【パリ発コラム】2015年カンヌ映画祭総評 ディレクター交代でセレクションに大胆なリフレッシュ感
2015年6月3日 16:10
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[映画.com ニュース]5月24日に終了した、今年のカンヌ国際映画祭。パルムドールに輝いたジャック・オーディアールの「Dheepan」をはじめ、男優賞にフランスのベテラン、バンサン・ランドン、女優賞はルーニー・マーラ(「キャロル」)とフランスのエマニュエル・ベルコ(「Mon roi」)が分け合い、今年はフランス映画が目立つ結果となった。
フランス勢がそれほど傑出していたかというと、そんなことはない。海外の批評家に人気の高かったパオロ・ソレンティーノの「Youth」やナンニ・モレッティの「My Mother」は無冠に終わり、トッド・へインズの「キャロル」をパルムドールに推す声も多かった。「キャロル」は主役のケイト・ブランシェットとルーニー・マーラのアンサンブルであることを考えると女優賞は奇妙な配分だし(ベルコはいい味を出しているとはいえ)、ランドンの男優賞に異存はないが、それなら「Youth」のマイケル・ケインとハーベイ・カイテルに特別賞をあげても良かったのではないか、と思える。
フランスでは授賞式直後にマニュエル・バルス首相やフルール・ペルラン文化・通信大臣が賛辞をツイートした。今年はもともとコンペティションにフランス映画が5本もあり、明らかに映画祭側が地元フランス映画をサポートする姿勢が伺えた。それを審査員たちがどう感じたのかは知る由もないが、確立が高かったのは確かだ。もっとも、ル・モンド紙は「フランス勢の矛盾した勝利」と銘打ち、パルムドールについては、「オーディアールのフィルモグラフィのなかでは説得力に欠ける作品」と評した。
もうひとつ、今年は社会派が評価されたという見方もある。「Dheepan」は、スリランカからフランスに不法入国した移民が、パリ郊外のスラムで地元の若者たちから屈辱的な扱いを受けるストーリーで、ヨーロッパで深刻な移民問題を扱っている。グランプリをとったハンガリーの新鋭ネメシュ・ラズロの「Son of Saul」は、第2次大戦下の収容所でナチに仕えるユダヤ人の物語。インパクトのあるカメラワークやオチの効いたストーリーは、これが初長編とは思えない出来で、人道的テーマといい、いかにも映画祭で評価されやすいタイプの作品。V・ランドン主演の「The Measure of a Man」も失業問題を扱った、直球社会派映画。脚本賞に輝いたメキシコの若手、ミシェル・フランコの「Chronic」も、病人の看護士の孤独を見つめ、現代社会の問題を浮き彫りにする。審査員賞を受賞したギリシアの奇才ヨルゴス・ランティモスによる「The Lobster」は、近未来を舞台にパートナーを探す“合コン”に参加する人々をとりあげた一見珍妙な作品に見えるが、現代社会の比喩と批評精神に満ちている。こうした傾向が、たとえば是枝裕和の「海街 Diary」のような、より叙情的、感傷的な作品には不利だったのかもしれない。純粋に芸術性が評価されたのは、ホウ・シャオシェンの「黒衣の刺客」だ。マーシャル・アーツを見せるという意図ではなく、映像の審美性において、リー・ピンビンのカメラワークは見事という他はない。
どちらかといえば新鮮な若手が並んだコンペティションに反して、今年のある視点部門はコンペを経験済みの面子が目立った。オープニングを飾った河瀬直美の「あん」、同部門の監督賞を受賞した「岸辺の旅」の黒沢清、アピチャッポン・ウィーラセタクンの「Cemetery of Splendour」など。さらに監督週間部門も、アルノー・デプレシャン(「My Golden Days」)、フィリップ・ガレル(「In the Shadow of Women」)、ミゲル・ゴメス(「Arabian Nights Volume1,2,3」)、ジャコ・バン・ドルマル(「The Brand New Testament」)、三池崇史(「極道大戦争」)ら強者ぞろいだった。とくに「熱波」で知られるゴメスの新作は、三部作計6時間23分というフォーマットとともにその芸術性が高く評価された。
昨年までの映画祭ディレクター、ジル・ジャコブが引退し、今年からは有料テレビ・チャンネル、カナル・プリュスで長年映画部門を統括していたピエール・レスキューにバトンタッチ。これまでどうしてもジャコブの次、というイメージの強かったディレクター、ティレリー・フレモーとレスキューの二人三脚という印象で、それゆえにセレクションも大胆なリフレッシュ感があったのかもしれない。その分併設部門にベテランが流れたようで、全体的にレベルアップが感じられた年だった。(佐藤久理子)
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