる以前、お互いにどのような印象を抱いていましたか?

吉岡:共演させていただく前は「つかみどころのない方」というイメージでした。実際にお会いしたら、とてもギャップのある方なんだろうなぁと思っていました。

――実際に対面を果たした際はどうでしたか?

吉岡:(ギャップは)ありました。話せば話すほど面白くて、普通に話を聞いているだけでも少し変な部分もあって……そんなところに笑ってしまうんです(笑)。でも、映画の撮影中は、お会いする時間が少なかったんです。

――実は、面と向かって芝居をするというシーンが少ないんですよね。

吉岡:そうなんです。でも、共演している時は、中村さんと王子のシンクロ率がとても高く見えました。中村さん自身も王子みたいな人なのかなと思うほどでした。

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――中村さんは、いかがでしょうか?

中村:京都で演劇にのめり込み、東京にやってきて、その後大ブレイク。そんな経緯を知っていたので、根性というか、雑草魂のようなものはあるんだろうなと思っていました。

――実際にお会いしてみて、そのイメージ通りでしたか?

中村:えぇ。負けん気も強いですし、小さな体に秘めたパワーは“ゴリラ3匹分”くらい。それ程のエネルギーがある。

吉岡:ちょっと(笑)! それなら、中村さんはウサギさんっぽさがありますよ。ぴょんぴょんと跳ねているイメージ。

中村:(そんな事を)キツネさんに言われてしまうとは……。

吉岡:(笑)

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――(笑)。吉岡さんは役作りの一環として、「魔女見習いを探して」でデビューした鎌谷悠監督の指導を受けています。斎藤瞳とは「女性監督」「初監督作品への挑戦」という点にも共通事項がありました。現場取材でお話をお聞きした時は、ペンタブの操作、コンテの描き方だけでなく、仕事をする際の心構え「強い意志と折れない心」というものを教わったと仰っていましたよね。具体的なエピソードをお聞きしながら、その大切さを学んでいったのでしょうか?

吉岡:斎藤瞳と同様に、鎌谷監督も“若い女性監督”です。現場のスタッフさん、例えば作画、効果、美術の方々に「自分の意見を通すためには、どう話せばいいのか」ということを常に考えていると仰っていました。悩みどころは、そこになるんだなと思ったんです。

――その“悩み”というものは、本編でもしっかり描かれていますよね。中村さんは王子千晴を演じることについて、オフィシャルインタビューでは「光栄でした。こういう作り手側の感情の発露ができるキャラクターってそう居ないので、ちょっと魂乗っちゃいましたねえ」と仰っています。劇中において、特に“魂が乗った”というシーンはございますか?

中村:王子のセリフに関していえば「(作品を)放送した時点で俺のものじゃない。観たその人だけのものでいいよ」という部分。この言葉には、とても近い感覚を抱きましたね。それに原作、脚本を読んでいる段階で、瞳、王子、行城(柄本佑)、有科(尾野真千子)の言っていることが「わかる」と感じていたんです。演じているのは王子ですが、作品全体を見てみると、色々な種類の“熱”がある。そのどれもが知っている感情でしたし、シンパシーを感じていました。

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――斎藤瞳は、王子千晴の代表作となった「光のヨスガ」に出合ったことで、地方公務員を辞め、アニメ業界へと足を踏み入れます。つまり「フィクションには、リアルを変える力がある」という点も示されていました。これまでに「自分を変えることになった作品、作り手との出会い」というものはありましたか?

吉岡:「見えない目撃者」に参加させていただいた時、照明部に藤井勇さんという方がいらっしゃいました。藤井さんとの仕事は、私にとって、かなりの“衝撃”だったんです。

――藤井勇さんは、沖田修一監督作(「横道世之介」「モリのいる場所」「おらおらでひとりいぐも」)、呉美保監督作(「そこのみにて光輝く」「きみはいい子」)、是枝裕和監督作「万引き家族」、近作では「ちょっと思い出しただけ」(松居大悟監督)、「ケイコ 目を澄ませて」(三宅唱監督)に参加されていますね。

吉岡:「そこまで粘るのか……!」と思ってしまうほど、ご自身の仕事にこだわりを持っている方なんです。お客さんをドキドキさせる瞬間を、照明で作ることができる――藤井さんの熱量と細やかさ、完成作を見た時「照明の力で本当に空気感が変わっている」と感じたことを、今でも憶えています。

私の仕事は、ひとりでは何もできない仕事だと思っています。藤井さんには「丹精を込めて生み出したものを、作品の一部として提供した時、必ず光が見える」ということを教えてもらいました。周囲に「もういいよ」と言われても、納得がいくまで表現を追求する。その姿が格好良かったんです。第一線で活躍され、既に認められている方々が「ここまで徹底的にやるのか」という瞬間を、色々な現場で見ることがあります。その度に「こんな風になりたい」と思っています。

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――まさに「ハケンアニメ!」でも、同様のことが描かれています。各部署が力を発揮し、作品のために一丸となる。普段、表舞台には出てこない方々に対して、改めて敬意を表したくなりました。中村さんはいかがでしょうか?

中村:自分自身を変えたという作品は……。それこそ自分自身というのは、常に変化をし続けているわけじゃないですか。作品を見てみたら、その時に演じた役と結びつきが強かったなという作品はありましたね。

――どのような作品でしょう?

中村:「レンアイ漫画家」です。

吉岡:いや、それ、私の作品……中村さんは出ていません(笑)。

――では「ご自身が出演された作品」に限定しましょう(笑)。

中村:あ、自分が関わった作品ですか……。それはいっぱいありますよ! まず蜷川幸雄さんとの出会いです。

吉岡:本当にうらやましい……。

中村:それが20歳の時でした。そして「真心一座 身も心も 流れ姉妹」で小劇場に入れさせていただき、そこで色々な出会いがありました。「ロッキー・ホラー・ショー」では「理屈じゃないんだ」ということを知り、役者を辞めようかなと思っていた頃に取り組んだ「ヒストリーボーイズ」で「まだ全く違う“扉”がある」ということに気づかせてもらった。その間にも紆余曲折、七転八倒があり、出会いや別れ、本当に色々なことがあったんです。この作品名をあげたら、こっちもあげないと……となってしまいます。本当に数えきれないほど。結局、演劇ばかりになってしまいますね。

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――影響を受けた核となっているのは「演劇」。これは、何故なんでしょうか?

中村:今や何かを作るために「稽古をする」のは、演劇だけなんですよね。ひとつのものを作り上げていく作業。それを共有していく時間。そんな事を考えると、どうしても演劇への思い入れが強く出てしまう。思い出の数も増えますよね。それに表現の種類が多い。めちゃくちゃな事もできますしね。

――吉岡さんも、この感覚はおわかりになりますか?

吉岡:えぇ、そうですね。

中村:(映画.comのロゴマークをじっと眺めた後)あ……ダメだ。

吉岡:え?

中村:映画.comの取材で、演劇の事ばっかり話していちゃダメですよね……。

――全く問題ないですよ(笑)。

吉岡:ここはあえて話しましょうよ(笑)。実は私も演劇でご一緒した時にわかった事の方が、めちゃくちゃ多いんです。

中村:(小声で)映画の事を話して……!

吉岡:(一休さんがとんちをひねり出すポーズを経て)えっと、映画の時はですね。

中村:出た! 一休さんがとんちをひねりだした! 流石!

一同:爆笑

吉岡:映画に参加している時は、皆さんと交流できる時間が限られているので、瞬発力を求められます。最初にお会いした時のイメージ、実際に(撮影現場で)対面した時の感覚だけでやっていく。第六感みたいなものを信じて、芝居をしていきます。こういうタイプの人ではないのかもしれないけれど、そういう人だと思い込む。もちろん、相手もそういう形で接してくれる。これが不思議ですよね。(中村=王子には)“色っぽさ”というものを感じていました。瞳にとっての生涯における“憧れの人”として見なければいけませんから。一瞬一瞬で生まれる“生っぽさ”というものを、私は信じています。これが、映画に参加している時に好きな部分です。

中村:(拍手)素晴らしい……助かりました。

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――(笑)。では、話題を「ハケンアニメ!」に戻しましょう。最後に、吉野耕平監督について、しっかりとお話をうかがっておきたいと思っています。中村さんは、吉野監督の面白さについて「発想力」と仰られています。それは、どのような部分に感じますか?

中村:まずは画のイメージにオリジナリティがあるという点です。そして「CGクリエイター」という経験値からくる、アニメーションと実写の融合。具体的なリズム、テンポ、角度、高度……ここまで頭の中で、きちんとイメージができている人は、なかなかいないと思うんです。加えて言うならば、色彩感覚。「北野ブルー」(北野武監督作品の特徴でもある青みがかった色彩)という言葉がありますよね。いつかは「吉野○○」という言葉もできるんじゃないかな。それほど面白いものを作る監督です。

水曜日が消えた」でご一緒した時は、初の長編映画でしたし、脳内のイメージを他人に伝えたり、それを成立させるためにどう動いてほしいのかというディレクションの部分で悩んでいることが多かったようです。「ハケンアニメ!」は、吉野監督の意図をきちんと汲んでくれる方も多かったですし、「伝える」という面も上手くいっていた。これからは、もっとそういう面が上手くなっていくんじゃないかなと思いました。

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――吉岡さんは、吉野監督とのタッグはいかがでしたか?

吉岡:ご一緒させていただいて感じたのは、頑固な方だということ。そこにすごく惹かれました。現場では物静かなんです。本読みの時もあまり発言されませんでしたし、「演出について、きちんと言ってくださるのかな……」と不安になるくらい(笑)。でも、現場に行ってみると、物凄く細かいところまで決めていらっしゃいました。「絶対にこれがいい!」という感じのディレクションだったんです。ここだけは絶対に譲らない――そんな姿勢だったからこそ、この人にはついていけると感じました。「そこまで譲らないなら、ついていきますよ!」という感じです(笑)。

中村:(笑)。吉野監督には「ここはこうなんだ!」というポイントがあるんです。俳優陣がスルーしてしまっているポイントに、彼なりのこだわりがあったりする。だからこそ、僕たちも「そんなに言うのであれば、やってみるね」となるんです(笑)。

吉岡:「僕はこういう作品を作ります」という提示が明確でしたから、私も吉野監督の演出に従おうと思いました。吉野監督が思い描いている人物像を体現したい。そう思ったんです。

中村:吉野監督は変わっていますから。それはつまり、吉野監督の“リアル”が変わっているということです。その“リアル”を見た時に、受け取った人たちがきちんと楽しめるのか――ここの誤差はたまにある。吉野監督は“リアル”だと思っているけど、一般的にはそうではないということもあるから(笑)。本当に愛すべきというか……。

吉岡:そうですね。本当に愛すべき監督です。

中村:言い表し方がとても難しいんですが……すごくピュアで才能や能力もある「小学5年生」。彼には、そういうところがあるんです。

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