劇場公開日 2010年6月12日

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アウトレイジ : インタビュー

2010年6月10日更新

その男、凶暴につき」(89)での衝撃的なデビュー以来、「ソナチネ」「キッズ・リターン」「HANA-BI」「座頭市」といった名作・話題作を次々と世に送り出してきた北野武監督の最新作「アウトレイジ」が今週末より公開となる。世界的映画作家としての地位を確立した後の近作「TAKESHIS'」「監督・ばんざい!」「アキレスと亀」では、一人の芸術家として自らの資質に向き合う内省的な作品を作ってきた北野監督だが、本作では一転、原点である暴力映画に立ち返り、ヤクザ同士の熾烈な権力闘争を描く本格娯楽群像劇を作り上げた。映画監督になってから21年、再び原点に立ち返り、自身初となる群像劇を作った真意とは? 北野監督に話を聞いた。(取材・文:高崎俊夫

北野武監督インタビュー
「セリフを多くしたら、途中から、言葉ってけっこう面白いなと思い始めてね」

映画監督デビューから、早21年。今年1月で63歳になった北野武監督
映画監督デビューから、早21年。今年1月で63歳になった北野武監督

今年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、賛否両論を巻き起こした「アウトレイジ」は、「BROTHER」(01)以来、久々にヤクザを主人公とする苛烈なバイオレンス映画である。

「『TAKESHIS'』あたりで、ゴダール病、フェリーニ病にかかっているって言われてね。映画を何本か撮ると、単なるエンターテインメントではなく、映画と自分との関係とかを難しく考えたくなって、必ず、あれにひっかかるらしい(笑)。それで、今度はもうちょっとエンターテインメントをやろうとした時に、俺が一番得意なのは暴力映画なんでね。ただ、初期の『ソナチネ』みたいな狭い空間で自分の精神と一人で闘っている暴力の世界に戻るのではなくて、わかりやすい群像劇にすればどうかなと思ってね」

加瀬亮の役は撮影中に改良されたという
加瀬亮の役は撮影中に改良されたという

これまで沈黙の美学を遵守してきた北野映画とはガラッと変わり、全篇、ヤクザ同士の怒号が飛び交い、饒舌なダイアローグと笑いが混交しているのも際立った特色だ。

「今回、これまでの北野組の役者を全部入れ替えたし、これだけの人数がそろって、ヤクザ組織内部の上下、ヨコの人間関係があると、説明しないと話が通じないから、それでセリフが増えちゃった。前半、組の連中が、一人のヤクザを囲んでわんわん言うとこなんか、完全に漫才の間だし、もう言葉のリンチだねって(笑)。

この映画はロケ地が少なくて、ビルとか家の中のシーンが多い。となると、ただ黙っているわけにはいかないんで、ばんばんセリフを入れてったら、途中から、言葉ってけっこう面白いなと思い始めてね。ただ、加瀬(亮)さんは、これはヤクザっぽく見えない感じがあって、髪型を変えたり工夫したけど、その分、セリフを少なくして、キレたら怖い奴に仕切り直したら、結果的にすごく良くなった。石橋蓮司さんのヤクザは、撮っている時はあんなに面白いとは思わなかったんだけど、編集でシーンをつないでみると、なぜかお笑いになっちゃった(笑)。暴力的にきついシーンなんで、ガス抜きになったんだけど」

北野映画では禍々しさの象徴である車の登場シーン
北野映画では禍々しさの象徴である車の登場シーン

しかし、ゴダールと同様、北野映画では、自動車が不吉さ、禍々(まがまが)しさのシンボルとして登場してくる。

「車のシーンというのは、2パターンしかないような気がする。ヤクザの親分が乗っていて、何か相談しているところと、あとは狙われるところと。ストーリーをつくっていく段階で、車に乗ったら、事件を想定する。そのために車に乗せちゃうみたいなことがあるよね。今回も、カーチェイスのシーンで、バーンとぶつかるところは撮影も編集も大変だった。今は、車の性能がいいからホイールスピンするようにはできていない。だから、細かいカット割りが必要だったね」

北野作品は編集に充分な時間をかけるが、余分なカットを撮っておくことはほとんどないという。

新しいタイプのヤクザ像をつくりあげた三浦友和
新しいタイプのヤクザ像をつくりあげた三浦友和

「北野組はリハーサルが一回しかなくて、すぐ本番にいっちゃうんで、新しい役者さんには『えっ、もう回すんですか』って驚かれる。普通だと、5、6回ぐらいリハーサルをやって、本番なんだけど、俺は、出が漫才師なんで、客前の一発勝負だから、役者だって一発勝負って考えちゃう。でも、撮影途中から、みんなテンポに慣れてきて、リハーサルの段階でもう本番さながらの芝居を自分たちでつくってきてくれたから、すごくよかった。

会長役の北村(総一朗)さんはベテランだから、リハーサルではやらないことを、本番になったら思いっきりやるんだよね。劇中、北村さんが三浦(友和)さんの頭を殴るシーンがあるんだけど、あの三浦さんの顔がウッとなる。その表情がよくてね。このクラスの役者さんを上に持ってくるとやっぱりいい。あれを三浦さん以外の、顔の怖いヤクザ映画のスターが演じたら、頭のいいインテリヤクザとか新しいヤクザの感じが出なかったと思うね」

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