コラム:細野真宏の試写室日記 - 第81回

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)


第81回 試写室日記 日本新記録が「ジブリ作品」で更新? 「ジブリの法則」と「ジブリの伝説」について

2020年7月8日

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6月最後の週末動員ランキングに続き、新作の大作映画の公開が無かったとは言え、7月の最初の週末動員ランキングでも先週と同様に1位「千と千尋の神隠し」、2位「もののけ姫」、3位「風の谷のナウシカ」とジブリ作品が上位3位を占拠する快進撃を見せています!

特に1位だった「千と千尋の神隠し」については、今回のリバイバル上映の前の時点で興行収入308億円という、未だに誰も超えられない日本記録を打ち立てているのです。

しかも、この先週末だけでも興行収入は1億円近くを稼ぎ出していて、好調な平日の分も含めると、さらに興行収入は上積みされていきます。

ということは、日本の歴代興行収入の記録がさらに更新されることになるのでしょうか?

答えは、基本「YES」でしょう。

今回のリバイバル上映が終わったりしたタイミングで、配給元の東宝がジブリ作品の最新の興行収入を発表すれば、それが日本の歴代興行収入ランキングにも反映されて「新たな記録」が生まれることになります!

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ちなみに、7月5日時点のリバイバル上映における興行収入の累計は「千と千尋の神隠し」が3億1337万3950円、「もののけ姫」が3億128万1400円、「風の谷のナウシカ」が2億7813万6300円となっています。

そうなると、少なくとも日本の歴代興行収入1位は310億円を超えることになるので、今後公開される作品が「日本の歴代興行収入記録」を更新するのが、また難しくなったとも言えますね。

では、今回の「ジブリ作品」のように他の作品もやればいいのでは、と思うかもしれませんが、実はこのビジネスモデルはそんなにハードルが低くはないのです。

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例えば、7月の初週に「ジブリ作品」と同様にブランド力のある「ディズニー作品」も「美女と野獣」「シンデレラ」「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」といった作品のリバイバル上映をしているのですが、ベスト10ランキング入りすらできていない現実があるのです。

このように、今回のリバイバル上映では、いかに「ジブリ作品」(=宮崎駿監督作品?)が日本で深く浸透しているのかが分かる事例にもなりました。

とは言え、いくら日本人が「ジブリ作品」が好きでも「限度」はある、ということも押さえておくことが必要です。

例えば、未だに「ジブリ作品」は日本テレビの金曜ロードショーの「キラーコンテンツ」ですが、これは「ジブリの法則」があって、金曜ロードショーの奥田誠治プロデューサー(現在は松竹に出向)が、試行錯誤の末、「2年に1回放送すると良い視聴率がとれる」ということを見出したのです。

そして、ジブリ作品の鈴木敏夫プロデューサーによると、作品を消費し尽さないように「2年に1回しか放送しない」という原則的なルールができた、とのことです。

つまり、たとえジブリ作品といえども、毎年のようにリバイバル上映をしても観客が今回のように見込めるわけでもないのです。

さらに言えば、「ジブリ作品」は、世界的に受け入れられている「ディズニー作品」とは違って、アメリカでのブランド力は高くなく、アカデミー賞で「長編アニメーション賞」を受賞した「千と千尋の神隠し」でさえ、これまで何度かリバイバル上映されているにも関わらず、アメリカでの興行収入は1375万0644ドル(1ドル=100円とすると13億7506万円規模)という現実があるのです。(以下、金額の規模感を分かりやすく伝えるため「1ドル=100円」とします)

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なお、この事態を鈴木敏夫Pは、「崖の上のポニョ」の公開時では、「要は、アメリカの公開の際に優秀なプロデューサーがいるかどうかが問題」という認識で、「今回はスティーブン・スピルバーグ監督作品の製作を担当しているハリウッドの大物プロデューサー夫妻(フランク・マーシャルキャスリーン・ケネディ)に頼んでいる」とのことでした。

吹替版の声優も、マット・デイモンケイト・ブランシェットリーアム・ニーソンなど豪華俳優陣を揃えましたが、再上映も含めて1574万3471ドル(15億7434万円規模)と、「千と千尋の神隠し」より少しだけ上がったくらいの結果でした。

ちなみに、この「崖の上のポニョ」の上にいる作品がジブリの最上位で、その作品は意外にも「借りぐらしのアリエッティ」で1958万7032万ドル(19億5870万円規模)となっています。

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少しずつですが、アメリカでもジブリ作品が浸透しつつあるのかもしれませんが、残念ながら日本でのブランド力とは程遠い状況なのです。

とは言え、日本の2D型のアニメーション映画がアメリカで全く受け入れられていないわけでもなく、1位の「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」は8574万4662ドル(85億7446万円規模)も稼いでいますし、2位の「劇場版ポケットモンスター 幻のポケモン ルギア爆誕」も4375万8684ドル(85億7446万円規模)、3位の「ドラゴンボール超 ブロリー」も3071万2119ドル(30億7121万円規模)を稼いでいます。

このように、日本の2D型のアニメーション映画は、最大の市場であるアメリカでも、まだ勝負はできそうな雰囲気ですが、やはり「ジブリ作品」については日本のカルチャー的な側面が強いように感じます。

そんな中、面白い動きとしては、日本と同じアジア圏で、まだそれほどコンテンツの感覚が定まっていないと思われる中国で、昨年の2019年にやっと「千と千尋の神隠し」が公開され、興行収入4.88億元(約75.6億円)も稼ぐことができたのです!

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これは快挙と言って良い数字で、日本映画にとってはアメリカよりも中国の方がポテンシャルの高い市場になりつつあるように思えます。

ちなみに、2019年の中国の興行収入の1位は、「ナタ ~魔童降臨~」という「3D型の中国国産のアニメーション映画」で、中国の興行収入で歴代2位となる50.01億元(約786億円!)を記録しています。

さて、ジブリ作品は、第80回で紹介したように「もののけ姫」から急激に制作費と興行収入が上がるようになりました。そのため、世の中には様々な「都市伝説」のようなものが多く出ているようですが、ジブリ作品は基本「劇場公開だけで製作費を回収する」というスタンスで作品を作り続けていたそうです。

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そして、「崖の上のポニョ」の時点の対談では、鈴木敏夫Pは、「『風の谷のナウシカ』からずっと、2つの興行以外は、劇場の興行収入だけで黒字になっていた」とのことでした。

ちなみに、その2興行というのは、1988年の「となりのトトロ」(宮崎駿監督)と「火垂るの墓」(高畑勲監督)の同時上映、そして、1999年の「ホーホケキョ となりの山田くん」(高畑勲監督)のことです。

今となっては信じられないのかもしれませんが、確かに当初のジブリ作品というのは、「ブーム」とは程遠く、知る人ぞ知る作品、という感じでした。

そんな中、昔は「同時上映」という“セットの上映”が多く、「となりのトトロ」と「火垂るの墓」といったような、それぞれ制作費の高いダブル高コスト映画を「1つの劇場料金」にしてしまえば、劇場公開だけでは赤字になるのは当然な気がしますね。

なお、他の多くの映画と同様に、これらの作品もDVDや地上波放送などの2次収入で黒字化できたそうです。

このように、スタジオジブリは、意外としっかりとしたビジネススタイルだったのです。(「火垂るの墓」までは、興行収入としてはいずれも10億円未満、といった表現をよく見かけますが、これらは「興行収入」と、昔の用語の「配給収入」というものの仕組みや意味を知らないだけのような気がします)

ところが、この体制を維持できなくなったのが、「後継者問題」でした。

要は、スタジオジブリというのは、実質的に宮崎駿監督と高畑勲監督という2人の偉大な監督のスタジオだったので、2人の高齢化に伴い、制作期間が大幅にかかるようになっていたのです。

制作期間がかかればかかるほど、当然、制作費も膨大になっていきます。

特に、スタジオジブリは、日本のアニメーションスタジオでは珍しく、アニメーターを正社員化・固定給制にするなど、通常の固定費がかかり過ぎていた面があったのです。

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その中で、何とか長い制作期間を経て無事に2013年に宮崎駿監督の「風立ちぬ」と高畑勲監督の「かぐや姫の物語」を作り終え、スタジオジブリの制作機能を2014年に解体することにしたわけです。

今回の、期せずして生まれた、映画館でのリバイバル上映でも日本では新作並みに稼げるという「ジブリ作品の伝説」ですが、「風立ちぬ」で引退宣言をした宮崎駿監督はまた気力を振り絞って今、新作に取り組んでいます。再び新たな「ジブリの伝説」が生まれるのか、楽しみに待っていたいと思います。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

 首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
 10年連続完売を記録し続けている『家計ノート2020』が遂に完成し、「老後に2000万円が必要って本当?」も詳しく解説!
Twitter:@hosono_masa

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