コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第12回

2008年9月1日更新

編集長コラム 映画は当たってナンボ

第12回:「ポニョ」1本かぶりで健全さを欠く映画市場

今年も夏休みが終わろうとしている。夏休み映画はといえば、「ポニョ」が市場を席巻し、それなりに盛り上がった感があるが、全体の状況はあまり健全とは言えない。参考までに、現時点での夏休み映画の興収上位作品を並べてみよう(題名後のカッコ内は公開日と配給会社)。

1.「崖の上のポニョ」(7月19日・東宝)150億円~
2.「花より男子」(6月28日・東宝)75億円
3.「インディ・ジョーンズ4」(6月21日・パラマウント)57億円
4.「ポケットモンスター」(7月19日・東宝)50億円
(文化通信調べ・数字は一部推定)

5位以下はかなり流動的なので省略するが、結果として「ポニョ」の1本かぶりである。先日、「ポニョ」は観客動員が1000万人を超えたとの発表があったが、最終的に興収150億円は超えそうで、まさに宮崎アニメの面目躍如と言っていい。また、2番手の「花より男子」は予想以上の大健闘。「HERO」(81.5億円)には及ばなかったが、70億円を突破する堂々たる成績。以上、東宝作品が1位と2位、加えて4番手の「ポケモン」も同様に東宝作品。

日本市場の問題点は、東宝以外の邦画がなかなか稼げない点にある。5位以下で、東宝以外の邦画は、松竹の「ゲゲゲの鬼太郎」の13.5億円が一番上位である。評価の高かった「クライマーズ・ハイ」(東映・ギャガ)にしても興収は11億円。この、東宝1人勝ちの状況はなかなか動かない。

画像1

そして、ここに来てさらに問題視されているのが、ハリウッド映画を中心とする洋画陣営の不振である。「インディ・ジョーンズ4」こそ、興収50億円を突破してこの夏の3番手につけたが、当初の配給側の目標は100億円だった。そして、これに次ぐ洋画の2番手は恐らく「ハムナプトラ3」だが、興収は20億円程度に止まる見込み。話題になった「セックス・アンド・ザ・シティ」にしても、10億円を上回るのが精いっぱいである。

最近、ハリウッド映画が不振をかこっている原因は色々考えられるが、その一番目は、映画の内容的に日本市場と相性が悪いという点であろう。

ちなみに、今年の全米興行収入上位10傑は、現在までに下記のようになっている(10万ドル以下の数値は切り捨て)。

1.「ダークナイト」4億9300万ドル
2.「アイアンマン*」3億1700万ドル
3.「インディ・ジョーンズ4」3億1500万ドル
4.「ハンコック*」2億2600万ドル
5.「WALL・E/ウォーリー*」2億1600万ドル
6.「カンフー・パンダ」2億1200万ドル
7.「ホートン/不思議な世界のダレダーレ」1億5400万ドル
8.「セックス・アンド・ザ・シティ」1億5200万ドル
9.「ナルニア国物語」1億4100万ドル
10.「ハルク」1億3400万ドル
(5月1日以降公開作品。*印は日本では未公開)

「アイアンマン」も日本では苦戦するか?
「アイアンマン」も日本では苦戦するか?

このランキング中、まず「ダークナイト」「ハルク」といったアメコミ作品が日本ではパッとしない。9月27日公開の「アイアンマン」にしても、日本では知名度の低いキャラクターなので、苦戦が予想される。かつて「アメコミ映画は日本ではヒットしない」という定説があって、それは「スパイダーマン」で払拭されたかのように喧伝された。しかし、定説は相変わらず生きていて、「スパイダーマン」の方が例外だったと考えるのが妥当である。

また、6位の「カンフー・パンダ」と7位の「ホートン」はファミリー向けのアニメ作品だが、これまた日本ではヒットしないジャンル(アメリカ製アニメ)である。事実、この2作、今夏の日本での興行は厳しい結果に終わっている(ただし、例外はピクサー作品で、5位の「ウォーリー」は日本では次の正月の大ヒット作と目されている)。

思えば、昨年の夏は「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「ハリー・ポッター」の新作があって、その他にも「ダイ・ハード4」や「トランスフォーマー」といったアクション大作があり、ハリウッド映画はかなりの賑わいを見せていた。たまたま今年の夏が、ジャンル的に日本と合わなかったという巡り合わせであれば、まだ納得もできる。しかし「バットマン」はまだまだ続くし、今年1作目がヒットした「アイアンマン」もシリーズ化が決定している。「ハルク」も同様だろう。何年か後に、また悪い巡り合わせはやってくる。何か、対策が必要である。(eiga.com編集長・駒井尚文)

筆者紹介

駒井尚文のコラム

駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。

Twitter:@komainaofumi

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