コラム:どうなってるの?中国映画市場 - 第11回

2020年1月21日更新

どうなってるの?中国映画市場
6、ハリウッド映画の迷走
「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」
「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」

ハリウッド映画の成績はどうだったでしょうか? 「アベンジャーズ エンドゲーム」は公開2日間で10億4500万元(172億7000万円)、最終興収42億3000万元(655億7000万円)というとてつもない成績を残しました。しかし「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」(1億4300万元:22億3000万円)をはじめ、日本では大ヒットした「アラジン」(3億6800万元:57億4000万円)、「ターミネーター ニュー・フェイト」(3億5500万元:55億4000万円)、エリザベス・バンクス監督版の「チャーリーズ・エンジェル」(7600万元:11億9000万円)、中国国内で人気のあるアン・リー監督の新作「ジェミニマン」(2億3500万元:36億7000万円)は、期待外れの興行成績でした。

19年の映画市場占有率を見てみると、外国映画の割合は35.9%。確かに外国映画の上映本数は限られていますが、10年前の市場占有率の方が上(56.4%)なんです。「スター・ウォーズ」といった昔から続く人気シリーズは、市場形成の遅かった中国では、受け入れられにくいですし、ディズニー・アニメでさえも、中国での成績はそれほど優れたものではありません。どうやって中国の観客を獲得でしていくのか――ハリウッドのエリートたちにとって、大きな課題になっているはずです。

7、大胆な宣伝戦略でアート映画がヒット
「グリーンブック」
「グリーンブック」

新鮮かつ大胆な宣伝戦略によって、興行成績とは無縁のアート映画が、大ヒットへと導かれました。特筆すべきは「存在のない子供たち」「グリーンブック」です。3億7400万元(56億8000万円)を稼ぎ出した「存在のない子供」に関しては、上半期の総括で触れたので、ここでは省略します。今回は「グリーンブック」についてお話しましょう。 第91回アカデミー賞作品賞ほか全3部門を制しましたが、中国の興行成績を調べてみると、“オスカー受賞”という経歴はそれほど興行成績に影響を与えないということがわかりました。では、何故「グリーンブック」は当たったのでしょうか?

「わかりやすく共感できる内容」「口コミで絶賛された」という前提はありますが、興収4億7800万元(76億円)となったのは、ユニークな宣伝戦略のおかげと言われています。映画をご覧になった方はご存知だと思いますが、劇中に「ケンタッキー」が登場しますよね。あまり知られていませんが、中国のファーストフード業界では、ケンタッキーがマクドナルドよりも人気&知名度が上なんです。宣伝サイドは、中国人であれば誰もが知っているケンタッキーを上手く利用し、結果を出しました。具体例としては、微博(ウェイボー)に作った「『グリーンブック』を見たら、ケンタッキーを食べたくなりました」というキーワードが話題となり、1週間も経たず、PV数が4億回に到達。長時間のトレンド入りを果たしたんです。「存在のない子供たち」「グリーンブック」の成功によって、アート映画の可能性が見えました。映画宣伝のシステムにも、大きく影響を及ぼしていくでしょう。

8、日本映画はアニメ好調、実写は苦戦
「祈りの幕が下りる時」
「祈りの幕が下りる時」

日本映画の上映本数は、24本。内訳は、アニメ作品が17本、実写作品が7本――この数字も歴代最多です。日本映画の興収1位は、4億8800万元(75億6000万円)の「千と千尋の神隠し」。18年に上映された「となりのトトロ」(1億7368万元:27億6000万円)に続き、ジブリの実力を感じました。一方、実写作品は苦戦続き……。興収ランキング(日本映画に限定)のベスト15には、第7位に「祈りの幕が下りる時」(6700万元:10億4000万円)が入っただけ。実写映画は、どのように中国映画市場で道を切り拓いていけばいいのか――日本の映画会社は、もっともっと海外向け宣伝プロモーションの戦略を練らなければならないはずです。

9、旧作上映の可能性
「海の上のピアニスト」
「海の上のピアニスト」

天気の子」(2億8800万元:44億6000万円)を大差で抜き去った「千と千尋の神隠し」は、01年の日本公開から18年越しに公開されました。しかも、大半の人は海賊版を見たうえで「もう一度スクリーンで見たい」という気持ちで劇場へ行っています。旧作だとしても、その魅力を再び劇場で体感したいと考える人は、数百万人はいるはずです! 11月には、ジュゼッペ・トルナトーレ監督作「海の上のピアニスト」も上映されたんですが、反響が非常に良く、興収も1億4300万元(22億3000万円)。この数字は「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」を超えるものですね。ジブリ作品はもちろん、今まで上映されなかった作品は、旧作上映という形によって、中国の観客と出合うのかもしれません。映画ファンには嬉しいことですし、ビジネスとしても成り立つのでは?

10、ECサイトの生配信で映画チケットを売ります!
「The Wild Goose Lake」
「The Wild Goose Lake」

インターネットの時代に突入した中国。各映画会社は「インターネットを駆使して、どのように映画を宣伝するか」という課題に直面しています。ウェブメディア、微博(ウェイボー)、tiktok――19年は、新たな宣伝方法が試されました。ECサイトが強い中国では、生中継で“モノ”を売るという手法が目立ち始めています。つまり「ライブコマース」です。でも、まさか映画チケットにまで手を出すとは……。

薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督が、第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品された新作「The Wild Goose Lake(英題)」を発表しました。ただし、アート映画というイメージが強いため、誰もが「どのように宣伝すればいいのか」と悩んでいたようです。そこで、人気ECサイト「TAOBAO」とのコラボを企画。主演のフー・ゴーが、生中継で映画を解説しながらチケットを売るという奇想天外なことをしました。結果はどうなったか。開始6秒で、チケット25万枚が瞬殺。しかもチケット収入に加えて、映画自体への注目度も高まったんです。このような企画への疑問や批判はありますが、結果は大成功でしたし、今後の動向にも注目したいと思っています。

筆者紹介

徐昊辰のコラム

徐昊辰(じょ・こうしん)。1988年中国・上海生まれ。07年来日、立命館大学卒業。08年より中国の映画専門誌「看電影」「電影世界」、ポータルサイト「SINA」「SOHA」で日本映画の批評と産業分析、16年には北京電影学院に論文「ゼロ年代の日本映画~平穏な変革」を発表。11年以降、東京国際映画祭などで是枝裕和、黒沢清、役所広司、川村元気などの日本の映画人を取材。中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数は280万人。日本映画プロフェッショナル大賞選考委員、微博公認・映画ライター&年間大賞選考委員、WEB番組「活弁シネマ倶楽部」の企画・プロデューサーを務める。

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