映画界に革命を起こした女性監督の代表作を日本初公開「シャンタル・アケルマン映画祭」スケジュール決定
2022年3月31日 10:00
4月29日~5月12日にヒューマントラストシネマ渋谷で開催される「シャンタル・アケルマン映画祭」のメインビジュアル、スケジュールが決定した。
女性たちの社会や日常での生き方を真摯に見つめた作品群を、トッド・ヘインズ、ガス・バン・サント、ジョナス・メカスらが愛し、現代の映画作家に多大な影響を与えたシャンタル・アケルマン。1950年にベルギーに生まれ、ジャン=リュック・ゴダールの「気狂いピエロ」を観たことをきっかけに映画監督を志した。25歳の時に発表した、主婦の三日間の日常を淡々と描いた「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」が注目を集め、ニューヨーク・タイムス紙には公開時「映画史上最も女性的な傑作」と高く評価された。
今回は「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」のほか「私、あなた、彼、彼女」「アンナの出会い」「囚われの女」「オルメイヤーの阿房宮」の5作品がデジタルリマスター版で劇場初公開される。会期中は、識者によるトークイベントも行われる。プログラム等詳細は公式HP(chantalakerman2022.jp)で告知。4月29日から5月12日ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催、ほか全国順次公開。
ありきたりにも響くこの言葉を残したシャンタル・アケルマンは、今回まとめて上映される5本の作品によってその深遠なる意味を私たちの中に響かせることになるだろう。
砂糖を貪る、じゃがいもの皮を剥く、セーターを脱ぐ、ハイヒールを響かせて歩く、歌を歌う、髪を解き煙草を吸う、彼女たちの、彼らの日常の仕草、ささやかな物語がまさに時間とともに、より大きな物語、歴史の大河へと流れ出していく。
眩暈を起こさせるほどに欲望する他者とは交われどもすれ違っていく。
しかしそのすれ違い、他者への跳躍こそが、私たちを、そして歴史を作っていることをアケルマンの映画は、親密さとともに確認させてくれる。
アケルマン自身が演じる名もなき若い女がひとり、部屋で家具を動かし手紙を書き、裸で砂糖をむさぼる。部屋を出た彼女はトラック運転手と行動を共にし、訪れた家で女性と愛を交わす……。撮影時24歳だったアケルマンによる“私”のポートレイト。
1975年/ベルギー/カラー/200分
ジャンヌは思春期の息子と共にブリュッセルのアパートで暮らしている。湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、 “平凡な”暮らしを続けているジャンヌだったが……。主婦のフラストレーションとディティールを汲み取った傑作。ジャンヌを演じるのは「去年マリエンバートで」(61)「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」(72)のデルフィーヌ・セイリグ。
1978年/ベルギー・フランス・ドイツ/カラー/127分
最新作のプロモーションのためにヨーロッパの都市を転々とする女流映画監督を描く、アケルマンの鋭い人間観察力が光る一本。常に孤独に彷徨い歩く主人公アンナの姿と、日常に溶け込みはしない断片的な空間と時間とを通して、アイデンティティや幸福の本質が絶妙な構成で描き出されている。
2000年/フランス/カラー/117分
マルセル・プルーストの「失われたときを求めて」の第五篇、「囚われの女」の大胆で自由な映像化。嫉妬に苛まれ、愛の苦悩に拘束される虜囚の境地をアケルマンは洗練された表現で描写する。ゴダールの「軽蔑」(63)ヒッチコックの「めまい」(58)をも想起させるこの傑作は公開年の「カイエ・デュ・シネマ」ベストテンで2位に選ばれた。
2011年/ベルギー・フランス/カラー/127分
「地獄の黙示録」(79)のもとになった「闇の奥」で知られるイギリスの作家ジョゼフ・コンラッドの処女小説を脚色。原作の持つ実存主義と家父長制という重苦しいテーマを孕みながらも、アジアの街並みを自在に歩き回る娘を横移動で捉えたカメラが素晴らしく、幻想的なまでに美しい。
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