コラム:佐藤久理子 パリは萌えているか - 第13回

佐藤久理子 パリは萌えているか

2012年フランス映画界総ざらい そして来年の期待作は?

2012年も残りわずかとなり、さまざまな賞レースの話題が聞こえているが、ヨーロッパに関して言えば、今年のカンヌでパルムドールに輝いたミヒャエル・ハネケ監督作「愛、アムール」の一人勝ちといった印象が強い。ヨーロッパのアカデミー賞と言われるヨーロピアン・フィルム・アワードでは、作品賞、監督賞、最優秀男優賞(ジャン=ルイ・トランティニャン)、最優秀女優賞(エマニュエル・リバ)の4冠に輝いた。これに続いて評価の高いのがトマス・ビンターベアの「偽りなき者」、スティーブ・マックイーンの「SHAME シェイム」、トーマス・アルフレッドソンの「裏切りのサーカス」、タビアーニ兄弟の「塀の中のジュリアス・シーザー」あたり。

フランス映画界では、一昨年に公開されて社会現象を巻き起こした「最強のふたり」のようなお化けヒットはなかったものの、相変わらず有名なコミックの映画化や大衆的なコメディが強かった(ほとんど日本には輸入されないような作品だ)。そんな風潮のなかで頑張ったのが、やはり今年のカンヌに出品されたジャック・オーディアールの「君と歩く世界」。主演のマリオン・コティヤール人気のせいもあり、事故でハンディキャップを負う女性のタフなドラマにもかかわらず186万人の動員を記録した。日本では現在公開中の、ブノワ・ジャコーの「マリー・アントワネットに別れをつげて」も、54万人を動員しヒット。数字では遠く及ばないが、レオス・カラックスの「ホーリー・モーターズ」(12万3000人)や、アラン・レネの「Vous n’avez encore rien vu」(11万2000人)も評価が高く、彼らのフィルモグラフィのなかではかなりの健闘と言える。

フランス製アニメの人気もこのところうなぎ上りだ。フランスはアメリカ、日本に次いで世界で第3位のアニメ制作国である。代表的なものといえば、「キリクと魔女」や「ベルヴィル・ランデブー」が思い出されるが、今年は140万人を動員した「Zarafa」をはじめ、ジャン・レノが声優を担当して話題になった「Le jour des Corneilles」や、パトリス・ルコントの「Le magasin des suicides」もヒットを飛ばした。さらに冬休みに合わせて公開になったばかりの「アーネストとセレスティーヌ」(今年のフランス映画祭で上映された)も、初日の成績では封切り作品のベスト2に食い込み、ロングラン・ヒットしそうな気配である。

フランスのアニメはアメリカのそれに比べると、デッサンが柔らかくミニマルだ。表情も多彩でナチュラルであり、人工的な感じがしない。「アーネストとセレスティーヌ」はその典型で、背景が真っ白で何もないカットすらある。だがそれが逆に詩情を醸し出し、観る者のイマジネーションを喚起する。この点はフランスのアニメーターにとって意図的なものであり、「アメリカのアニメとは違う」という自負を持っているようだ。

さて、2013年のフランス映画の話題作といえば、なんといってもミシェル・ゴンドリーの新作だろう。ボリス・ビアンのカルト小説「日々の泡」を、ロマン・デュリスオドレイ・トトゥで映画化する。ビアンの原作は以前にも映画化されているが(日本でも利重剛が「クロエ」という作品を撮っている)、手作り感覚溢れるゴンドリーの創造性が、果たしてビアンの世界観をどんな風にビジュアル化するのか、考えただけでもわくわくする。

その他、「アーティスト」のジャン・デュジャルダンエリック・ロシャン監督と組むスリラー「Möbius」、セドリック・クラピッシュがニューヨークを舞台にした、「スパニッシュ・アパートメント」「ロシアン・ドールズ」の続編「Casse-tête chinois」、またギョーム・カネがパートナーのマリオン・コティヤールの他、クライブ・オーウェンミラ・クニスらを起用し、アメリカで撮った英語劇「Blood Ties」もある。後者2作は秋の公開予定ではあるものの、おそらくはカンヌを狙っていると思われる。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

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