【配信作品おすすめコラム:第13回】話題のハリウッド超大作&ネオ韓国ノワール Netflix本年度屈指の必見2大アクションを斬る!
2020年5月3日 09:00
[映画.com ニュース] 映画評論家・プロデューサーの江戸木純氏が、今や商業的にも批評的にも絶対に無視できない存在となった配信映像作品にスポットを当ててご紹介します!
今月はNetflixの今年のラインナップの中でも屈指の話題作といえる、2本の見応えある必見のアクション映画をご紹介。
まずは、「アベンジャーズ エンドゲーム」(2019)などのアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟の製作で、ジョー・ルッソが原作にも名を連ねるグラフィック・ノベル「Ciudad」(14)をジョーが自ら脚色、クリス・ヘムズワースが共同製作も兼ねて主演し、「アベンジャーズ エンドゲーム」のアクション監督サム・ハグレイヴが長編監督デビューを果たした「タイラー・レイク 命の奪還」。舞台はバングラデシュの首都ダッカだが、撮影は主にインドのアフマダーバードで行われ、ボリウッド俳優も数多く出演する総製作費6500万ドル(約70億円)の超大作だ。
インドの麻薬王の息子が、敵対するバングラデシュの麻薬王アーミル・アシフによって誘拐される。闇の傭兵会社に所属するタイラー(ヘムズワース)は、その奪還を依頼されダッカに飛ぶ。タイラーは傭兵仲間とチームを組み、鮮やかに誘拐犯たちを倒すと麻薬王の息子オヴィを連れて脱出するが、用意した船が襲撃されて仲間は全滅、オヴィとタイラーは逃げ場を失ってしまう。それは奪還作戦の依頼人でもあるインドの麻薬王の側近で、特殊部隊出身のサジュの裏切りだった……。
ハグレイヴの初監督作らしく、全編ハードな、そして見たこともない斬新なアクション・シーンの連続である。格闘、銃撃戦、カーチェイスをそれぞれ個別に見せるだけでなく、長回しのアクションの中にそれらをミックスさせて見る者を圧倒し、随所に声を上げそうになるくらいの驚きでとにかく魅せる。1時間56分アクションだけを見るだけで十分楽しい作品には仕上がっている。
但し、奪還と脱出の物語は薄っぺらかつ単調で新味はなく、まるで中学生が書いたような脚本は突っ込みどころ満載で、随所で破綻している。傭兵チームの脱出作戦はあまりにも強引な突破一本槍、裏をかくひねりや頭脳プレイは皆無、そもそも物語を展開させる裏切り者の行動が間抜けすぎて観客の理解がついていけない。この脚本では従来のメジャー・スタジオでは企画が通らないだろう。ハグレイヴの演出もドラマ部分になるとただの会話になり、映画の勢いが止まってしまう。
キャスト面ではヘムズワースは概ね及第点。ボリウッドからの参加組では、「タイガー・バレット」(18)の演技派ランディープ・フーダーが、サジュ役で壮絶なアクションを披露して最大の見せ場を作って拍手喝采もの。インドの麻薬王を演じるパンカジ・トリパティ(「カーラ 黒い砦の闘い」(18)など)も短い出演ながら存在感を見せる。「バハールの涙」(18)のゴルシフテ・ファラニと、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のデヴィッド・ハーバーが、ほとんど見せ場なしの無駄遣いなのは残念だ。
というわけで、見る価値はあるが残念な部分も少なくないこの作品、ラストにはシリーズ化の可能性を残しているのでぜひ続編も見てみたいが、2作目にはもっと練られた脚本が必要だし、ハグレイヴはアクション監督に徹し、別な総合演出を立てるべきだろう。
一方、韓国映画「狩りの時間」は、近未来を舞台にした青春クライムストーリーが、死と暴力に満ちた緊迫の“人間狩り”サスペンスへと変貌していく新感覚の韓国ノワール。今年の公開作を含めたベストテンにも食い込む可能性もある見逃し厳禁の傑作だ。同作は、今年のベルリン国際映画祭で上映されて好評を博し、韓国では2月26日から劇場公開される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で映画館が閉鎖され、公開の目処が立たなくなったことから、制作会社がNetflixでの世界同時配信に切り替えた。すでに世界各国に劇場上映権や放映権を販売していたことから、海外セールス会社が裁判を起こしたが、その後和解、4月23日に正式に世界同時配信となった。内容もさることながら、公開経緯に関してもまさにタイムリーな1本といえる。
舞台はごく近い未来の韓国。経済は破綻し、街は荒廃を極め、若者たちは未来の見えない状況に行き詰っていた。そんななか、刑務所から出所したジュンソク(イ・ジェフン)と3人の仲間は、何かでかいことをやろうと暴力団が経営するカジノを襲撃する計画を立て、実行する。だが、短絡的な彼らの犯行はすぐに足がつき、組織の逆襲が始まる。やがて、謎の殺し屋(パク・ヘス)が追ってくる……。
まずは、「建築学概論」(12)のイ・ジェフン、「王様の事件手帖」(17)のアン・ジェホン、「パラサイト 半地下の家族」(19)のチェ・ウシク、「それだけが、僕の世界」(18)のパク・ジョンミンという30代前半の韓国映画界のこれからを担う、脂の乗り切った若手演技派スターを揃えたキャストの妙に唸る。個々に演技ポテンシャルの高い彼らの見事な芝居によって、一見ありがちな無軌道な犯罪物語は、青春の焦燥を繊細に織り込む奥行きのある社会風刺となり、さらには韓国映画お得意の熱い友情と絆で感情をくすぐる見応えまでプラスする。
4人を追うのは、Netflixで配信中のシリーズ「刑務所のルールブック」(こちらも傑作)で好評を博したパク・ヘス。この静かなる殺し屋がとにかく凄い。高倉健や松田優作の雰囲気も漂わせた彼の登場は、モンスター級のインパクトで映画を一変させ、映画は一気にスリリングなサスペンスホラーと化す。
長編はこれが2作目となるユン・ソンヒョン監督は、これまでの韓国映画にあった血まみれで内臓感覚満載の粘着質的なバイオレンスを避け、全編ソリッドで冷たく乾いたタッチを貫く。但し、韓国映画ならではの兄弟愛的“友情”は排除せず、温度の低い画面の奥でそのエモーションを静かに燃焼させ続ける。台湾を逃亡と復活の起点に設定するあたり、
この監督、ジョン・ウー監督と「男たちの挽歌」のファンであることも確実だ。
この作品はいわば、日本映画における「仁義なき戦い」5部作ののちに作られた工藤栄一監督の「その後の仁義なき戦い」(1979)、あるいは香港映画における、80年代に一世を風靡した香港ノワールの後に作られた90年代の「欲望の街 古惑仔」シリーズのように、従来の韓国犯罪映画へのカウンター的な意味も強い、いわばネオ韓国ノワール。韓国映画ファンだけでなく、幅広い映画ファンの支持を得ることだろう。「パラサイト 半地下の家族」のアカデミー賞受賞云々だけでなく、世界的注目を受けて韓国映画は、また1段階確実に進化したように思える。
「タイラー・レイク 命の奪還」と同じく、ラストはさらなる激しいリベンジが繰り広げられるだろう続編の可能性を匂わせて終わる。ソンヒョン監督の次回作への大きな期待と共に、この物語の続きは誰もがぜひ見たいと思うだろう。
映画「タイラー・レイク 命の奪還」と「狩りの時間」は、Netflixで独占配信中。
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内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
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