コラム:下から目線のハリウッド - 第44回
2024年5月7日更新
映画からTVまで!? めくるめく「リメイク」の世界
「沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。
今回は、「リメイク映画」について語っていきます!
久保田:気になっていることがあるんですけど。
三谷:なんでしょう?
久保田:日本でヒットした映画とかドラマが、海外でリメイクされる時、無許可で丸パクリしているものってあったりするのかな。
三谷:さすがにこの時代なので、無許可で丸パクリというのはないと思います(笑)。
久保田:パクッたら、それは何の侵害になるんですか?
三谷:著作権の侵害になると思います。なので、オリジナルの作品の権利元、元のフォーマットのテレビ番組やドラマを製作しているところに許諾交渉をして、ライツの交渉をするのが一般的だと思いますね。お金を払って、リメイクする権利などを許諾してもらう。それに対してある程度の期間、制作と放映をする、という感じですね。
久保田:なるほどね。
三谷:日本の作品を海外でやる場合は、大きくふたつに分けられます。ひとつは、ドラマやコメディのように脚本がある(これを「スクリプテッド scripted」といいます)もの。もうひとつは、バラエティのように脚本がない(これも「アンスクリプテッド unscripted」といいます)ものの2種類です。たとえば、海外で展開されている日本のドラマで、芦田愛菜さんが出演していた「Mother」(2010)というドラマがあったんですけれど、このドラマ、トルコでリメイクされています。
久保田:そうなんだ!
三谷:トルコでもすごく評判が良かったそうで、さらに、韓国やスペインなど世界各国でリメイクされてるんですよ。そんな感じで、ひとつの番組やドラマが、他の国のいろんなところに許諾されていくこともあったりします。
久保田:そういう権利周りのことを専門にやってる会社とかあるのかな。
三谷:そうですね。それ自体をビジネスにしている会社もあります。基本的には、ある特定の言語に対して、その国での実写映像化権、リメイク権をやり取りする。そのあと、一定の期間のうちに脚本開発、製作、公開とすすめて、それを利用して売上が発生したら、利益から一定の金額を権利元にも払う、みたいなやり取りの契約が成立する、という感じですね。
久保田:ほかにも日本の番組で世界に出てるものってあるの?
三谷:脚本がないものでいうと、たとえば「SASUKE」って、いろいろな国でリメイクされているんですよ。誰が一番運動神経がいいのかを競うって、すごく根源的で日本以外でも通用するフォーマットですからね。
久保田:世界中にミスター・サスケこと山田勝己さんみたいな人がいるんだろうね。
三谷:そうですね(笑)。
久保田:山田勝己さんみたいな人も、そのフォーマットに入ってるんですか?
三谷:そこは入ってないと思います(笑)。要は、「いろんな仕掛けのあるコースで、運動神経や身体能力を競う大会」という形でフォーマットを売って許諾して、ということですね。
久保田:フォーマットに入っててほしいけどなぁ(笑)。
三谷:あとは、起業家たちが自分たちに出資してくれる方の前でプレゼンをして、鬼のように詰められる「¥マネーの虎」。あれも英語圏で「Shark Tank」という名前でリメイクされています。
久保田:懐かしいね。めちゃめちゃ見てたなぁ。
三谷:逆に、海外のフォーマットを日本で展開することもあります。たとえば、みのもんたさんがMCを務めていた「クイズ$ミリオネア」は、イギリスの「Who Wants to Be a Millionaire?」という番組が元になっています。(編集部追記:映画「スラムドッグ$ミリオネア」の元ネタもこの番組です)
久保田:あの番組で恒例だったのが、みのさんがタメにタメてから正解を言うくだりがあったじゃないですか。あれは本家もそうなのかな?
三谷:あれは本家にもあったそうです。
久保田:みのさんのオリジナルじゃないんだ! じゃあ、あれもフォーマットとして明文化されてるかもしれないね。
三谷:ある程度は定義しないといけないはずなので、そうかもしれないですね。でも、契約書の中に「正解は5秒以上ためてから言う」とか書いてあったら、ちょっと興ざめな感じしますよね(笑)。
久保田:そこはほら、表に出てこないから。
三谷:で、当然映画でもリメイクは常に起きていまして。
久保田:たくさんあるでしょう。
三谷:たとえば、「キング・コング」。1933年に公開されたものが2005年にリメイクされています。
三谷:また「ゴジラ」もある意味ではそういう側面はあるのかな。1998年にはハリウッドで「GODZILLA ゴジラ(1998)」が製作され、その後、モンスターバースシリーズとして、2014年から5作つくられています。そういった意味ではリメイクというのは時を越えて、時代に合わせて作られ直すんですよね。
久保田:リメイクってなんでやられていくんですかね?
三谷:なぜリメイクするのかというのは、大きくふたつ理由があります。ひとつは、異なる文化圏でも同じ構造で作れるから。たとえば、家同士が争っていて、互いの家の男女が禁断の恋に落ちる映画「ロミオとジュリエット」は、異なる文化圏でも作りやすいのでリメイクされやすいですよね。
久保田:あー。たしかに。
三谷:もうひとつは、今の時代に合わせて今のお客さんに見せられるような形でリメイクするという側面があります。
久保田:「カメラを止めるな!」のリメイクもフランスでされているらしいね。タイトルが「キャメラを止めるな!」っていう。
三谷:「カメラ」を「キャメラ」にするっていう差別化はちょっと面白いですね(笑)。なので、邦画が海外でリメイクされることもあったりします。たとえば、1996年の周防正行監督「Shall we ダンス?」は、「Shall We Dance?」として2004年にアメリカでリメイクされています。
久保田:マジですか。
三谷:あとは、忠犬ハチ公の生涯を描いた「HACHI 約束の犬」(2009年)は、日本映画「ハチ公物語」(1987年)のリメイクですね。あとは、もう20年近く前ですけれどJホラーの「呪怨」や「リング」などのリメイクもありましたよね。
久保田:ありましたねー。日本の映画をそのまま上映するんじゃダメなんですかね?
三谷:やっぱり言語の壁や文化の壁とかがあったりするので、リメイクという形になるんですね。
久保田:たとえば「リング」とかって、海外の人が日本版を観たら怖くないと思う?
三谷:怖いと思いますよ。
久保田:絶対怖いよね。
三谷:なので、そこはちょっと不思議なんですよね。「でも、日本のじゃダメだ」って言ってリメイクするわけで。
久保田:オリジナルというかフォーマットは使うけど、やっぱり「オレたちがつくるんだ!」っていう気持ちが強いのかな?
三谷:それもあるとは思います。たとえば、「インファナル・アフェア」という香港映画をリメイクした「ディパーテッド」という作品があるんですけれど、この場合はどちらも成功していますね。
久保田:そうなってくれるとリメイクした甲斐があったってことになるよね。
三谷:そうですね。でも、オリジナルの完成度がものすごく高い作品がリメイクされるっていうときには、いち観客としては「わざわざやる必要あるのかなぁ」と思うこともあります。それで実際に、リメイクのほうの結果が奮わなかったりすることもあるので。
久保田:ビジネス的にリメイクに魅力を感じるのって、やっぱり打率なのかな。「確実に当てたい!」みたいな。
三谷:すでにある程度の認知を獲得しているという意味での打率の高さというのは、商業的な理由としてあると思います。
久保田:お金を出す側としても、そこの確度があるほうがやっぱり魅力的には見えるだろうしね。あと、リメイクとしてありそうなところだと、映像技術の向上とかでリメイクってパターンもあるのかな?
三谷:それはありますね。それこそ、「キング・コング」はそういった側面もあると思います。初代の1933年版は、着ぐるみ的な世界観だったわけですけれど、VFXによって、より迫力のある形にできたと思うので。
久保田:なるほどなー。
三谷:技術の問題で映像化のクオリティが及ばなかった場合、技術の発展でその部分をより良い形にできるのであれば、リメイクの意義はありますよね。ただ、リメイク作品ばかりになると、大局的に考えると、そのぶんオリジナル作品が出てきにくくなってしまうという側面もあるんですよね。
久保田:初めてその作品に触れる人はいいかもしれないけれど、ある程度自分の年齢が高くなっていくと、「あ、これ昔やってたやつじゃん」っていうのもありそうだよね。
三谷:そうなんですよ。だから、リメイク物ばかりになってしまうと、お客さん側が飽きてしまう、なんてことも起こり得ますよね。
久保田:それで言うと、続編や新シリーズっていう形はありなのかもって、「トップガン マーヴェリック」を観たあとに思ったなぁ。
三谷:主人公の男の子たちが大人になって、今度は先生という立場になって子供たちを教えていくみたいな形ですからね。オリジナルが良かった、且つ、時の経過が自然な形で次の作品に接続するような場合、それはアリですよね。
久保田:そう。単純にリメイクだと、結論は見えちゃっているから、消費早いんじゃないかなって思う。
三谷:たしかに。聖書に「日の下に新しいものはない」という言葉があって、「この世にあることというのは、過去にもあったし、これからもあるだろう」という意味なんですけれど、でも、その中でも、何かしらの「新しさ」を見つけて、ちょっとでも文化に爪痕を残せたらいいなというのはありますよね。
久保田:そうだね。ただ、消費する側の素人からすると面白ければなんでもいいんじゃないっていうのも思う(笑)。
三谷:そうですね(笑)。
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※このコラムの元になった音声はPodcast『下から目線のハリウッド』で配信中です。
筆者紹介
三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。
Twitter:@shitahari