劇場公開日 2018年9月1日

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寝ても覚めても : インタビュー

2018年9月3日更新
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東出昌大&唐田えりかに大きな変革をもたらした「寝ても覚めても」

東出昌大は、「僕の中で、かなり特別な位置にある作品」と強い思いを口にした。唐田えりかは、「この作品のおかげで、前向きになれました」と喜びをかみしめた。2人に大きな変革をもたらしたのは、濱口竜介監督の商業映画デビュー作「寝ても覚めても」。“濱口メソッド”と称される独特の演出によって、演じることと役の人間になることがイコールになる感覚を得られたのかもしれない。コンペティション部門に選出されたカンヌ映画祭にも参加し、それぞれのさらなる飛躍への糧となる作品になったことを感じさせた。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)

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芥川賞作家・柴崎友香さんの原作小説、「ハッピーアワー」を見て「衝撃を受けすぎた」という濱口監督の存在、そして脚本と、「寝ても覚めても」は東出にとってどれも魅力的に映ったが、脚本(濱口監督と田中幸子の共同)に心を奪われた。

「原作ものを映画化するに当たって物語の要素を減らしたり、分かりやすく増やすといった改変がある中で、この映画の脚本にはものすごく興奮しました。本当に宝箱のようで、言いたいセリフがいっぱいあるし、他の人のセリフも素晴らしい。この脚本で撮るのが楽しみでした」

大阪で運命的な出会いを果たした麦と朝子。だが、麦はどこかとらえどころがなく、ある日突然、姿を消してしまう。2年後、東京に出ていた朝子は、麦と容姿がそっくりの亮平と出会い再び恋に落ちる。5年がたち、朝子は秘密にしていた過去を亮平に打ち明け、平穏な生活が続くはずだったが…。

初めての1人2役に、東出はどのように挑んだのだろうか。

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「キャラクターの差異をつけるために工夫するところが多々あると思ったんですけれど、濱口監督が事前のワークショップで作為的な演じ分けをしないでくださいとおっしゃったんです。だから撮影中は、濱口監督の独特の演出方法もあって、タイトルもスタッフも一緒だけれど2本の作品を縫っているような、同じ撮影期間で全然違うものをやっている意識でした」

その独特の演出方法が濱口メソッドと呼ばれるもの。撮影前に本読みを何百回も繰り返すが、セリフはすべて一切の感情を抜いて発するのだという。

「一切のニュアンスを排除して何百回も読むことによってセリフをしみ込ませました。ニュアンスを入れると感情の変化の予測を立て、到達点を設けたお芝居になってしまう。だから、感情を入れるのは本番の1回だけ。それは他の現場と大きく違っていて、刺激的でした」

一方の唐田は、数本のテレビドラマやミュージックビデオへの出演はあるものの、ほぼ新人。それまでは芝居に対してネガティブな考えを持っていたが、こちらもオーディションの後に脚本を読んで気持ちが一変した。

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「お芝居が苦手で、できないし向いてないしといったマイナスなことばかり考えていたんです。やればやるほど、どんどんイヤになる感じがありました。でも、朝子がまるで自分のように感じられて、脚本に感情移入ができたのは初めてでした。受かっているといいなとずっと願っていたので、結果を聞いた時はうれしさで頭が真っ白になったのと同時に、なにか変われるかもと思いました」

ヒロインへの大抜てきというプレッシャーは、「なかったです」とさらりと言ってのけるほど肝が据わっている。これには東出も吹き出したが、現場を共にする“戦友”としてその覚悟をしっかりと受け止めた。

「初めての唐田さんしか持っていない力、純粋さ、手あかのついていないきれいなお芝居があるから、そこは尊敬もするし嫉妬(しっと)もするくらい素晴らしい。上も下も関係ない、皆でフェアにやる共闘戦線を張っている感じでした」

「オーッ」と驚きつつもほおを緩める唐田。その素直な感情表現に初々しさをのぞかせる。

「私はただ、ずっと皆さんに甘えていました。無の状態で現場にいたんですけれど、濱口さんが言ってくださったように、周りの皆さんのお芝居をちゃんと見て聞いていたら、自分の中から出てくるものがありました。本当に皆さんが支えてくださったからです」

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真摯に役と向き合ったからこそ、「ウソがなく、直感で動いてしまうところが似ている」という朝子と徐々に同化していったのだろう。自身のクランクアップとなった街中を走るシーンでは、よからぬ考えが頭をもたげた。

「終わりたくなくて……、走っていて、コケないかなってずっと考えていました。そうしたらコケずに終わっちゃって…。最後の挨拶は泣いてしましましたが、撮影中はずっと夢の中みたいな感じだったので、あまり実感はなかったです」

撮影中に自身のカメラで撮りためていたスナップ写真を見て現実に戻った部分もあったが、しばらくは抜け殻のようになっていたという。その夢見心地はカンヌでも続く。

「『寝ても覚めても』に関することは、すべて夢だったのかなという気がしています。カンヌのレッドカーペットを歩いている時もすごくフワフワした感じでした」

東出も同じような感覚を抱きつつ、自身や製作陣がこの作品に懸けた思いと自信を強調する。

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「撮影中から、プロデューサーさんやスタッフさんがこの映画でカンヌに行きたいとおっしゃっていたんです。誰もカンヌに行ったことがないし濱口監督も初の商業映画なので、極東の草野球チームがメジャーリーグに行くようだと話していましたが、皆で一丸となっているこの時間は奇跡のように素晴らしい、つむがれる物語は必ずやいい作品になるという漠然とした思いはありました。これで通用しないなら、もう何をやってもダメだというくらい、監督の下での純粋無くな映画愛があったんです」

2年前に撮影した「菊とギロチン」を含め、今年だけで「OVER DRIVE」「パンク侍、斬られて候」と出演作が続々と公開。「ピース・ニッポン」ではナビゲーターにも挑戦し、積極的に自らの殻を破っているように映る。特に意識はしていないそうだが、とりわけ「寝ても覚めても」に対しては特別という言葉を何度も使うほど思い入れが強い。

「まだそしゃくし切れていない特別な位置にあるので、クランクアップの時も極限の言葉ってなんだろうと思って、この作品が完成するまで死ねませんって言ったんです。僕のフィルモグラフィの中でも、転機や仕事観といったところで大きな出発点かターニングポイントなのかは分からないですけれど、それくらい特別な作品です」

唐田にとっても、「この作品に出合っていなかったら、多分この仕事をやっていない」と言い切るほどの大きな財産となった。女優としての自信も、少なからず芽生えたようだ。

「ガラッと変わりました。自分の中から出てくるという感覚が初めてだったので、この感覚をこれからも忘れずにやっていきたいとすごく思います。何かつらいことがあったら、濱口さんのところに帰って甘えさせてもらいます(笑)」

ともに日本映画界の中枢を突き進む、期待感をにじませていた。

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