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ベルリン銀熊賞「偶然と想像」は「ロメールからの影響」 濱口竜介監督が恋愛を描く理由

2021年3月13日 10:00

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ベルリン映画祭会期中に取材に応じた濱口竜介監督
ベルリン映画祭会期中に取材に応じた濱口竜介監督

3月1~5日にオンラインで開催された第71回ベルリン国際映画祭で、新作「偶然と想像」が銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した濱口竜介監督。「ハッピーアワー」(15)の主演女優4人が最優秀女優賞を受賞したロカルノ国際映画祭、「寝ても覚めても」(18)がコンペティション部門に入選したカンヌ国際映画祭に続き、ベルリン初参加による栄誉となった。

ジャンフランコ・ロッシ監督ら審査員たちは、「通常であれば会話や言葉が終わる場面が、この映画では始まりに当たる。そこから発展する深さに、観る者は驚き、当惑させられる。濱口監督が織りなす言葉は本質的なものであり、音楽であり、素材である」と評価した。海外の映画祭をひとつひとつ制覇し、日本映画の新しい波を代表するひとりとなった濱口監督に、新作について語ってもらった。(佐藤久理子)

画像2(C)2021 Neopa/Fictive
――まず本作の成り立ちについて聞かせてください。オムニバス形式の3話構成ですが、全体の構想は7話まで続くそうですね。

「はい、最初の企画から7話と決めていました。まあ今回は実に素直にエリック・ロメールからの影響です(笑)。7という数字はロメールの『木と市長と文化会館/または七つの偶然』(1993)も7だったということがあります(笑)。そして、何か『偶然』という運とかチャンスを扱っているので、7という数字がしっくりと来ました。

成り立ちを言うと、そもそも2018年にフランスで『寝ても覚めても』を公開して、特集上映も組んで頂いたときに、マリー・ステファンさんというロメール映画の編集の方とお話をさせて頂いたんです。そのときにロメールにとって短編というものがどれだけ重要だったかというお話を伺って。僕も短編を作ることは好きなので、とても共感できました。直接的に影響を受けたのは『パリのランデブー』(1995)です。あれも偶然がテーマになっていますが、構成も含めて参考にしています。シリーズを作るというアイディア自体も、ロメールから来ています」

――ロメール映画もそうですが、濱口監督の作品は以前から、恋愛が重要な要素のひとつとしてあり、今回も例外ではありません。濱口監督はつねづね映画でエモーションを描きたいとおっしゃっていますが、恋愛を扱うのはそれが一番、エモーションを描くのに適しているからでしょうか。

「それは一応あると思いますね。特に日本人にとって感情的になる事態というのは多くはない。もちろん、現実には声を荒げる人とかいるわけです。たとえば『半沢直樹』のように、ビジネスの場で感情的になるとか。でもそういうシチュエーションは、僕にとってはそこまで魅力的なものではない。それで自然と、感情が比較的引き出されやすい恋愛ものに落ち着きがちなのだと思います。ただ最終的には恋愛とはちょっと違ったところに着地をしたい。今回の3話も、結果的には恋愛だけど、どの愛も成就はしていないし、どちらかという、ひとりになることも含めて別の関係性に発展している。恋愛は大事だし、描く上で楽しいものではあるんですが、恋愛そのものを描きたいわけではなく、恋愛を通過して出て来るものに興味があるのだと思います」

「魔法(よりもっと不確か)」と題された第1話では、親友が自分の別れた恋人と付き合い始めたことを知ったヒロインが、元恋人に会いに行く。第2話の「扉は開けたままで」は、芥川賞を受賞した大学教授と、教授に落第させられた学生、その彼と「セフレ」関係を持つ人妻の、数奇な巡り合わせ。第3話の「もう一度」は、20年ぶりに再会したと喜び合うふたりの女性の会話から、すれ違いと彼女たちの過去が明らかになっていく。それぞれ「偶然」を発端に発展していく会話劇の展開の面白さと、キャラクターの人間像を巧みに浮かび上がらせる演出に魅せられる。

画像3(C)2021 Neopa/Fictive
――濱口監督の作品ではまた、女性のキャラクターがとても印象的です。今回で言えばとくに第1話の古川琴音さんが演じた女性や、柴崎友香さんの原作ではありますが「寝ても覚めても」のヒロイン、朝子、また濱口さんが共同脚本を執筆された黒沢清監督の「スパイの妻」のヒロイン、聡子などは、周囲を振り回すファムファタルと言えると思います。そうした女性像に興味を掻き立てられるのはなぜですか。

「そうですね、このような強さというのはもちろん男性を通して描くこともできるわけですが、それだと少し嫌なものに映ると思うんです。でも女性を通じて、回りをなぎ倒していくような強さが描かれるのは、どこか社会の価値観をひっくり返すようなところがあるので、爽快なものがある。僕にとって映画というのは“面白い”ということがとても大事なのですが、その場合、男性よりも女性がそのような存在である方が現時点では、面白い。本作の3つの話で言えば、女性が何かよくわからない輝きを放つ瞬間というものに、心が惹かれるところはありました」

画像4(C)2021 Neopa/Fictive
――彼女たちの社会における立ち位置も、濱口監督の書く物語には透けて見えますね。

「物語の全体的な方向性としては荒唐無稽な方向に向かっていきたい、こんなことあるのか、という方向に向かっていきたいという好みはあるのですが、そこに現実的な手続きで至るのがとても大事だと思っています。現実にこんなキャラクターいないよね、という人だけで作られた非現実的な物語にはあまり興味がなくて。現実にこういう人はいるかもしれない、そういう人が気付けばこんなところまで来てしまった、という物語にできることが理想です。なので現実にこういう人が、この状況にいたらいったいどう行動するか、という判断基準はつねに脚本を書くときに持っていないといけない。その場合社会のなかで、いったいどういうことが禁じられているのか、どういうことをこのキャラクターがしてはいけないと思っているのか、ということを判断しながら書くのはすごく大事だと思います。そうすると女性がぶち当たる壁というのは、おそらく男性がぶち当たる壁よりはすごく大きい。それで結果的に、女性を描くことで社会を描けることがあるというのは、『ハッピーアワー』のときに学びました。

自分はあくまで個人の感情を描いているつもりで、社会を描いているつもりはなかった。だけど、海外の映画祭に来てみたら『日本の社会はいまこうなっているんだね』ということを非常にたくさん言われ、なるほどそう見えるのかと。たしかにそれはそうかもしれない、なぜなら女性たちがなぜこんなに苦しい状況に置かれているのかというと、それは社会が彼女たちに与えている障害のようなものが、男性に比べてとても大きいからです」

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